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捨てられ線路伝いに歩いていた犬のプーニャン

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捨てられ線路伝いに歩いていた犬のプーニャン…
 救われて入居者に生きる力を与え続ける

2022年9月19日(月) 

医療・健康・介護のコラム
ペットと暮らせる特養から 若山三千彦

神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」では、犬や猫と一緒に暮らすことができます。
施設長の若山三千彦さんが、人とペットの心温まるエピソードを紹介します。

ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」には、入居者と同伴入居した犬や猫のほかに、ホームの飼い犬、飼い猫もいます。
それは、今はペットを飼っていないけれど、もう一度、犬や猫と暮らしたいと希望して、「さくらの里山科」を選ぶ高齢者がいるからです。
そのような高齢者は皆、犬や猫を長年飼い続けてきた方ばかりです。
しかし、自身が高齢になった時、何かあったらペットを不幸な目に遭わせてしまうと考え、飼い続けることを諦めたのです。
そのような高齢者が、ここに入居すれば、もう一度、犬や猫との暮らしを取り戻せると希望してやってきます。
10年前、「さくらの里山科」の開設前の事前入居申し込みの際には、自分の愛犬、愛猫を連れてくる同伴入居の希望者は現れませんでした。
ところが、犬や猫と一緒に暮らしたいという希望者からの入居申し込みはありました。
そこで、同伴入居を待たず、ホームで犬と猫を飼おうと決断したのです。
その結果、ホームの開設と同時に入居したのが、後に私たちが「 看取 り犬」と呼ぶことになる、保護犬の「 文福 」だったのです。
開設1年目は、文福のような保護犬や保護猫出身の何匹かがホームの家族になりました。
その中に、「プーニャン」という犬がいました。


ホームの飼い犬プーニャン。元保護犬で人懐っこかった

プーニャンは、2012年の6月にホームにやってきました。
「さくらの里山科」で暮らす保護犬や保護猫たちは、すべて動物愛護団体「ちばわん」さんが連れてきてくれました。
ちばわんさんは、保健所(動物愛護センター)から保護犬、保護猫を引き取り、人と暮らすためのトレーニングをして、飼い主を探すという活動をしています。
文福も、保健所から、ちばわん経由でやってきました。
しかしプーニャンは、ちばわんのスタッフの知り合いが直接、保護をしたという、ちょっと珍しい経過をたどっていました。
保護した方は、プーニャンが一匹でとぼとぼと線路を歩いているのを見つけたそうです。
保護された当時、推定7~8歳でした。
フィラリアという寄生虫による病気を患っていました。
蚊が媒介する病気で、かつては犬の宿病でした。
現在は治療可能であり、そもそも予防薬を投与していれば感染することがないので、全く怖くない病気です。
しかし、プーニャンはフィラリアに感染しており、病状は重く、激しくせき込み、血を吐いていました。
プーニャンはとても人懐っこい犬です。
大喜びして、じゃれついてくるタイプではありませんが、静かにそっと人に寄り添ってきました。
保護した当初から、上品な雰囲気で、とても野良犬には見えなかったそうです。
間違いなく人に飼われていた犬でしょう。
飼い主は、犬を飼っている人なら常識であるフィラリア予防薬を飲ませてくれず、病状が重くなったから捨ててしまったのだろうと私は推測しています。
飼い主に捨てられ、病気のため体調が悪く、空腹で、途方に暮れていたことでしょう。
運よく保護されなかったらどうなっていたかと思うと、ぞっとします。
プーニャンは「さくらの里山科」での暮らしにすぐ慣れました。
いつも入居者に寄り添っていました。
入居者の体調が悪くなった時は、優しい瞳で見つめていました。そんなプーニャンを入居者は皆かわいがっていました。

◆くまなく歩いて回り…一緒に暮らしてきた入居者と犬たちに別れを告げ

お気に入りのソファで寝るプーニャン

プーニャンを特にかわいがっていたのが、高橋和代さん(仮名、80歳代)です。
高橋さんが最後に飼っていた犬も、プーニャンにそっくりだったそうです。
「ほら、プーニャンにご飯をあげてよ」。
高橋さんは元気な口調で、いつも気にかけていました。
それほど大切にしていたのですが、決して抱っこしようとはしません。
職員がプーニャンを抱き上げて、車いすに座る高橋さんの膝に乗せようとすると、断固として拒むのです。
プーニャンにそっくりだったという愛犬が死んだ時、もう犬は抱っこしないと心に決めていたからだそうです。
抱っこはしませんでしたが、いつも優しくなでていました。
プーニャンも、自分を気にかけてくれる高橋さんのことが大好きで、高橋さんの車いすの脇によく座っていました。
プーニャンのフィラリアは、薬によって完治しました。
肝臓と胆のうも悪かったのですが、服薬治療で進行を抑えており、とても元気な日々を過ごしていました。
しかし、「さくらの里山科」に来てから4年後の2016年4月、突然、 嘔吐 して立てなくなってしまいました。
緊急入院したところ、肝臓と胆のうの状態が急激に悪化していました。
半年ごとに行っている定期健診では、特に病状の進行は見られなかったのですが、高齢のため、急激に悪化したようです。
この時、プーニャンは、推定11~12歳。
人間なら60歳代。
超高齢ではありませんが、保護されるまで、いろいろな病気を放置されていた体にはダメージが蓄積されていたのかもしれません。
その後、一時的に回復し、ご飯も食べられるようになりました。
腹水がたまってしまうので、週に1度、動物病院に行って抜いてもらいながら4か月間、比較的、元気に過ごすことができました。
プーニャンが死んだのは2016年8月16日のことです。
この日、プーニャンはいつもよりずっと早い、朝3時半頃に起き出して、ユニット(区画)中をくまなく歩いて回りました。
そんなことは初めてでした。
7時頃には、隣のユニットを訪れていました。
朝、隣のユニットを訪れたのも初めてです。
一緒に暮らしてきた入居者と犬たち皆に別れを告げていたのかもしれません。
プーニャンが死んだ後、高橋さんには新しい日課ができました。
毎朝、プーニャンの 位牌 の前の水を交換して、手を合わせるのです。
その姿を見て、私たちは改めて、ペットが持つ力を実感しました。
犬たちと一緒に暮らした日々の思い出は、犬たちが死んだ後も、入居者に生きる力を与え続けているのです。

【写真3枚】いつも入居者に寄り添い、生きる力を与えたプーニャン

左からプーニャン、ルイ、チロ。同じユニット(区画)で暮らしていた


体調が悪くなった入居者を優しい瞳で見つめたプーニャン


ドッグランでアミちゃん(右)と一緒のプーニャン

(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長  1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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