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猫と一緒に暮らすことの幸せをしみじみ実感

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猫と一緒に暮らすことの幸せをしみじみ実感…
ペットと一緒にごく普通に老人ホームに入る、本来そうでなくては

2022年7月6日(水)  

ペットと暮らせる特養から 若山三千彦

ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」には、開設以来10年間で、18人の高齢者が19匹のペットと同伴入居しました。
愛猫を連れて来た入居者が7人、愛犬を連れて来た入居者が11人です。
ペットの数の方が1匹多いのは、愛猫2匹と一緒に入居した方がいるからです。
なお、同伴入居した犬、猫たちに加え、ホームの飼い猫・飼い犬になった元保護猫が9匹、元保護犬が8匹います。


立花さんとミーちゃんは自由で気ままな生活を満喫

これまで本コラムで紹介してきたのは、末期がんで余命3か月の方、難病を患っていた方、愛猫と一緒に死のうと思い詰めていた方など、重い人生のドラマを背負った方ばかりでした。
そのような方々は、愛猫、愛犬と必死に生きてきて、一筋の光にすがるようにして「さくらの里山科」にたどり着いたのです。
その姿を見て、私はペットと暮らせる特別養護老人ホームを作ってよかった、と心から思いました。
でも、本当はそれではいけないのです。
ペットと同伴入居する高齢者が重いドラマを背負った方ばかりというのは、今の社会の問題だと言えます。
本来は、愛猫、愛犬と一緒に気軽に、ごく普通に老人ホームに入る、そうでなくてはいけないと思います。
そこで今回は、愛猫と共に普通に入居した高齢者を紹介します。
現在、12歳のかわいい“女の子”のミーちゃんと一緒に立花コトさん(仮名、女性、80歳代後半)が入居したのは、2020年の春。コロナ禍による最初の緊急事態宣言が発令される少し前のことでした。
入居を申し込んだのは、ケアマネジャー(介護支援専門員)でした。
ケアマネジャーは、高齢者の介護の相談支援を行う専門職です。
基本的には、在宅介護に関する相談支援が職務ですが、特別養護老人ホームの入居申し込みをやってくれるケアマネジャーも少なくありません。
ケアマネジャーが入居を申し込んできた理由は、立花さんが認知症のため、独居生活を継続するのが難しい、ということでした。
立花さんは当時、認知症行動の一つである徘徊(はいかい)をするようになっていました。
徘徊の症状が進行すると、屋外をさまよった末、自宅に戻れなくなります。
最近、多数の認知症高齢者が行方不明になっているというニュースに触れましたが、それは徘徊して自宅に戻れなくなった場合が多いのだと思います。
幸い、立花さんは自宅に戻れなくなることはまだありませんでした。
何時間も徘徊することが頻繁にありましたが、毎回自力で自宅に戻っていました。
しかしケアマネジャーは、近い将来、自宅に戻れなくなる日が来るだろうと懸念し、離れて暮らす家族の了承を取り、特別養護老人ホームに入居を申し込むことにしたのです。
ただし立花さんは愛猫のミーちゃんと“2人”暮らしでした。
そして「ミーちゃんとは絶対に離れない」と言っていたのです。
認知症でもミーちゃんを何よりも大切にする気持ちだけは揺るぎませんでした。
そこでケアマネジャーは、「さくらの里山科」に申し込んだのです。

◆すばらしかったケアマネジャーの英断と立花さんの決断

日々の生活を悠々と楽しんでいるミーちゃん

この時、立花さんは要介護3でした。
特別養護老人ホームに入居できるのは要介護3以上と決まっています。
従って、立花さんは入居基準をぎりぎり満たしていたわけです。
入居申し込み者には、要介護4、5の方がたくさんいます。
その方々は要介護3の人よりは重度の状態であり、入居の必要性が高いと判定される場合が多いです。
そのため要介護3の方は、なかなか入居の順番が回ってこないのですが、私たちは立花さんの入居必要性は高いと判断しました。
愛猫と一緒に暮らしているため、認知症がさらに進行して、愛猫の世話が適切にできなくなると、衛生面が劣悪になり、生活が崩壊してしまう恐れがあるからです。
また、愛猫と同伴入居できる介護施設は極めて少ないのです。
グループホームという、特別養護老人ホームよりは低い介護度で入居できる施設にも、愛猫と一緒に入れるところはほとんどありません。
従って、「さくらの里山科」以外の選択肢がほとんどない、ということも必要性が高いと判断した理由の一つでした。
「さくらの里山科」の相談員が、立花さんの状態を調査するために自宅を訪れた時に驚いたのは、においが全くないことでした。
これは相談員にとって二重の驚きでした。
まず、認知症高齢者の一人暮らしのお宅は、多かれ少なかれ尿臭が漂っていることが多いのです。
身体機能が衰え、トイレを使うことが難しくなり、オムツをするようになった場合、認知症の方だと適切にオムツを着用できない、あるいは汚れたオムツをきちんと処理できないなどの事情があるためです。
認知症が重度化すると、家の中のいろいろな場所で排せつしてしまう、ということもあります。
そして、ペットを飼っている認知症高齢者のお宅は、ペットのトイレの処理ができないため、ペットの糞尿(ふんにょう)のにおいがすることが多いのです。
だから立花さんのお宅を訪れた時、においが全くなかったのは、二重の意味での驚きだったのです。
それは、ケアマネジャーとホームヘルパーが、非常にうまく連携して立花さんのお宅を清潔に保ってくれていたためでした。
そして、立花さんが、認知症であってもミーちゃんの世話だけはほぼ完ぺきにできていたからでした。
その環境が崩れる前に、立花さんの特養ホーム入居を申し込んだのは、本当にケアマネジャーの英断でした。
また、ミーちゃんと一緒なら老人ホームに入ってもいいと決断してくれた立花さんもすばらしかったのです。
こうして立花さんとミーちゃんは「さくらの里山科」にやってきました。
立花さんもミーちゃんも、ホームでの生活にすぐになじみました。
悠々と楽しんでいます。
立花さんは自分の部屋で過ごすことが好きなのですが、食事の前後の時間などは、リビングで他の入居者の方とおしゃべりすることも好みます。
ミーちゃんはそんな立花さんといつも一緒、というわけではありません。
立花さんが居室にいて、ミーちゃんだけがリビングに出てきていることが多いですし、立花さんがリビングにいるのにミーちゃんは居室にこもっていることもあります。
立花さんとミーちゃんは、どちらもマイペースで、ばらばらに動いているようにも見えますが、それは確かな信頼感あってのことだというのはすぐにわかります。
そんな“2人”の自由で気ままな生活を見ていると、猫と一緒に暮らすことの幸せをしみじみと実感できる、と言ったらおかしいでしょうか?

若山三千彦(わかやま・みちひこ)

社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長  1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取(みと)り犬(いぬ)・文福(ぶんぷく) 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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読売新聞(ヨミドクター)


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