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いきもの語り 上野動物園に初の子ゾウ誕生

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いきもの語り 上野動物園に初の子ゾウ誕生
 花子の悲劇も 命の大切さ伝える

2022年8月20日(土)  

毎年、夏になると語られる上野動物園(台東区)のゾウをめぐる悲話がある。
終戦前の「戦時猛獣処分」で、餓死した「花子」のことだ。
餌をもらおうと芸を見せながら衰弱していった花子の悲劇は、童話「かわいそうなぞう」などによって後世に伝えられている。
その上野動物園でいま、アジアゾウの子供、アルン(雄1歳)がゾウ舎の屋外を元気に走り回っている。
母親のウタイに寄り添い、鼻をぎこちなく使って水浴びする姿は愛らしい。


母親のウタイと寄り添って歩く子ゾウのアルン=令和3年11月18日(上野動物園提供)

来園者にまじって、そんなアルンの様子を見つめている職員がいた。
教育普及課長の大橋直哉さんだ。
一昨年10月に誕生したアルンの成長をずっと見守ってきたという。
「当園にとっては初めてのゾウの赤ちゃん。ここまで順調に育ってきて、職員一同、胸をなでおろしている」と話す。
同園によると、ゾウの繁殖は非常に難しく、国内でもこれまで10件程度しか成功例がない。
理由は、発情の見極めが難しいことや、ペアでの飼育例が少ないこと、ペアリングのために巨体を移動させることが難しいことなどがある。
同園もゾウを初めて飼育したのは明治21年で130年以上も前だが、繁殖は一度も成功してこなかった。
アルンの出産は職員にとって緊張と不安の連続だった。
ウタイは流産経験があるが出産は初めてで、「ウタイ自身も驚いたのか、出産直後は乳をあげなかったんです」。
大橋さんは当時の困難を振り返る。
乳房にアルンの口をあてがうなど試行錯誤したが、うまくいかず、ブドウ糖を与えて命をつないだ。
「3日目の夜、アルンが自ら近づいて乳をせがみ、初めて授乳させたときには、ほっとしました」。
生育はこうして軌道に乗った。
それ以降はおおむね順調に育ち、出生時約120キロだった体重もいまは約700キロ。
ただ、扉に鼻をひっかけてケガをするなど、冷や汗は絶えない。
大橋さんは「待ちに待った子ゾウ。病死した父親のアティの命の継承でもある。これからも見守っていきたい」と成長の喜びをかみしめている。

同園の職員には、花子の悲劇に向き合った飼育員たちの思いが、いまも受け継がれているという。
本土空襲が現実味を帯びる中、おりが攻撃を受けて猛獣が逃げ出す事態を恐れ、ライオンやトラ、クマなどとともに3頭のゾウが処分の対象となった。
そのうちの一頭が花子だった。
毒殺が試みられたが、毒入り餌を食べず、皮が厚いため注射針も通らず、餓死させることになった。
やせ衰える中でも、芸をして餌を求める様子に飼育員たちはいたたまれなくなり、とうとう餌を与えてしまう。
しかし、3頭ともやがて衰弱死を迎え、飼育員たちは打ちひしがれる。
今年開園140周年を迎えた上野動物園。
大橋さんは「動物園は平和だからこそ存在できる。動物園が存続できる時代を作っていかなければならない」と思いを新たにし、「アルンをはじめとした動物たちを通し、命の大切さを伝えていきたい」と語った。

(外崎晃彦)


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