「猫がロッカーに閉じ込められて…」
餌やりのせいで受けた嫌がらせ、それでも猫を見捨てなかった心優しき会社員
2022年7月4日(月)
日々、数多くの猫の保護依頼や通報を受けるNPO法人『ねこけん』。
今回は、嫌がらせを受けても猫を救うことを諦めなかった、心優しい会社員の男性のエピソードを紹介する。
地域猫への餌やりや世話は、迷惑に思う人もいるだけに難しい問題だ。
だが、背中がズルむけになるほどのケガを負った猫を放置することはできない…。
保護の経緯について、代表理事の溝上奈緒子氏に聞いた。
背中がズルむけ、ロッカーに閉じ込められた猫(写真:ねこけんブログより)
■人間を信じている猫を裏切れない…、背中がズルむけになった猫たちを救う
ある会社員の男性から、『ねこけん』に相談がやってきた。
男性が送ってきた動画を見ると、そこには2匹の猫の姿が。
三毛猫のほうは、なぜか背中の毛皮がズルむけ。
なんでも、男性が働く会社の敷地に毎日やってくる猫なのだという。
「その猫の耳には、Vカット(不妊・去勢手術された印)が入っていて。地域猫として生きている猫だったのだと思います」
毎日、会社の敷地にやってくる三毛猫たち。
男性はいつしか猫にゴハンをあげるようになり、1年以上が経っていた。
ところがある日突然、「猫に餌をやるな」と会社から注意が入ったそうだ。
会社が言うことはもちろん理解できるが、では毎日通ってくる猫を無視するしかないのか。
悩んだ男性は、一度ゴハンをあげることをやめてみたが、寄ってくる猫を無視することは難しい。
人間を信じている猫を裏切ることはできないと、餌やりを再開したという。
寄ってくる猫を無下にしない、心優しいこの男性。
だが、そうこうしていると、今度は何者かから嫌がらせを受けるようになってしまった。
「男性によると、会社の自分のロッカーの中に猫が閉じ込められたりしたそうです。男性に対する嫌がらせなのか、猫に対する嫌がらせなのか。会社ですから、『餌をやるな』と言うことは仕方ないとは思います。できれば理解してもらえるのが、一番いいのですが…」
猫を嫌いな人もいれば、迷惑ととらえる人もいる。
ましてや場所が会社となると、なかなか難しいのだろう。
だが地域猫と同様に、迷惑にならないように清掃やトイレの世話をすることで、「少しだけでも、温かい目を向けていただければ」と代表は願う。
■相談しても解決ならず、「“愛護”センターという名称は誤解を生みかねない」
ちなみに、男性は困った末に猫を保護してくれる場所を検索し、愛護センターにも連絡したという。
だが、そこから返ってきた答えは、「自分で動ける猫は保護対象にならない。虐待を受けているなら警察に連絡を」というもの。
「実際、愛護センターに連絡しても解決にはなりません。自分で動けないようなケガした猫は保護されますが、短期間のうちに譲渡が決まらなければ結局は殺処分になってしまう。正直、“愛護”センターという名称は誤解を生みかねないと思います」
愛護センターでの保護を諦めた男性は、猫を飼っていた実家に相談し、『ねこけん』を探し当てた。
2匹の猫たちは、こうしてやっと安心できる場所に引き取られることになったのだ。
「2匹とも人馴れしている猫でした。三毛猫のほうは、なぜ背中がズルむけになっていたのかはわかりませんが、緊急手術で縫合。なんとか処置ができました」
今では、三毛猫のケガもずいぶんと良くなり、皮膚がきれいにくっついてきたそうで、2匹とも『ねこけん』でゆっくりと過ごしている。
そんな安心できる生活を送れるのも、嫌がらせを受けながらも猫を見捨てられなかった優しい男性のおかげだ。
安易に餌付けするような行為は推奨できないが、なんとか救いたいという気持ちは尊いもの。
地域猫の世話をする側の自覚と、周囲の温かい理解が両方揃うことで、失われる命は減るのかもしれない。
保護されたときの2匹(写真:ねこけんブログより)