「猫ばかり優先して!」40頭以上、多頭飼育崩壊から救出しても…
批判の声受けるボランティアの思い
2022年10月10日(月)
犬や猫、ウサギなど、多頭飼育で動物たちを苦しめ、やがて崩壊してニュースとなる事例が後を絶たない。
NPO法人『ねこけん』でも、これまで数多くの崩壊現場から猫や犬を救出してきた。
ときにはテレビ番組でその様子が紹介されることもあったが、多くは応援の声ながら、批判を受けることもあったという。
代表理事・溝上奈緒子氏に、それでも保護活動を続ける思いを聞いた。
多頭飼育崩壊の現場、狭い隙間にも猫が…(写真:ねこけんブログより)
■アメショが40頭以上も…、猫の不妊・去勢手術をしなかった母娘
今年8月、ある夫婦の元で暮らしていた猫・梅福が虹の橋を渡ったと、『ねこけん』に知らせがきた。
最期まで幸せに、愛されて生きた梅福。
もともとは、40頭以上もの多頭飼育崩壊現場から救われた猫だった。
多頭飼育崩壊の通報が入ったのは、今から5年前の2017年のこと。
アメリカンショートヘアや、そのミックスの猫たちが、実に40頭以上も暮らす現場。
飼い主はある母親と娘で、「金銭面と日々の掃除、いろんな家具などが壊されて、私たち家族は精神的にも限界に近づいています」とSOSを訴えていた。
だが飼い主の母娘は、子猫を可愛がるばかりで、まったく不妊・去勢手術をしていなかった。
室内は汚れきって悪臭がただよい、エアコンは数年前から故障してしまっている。
そんな劣悪な環境のなかで猫たちはどんどん増え、可愛がっているはずの子猫は大人の猫に食べられてしまうような状況。
それでも母娘に悲壮感はなく、「プラス思考なんです」と明るい笑顔を見せていた。
これには『ねこけん』ボランティアメンバーも、大きな違和感を抱いたようだ。
「この方もそうだったのですが、こうした純血種や人気種を飼育する他のブリーダーにも、多頭飼育崩壊を起こすケースが多いんです。もちろん、しっかりしたブリーダーさんもいますが、可愛いというだけで無責任に増やして、面倒を見切れなくなる人も多いのはたしか。その時もレスキューに入りましたが、なんだか後処理をしただけのようになってしまった。なかにはまだ、ブリーダーを続けている方もいるようです」
■レスキューした保護団体に応援と批判、「なにか考えるきっかけになれば」
多頭飼育崩壊の現場、40頭以上のアメショ、ミックスの猫たち(写真:ねこけんブログより)
このレスキューの様子はテレビ番組でも取り上げられ、大きな反響を巻き起こした。
「不要な猫の処分をボランティアにやらせたのでは?」「動物虐待! 警察へ通報して!」というブリーダーへの怒りの声。
「がんばって!」というボランティアに対する応援の声。
だが一方で、「なぜ、かっこつけてレスキューするのか?」「獣医師の技術の下品な安売りはやめて」「何もしない方が良いこともある!」という、批判の声も上がった。
「大半は応援してくださる方なのですが、批判の声もやはりあります。全員が支持してくださるわけではないので、それは仕方のないことだと思います」
実際、地域猫の不妊・去勢手術や保護活動にしても、「猫ばかりを優先して、迷惑をこうむっているのは人間だ」という意見もある。
だが、こうした保護活動は猫の命を救う一方で、外で生きる猫を減らし、害を受ける人がいなくなるように努める一面もあるのではないだろうか。
溝上代表によると、この多頭飼育崩壊が起こった5年前と比べ、徐々に世間の理解も広まりつつあるという。
「テレビなどのメディアで頻繁に飼育崩壊や虐待が取り上げられたことにより、だんだんと世間の空気も変わってきた気はします。それまでは、こうした悲しい事実があること、愛護センターでは殺処分されることもある…ということも知られていなかった。今は猫への関心度もアップし、SNSやYouTubeなどを通じて、問題が広く知れ渡りやすくなったと思います」
とはいえ、冒頭のように現在も多頭飼育崩壊や虐待のニュースは多く、問題が解決したとは言い難い。
それでも「多くの人に知っていただき、なにか考えるきっかけになれば」と代表は語る。
一足飛びに殺処分ゼロ、野良猫ゼロ、多頭飼育崩壊ゼロとはいかないかもしれないが、少しでも改善することを願って、全国のボランティアは活動し続ける。