「ペットOK」だったマンションが、管理規約改正で「飼育禁止」に…
「こんな理不尽なことってあり?」弁護士が解説
2022年6月26日(日)
「ペットOK」のはずのマンションを購入した人から相談がありました。
ほかの住人のペットの不始末が原因でマンションの管理規約が変更され、ペット飼育禁止になってしまい困惑しているといいます。
あさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
もしかして、一緒に暮らせなくなっちゃうの…?(rai/stock.adobe.com)
【相談】
ネコの「チー」を飼っているAさん。
イヌ・ネコを含めた「ペットの飼育が可能」との管理規約を設けている分譲マンションPの一室を購入し、入居しています。
ところが、同じくPマンションに入居しているBさんのイヌが、夜中に無駄吠えをしたり、廊下などの共用部分にオシッコをしたりといったトラブルを起こしており、住民の多くからペット飼育に対する不満の声が上がるように。
とうとうマンション管理組合の集会で「魚や小鳥等の小動物以外、ペット飼育禁止」という規約改正案が居住者の90%の賛成多数で可決されてしまいました。
Aさんは「『チー』ちゃんは性質が大人しく、しかも室内で飼育していたので誰にも迷惑をかけていなかったのに…」と話し、全く関係ないイヌのトラブルで自分のペットまで飼育禁止になることに、理不尽だといって怒っています。
■管理規約は多数決で変更される可能性が…
「ペット飼育」に理解し続けてもらえるようマナーを守って Aさんは、「ペットOK」という規約を確認してPマンションに入居しました。
ところが、飼っているネコ「チー」以外のペットの不始末が原因で、ペット禁止に規約が変更されてしまった、というケースです。
問題となるのは、以下の2点です。
①「チー」にはなにも不始末がなかったのに、規約変更には従わなければならないのか?
②「チー」を飼っているAさんに断りなく、ペットOK→飼育禁止とマンションの規約を変更することができるのか?
まず①ですが、マンションの規約は、そこに住む居住者(区分所有者)を拘束します。
多種多様なバックグラウンドや考え方を持つ人が一つの建物に住むことになる分譲マンションでは、建物を共同利用するためのルール(規約)を、多数決(具体的には、区分所有者及び議決権の各々4分の3以上の多数による決議。
建物の区分所有等に関する法律31条1項)で設定・変更することができます。
この要件に従って適正に変更された規約には、すべての居住者が従わなければなりません。
本件では、規約改正案は90%の賛成多数で可決されています。
「チー」が具体的に誰にも迷惑をかけていなかったとしても、Aさんは変更後の規約に従わなければならないのです。
次に②です。
マンションの規約は、原則として多数決をもって自由に定めることができます。
ですので、規約変更が適正な手続に則って行われていれば、既にペットを飼っている居住者がいたとしても、後からペット禁止と変更することもできることになります。
では、現にペットを飼っているAさんやBさんに断りがいるのかどうか。
法律上「(規約の変更が)一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定められています(区分所有法31条1項後段)。
そうすると、ペット飼育禁止の規約変更によって、ペットを手放すか引っ越しを強いられる飼い主は、「特別の影響」を及ぼされるものとして、承諾の対象になるようにも思えます。
しかし、東京高等裁判所平成6年8月4日判決(これはビーグル犬が問題となったケースですが)は、マンションは「戸建ての相隣関係に比してその生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であって、他の入居者の生活の平穏を保障する見地から、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむをえない」のであり、盲導犬のように生活に不可欠な存在であればともかく、通常のペットは生活・生存に不可欠なものではないとして、飼い主の承諾なく規約を変更することができると判示しました。
もっともこの認定は、「動物の飼育を認めているマンションは社会的な話題となってマスコミ等が取材に訪れるほど稀少な存在である」(原審(横浜地裁平成3年12月12日判決)の一部)という当時の社会情勢に則った判断に立脚していますので、ペット飼育可能マンションが当たり前のように見られるようになった現在では、司法判断が変更される可能性もあると思われます。
Aさんとしては、「チー」の飼育状況、誰にも迷惑をかけていないことを他の居住者に訴え、多数派の理解を得て、「Aさんの「チー」は例外とする」との特例規約を定めてもらう方法が考えられるところです。
先ほど紹介した裁判のケースでも、「動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法」であると示しており、飼い主の方も特例として飼育を認めてもらうよう、他の居住者に働きかけをしていたようです。
集合住宅は、様々な意見を持った人たちの集まりです。
規約上「ペット飼育可」とされていても、そのルールは多数居住者の理解のもとに成り立っているということ、マナーの悪さなどによって多数派の理解を得られなくなればいつでもペット禁止とルール変更されてしまう危険性があることを意識していただき、他の居住者に迷惑をかけないよう、しつけをきっちりさせ、マナーを守った飼育をしていく必要があるのです。
不動産会社からは「ペットを飼っても大丈夫」と聞いていたのに…
※画像はイメージです(kazoka303030/stock.adobe.com)
◆石井 一旭(いしい・かずあき)
京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。