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「高級ペットフード」を愛犬・愛猫に与えてはいけない意外な理由

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「高級ペットフード」を愛犬・愛猫に与えてはいけない意外な理由

2022年7月7日(木) 

◆ペットフード市場を牽引するプレミアムフード
愛犬・愛猫の食生活に欠かせないペットフード。その市場規模がどれくらいあるかご存じだろうか。
一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2020年度は約3376億円。
2015年度は2655億円なので、ペットフード市場は拡大傾向にある。
ペットフード協会は、犬と猫の推定飼育頭数も公表しており、それによると2020年度は1605万2000頭。
2015年度は1629万1000頭で「コロナ禍でペットの需要が増えている」といった報道をよく目にするが、じつは犬と猫の合計飼育頭数はやや減少傾向にある。
それにもかかわらずペットフード市場が伸長しているのは、高価格のペットフード、いわゆる「プレミアムフード」を購入する飼い主が増えているからである。
今や愛犬・愛猫は、家族同然。
できるだけ良質なもの与えたいと考える人が多いのは、なんら不思議ではない。
プレミアムフードと聞くと、「良質なフード」を思い浮かべる人が多いだろう。
しかし、プレミアムフードを標榜するにあたり、一定の基準を満たしたり、審査に合格したりする必要はない。
ペット栄養管理士・ペットフード販売士でもある筆者は10gあたりの価格が20円を超え、原材料にこだわったフードをプレミアムフードと見なしている。
プレミアムフードは定義がハッキリとしていないため、一般的なフードより質が良いとは限らない。
それどころか昨今は問題のある広告表示をする製品も多い。


photo by iStock

◆プレミアムフードにありがちな誤解を生む広告表示
たとえば、次のような広告表示をする製品は要注意である。
「ヒューマングレード」
人間の食品と同基準の原材料あるいは製造方法であることをアピールするために使われる。
いかにも質が高そうだが、人間の食品は「食品衛生法」で、ペットフードは「ペットフード安全法」で規制されていて、その基準は異なる。
ヒューマングレードという言葉は「人間基準だからペットにも良い」という誤解を生みやすく、問題のある表現だ。
「グレインフリーだから消化しやすい」
近年、グレインフリー(穀物不使用)のペットフードがブームだ。
犬は肉食寄りの雑食、猫は完全な肉食なので、穀物を使わないフードのほうが適しているというロジックである。
しかし、普通のペットフードに使用されている穀物は加水・加熱され、犬猫が問題なく、消化・吸収できるようになっている。
またプレミアムフードがウリにするグレインフリーが犬や猫の健康に良いという科学的根拠も存在しない。
グレインフリーのフードはたんぱく質が多めで、それをアピールするメーカーも見られるが、たんぱく質は必要以上に摂取してもメリットがない。
むしろ肝臓や腎臓に負担をかけることになる。

◆「(添加物を使用しているのに)無添加」
主食用のペットフード(総合栄養食)には、犬や猫に必要な栄養素を満たすためビタミンやミネラルが“添加”される。
しかしビタミンやミネラルを添加しても、健康に良いイメージを抱かせようと「無添加」と表示するプレミアムフードが見受けられる。

◆一般的なフードを中傷するメーカーも
ペットフードにお金をかける人ほど、原材料を重視する傾向にある。
だからプレミアムフードの多くは原材料にこだわり、例として挙げたような“飼い主に刺さりやすい広告表現”をしがちだ。
一般的なペットフードは原材料や製造方法に問題があると言いたてるプレミアムフードの製造メーカーも少なくない。
たとえば、高単価のウエットフードを製造するメーカーは「ドライフードは加熱や殺菌によって栄養価が失われている」と主張する。
確かに一部のビタミンは加熱により栄養価が減少するが、それを見越した栄養設計をしているので、栄養不足になることはない。
「安いペットフードは4Dミートを使用している可能性がある」と主張するケースもあった。
4DミートとはDead(死んだ)、Diseased(病気だった)、Dying(死にかけた)、Disabled(障害があった)のいずれかに該当する動物の肉を指すが、これはネット上のウワサにすぎない。
4Dミートのような肉は味も栄養価も不均一で、健康に害を及ぼす可能性が高い。
そのうえ供給量も不安定だ。
使用するにはリスクが高すぎる。
そもそも犬猫の健康を損なう原材料の使用や製造工程は「ペットフード安全法」で禁じられているし、法律を順守しているかFAMIC(農林水産消費安全技術センター)から抜き打ちで検査を受けることもある。
2019年5月~2022年3月にかけて、立ち入り検査は682回、ペットフードの試験は325回行われているが、違反はゼロである。
こうした法律と制度により、ペットフードの安全性は確保されていると考えられる。
したがって、ペットフードで重視すべきは原材料や製造方法ではない。
とくに重要なのは「栄養バランス」と「嗜好性」だ。
栄養素の過不足がなく、一定以上の嗜好性を備えているフードが望ましい。

◆良質なフードの製造には莫大なカネと膨大な時間が必要

photo by iStock

栄養バランスと嗜好性を追求するには、
1、今までの研究結果をもとに、フードの栄養設計を行う。
2、そのフードを犬や猫に与え、食いつきや健康状態を観察する。
3、結果をもとに、フードを改善する。
こうした研究開発を繰り返す必要がある。
そして重要なのは「規模」と「期間」だ。
たとえば「猫10匹・6か月の研究データをもとに開発したキャットフード」と「猫300匹・10年間の研究データをもとに開発したキャットフード」なら、信頼できるのは当然後者だ。
ペットフードの研究に力を入れているメーカーは、独自の研究施設を持ち、それをホームページなどで公開している。
しかし、プレミアムフードを製造するメーカーは、ベンチャーや零細企業が多く、大規模かつ長期的な研究が行われていない。
そのフードを長期間、愛犬や愛猫に与えたら、どんな健康状態になるのかわからないのである。
犬猫の健康を左右するペットフードは科学的根拠が問われる製品だ。
そして科学的根拠は、研究開発に莫大なコストをかけなければ得られない。
ペットフードを選ぶときは「プレミアムフード」という言葉に惑わされず、メーカーが研究開発に力を入れているか、しっかり確認してほしい。

奥田 直樹(ペット栄養管理士・ペットフード販売士)

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