人を噛んで“殺処分”寸前のドーベルマンを保護
「問題は犬種ではなく飼い主の育て方」更生に挑んだトレーナー男性が訴え
2022年5月5日(木)
先月22日、千葉県木更津市で警察官20人が出動する大捕り物が繰り広げられた。
大捜索の対象となったのは、ドーベルマン。
成犬1頭と子犬3頭、合わせて4頭が逃げ出した。
ドーベルマンは捜索開始から約6時間半後に無事保護され、けが人はなかったが、2012年には代々木公園でリードを外したドーベルマンが通行人に噛みつき、けがをさせたことで飼い主が逮捕される事案が発生。さらに2011年にはドーベルマンが隣人に噛みつき、被害者が退去したことを受け、マンション管理会社が飼い主に損害賠償請求訴訟を起こす問題も発生している。
逃げ出しただけで大騒動となったこの事態については、“狂暴”というドーベルマンのイメージが関係している。
しかし、犬の狂暴性について「犬種ではなく飼い主の育て方に問題がある」と訴える男性がいる。
ドーベルマンのヒカル
そもそも“ドーベルマン=狂暴”というイメージはなぜついてしまったのか。
ドーベルマンを専門に育てるブリーダーの鈴木淳一さんは「筋肉質で見た感じの精悍さはあるが、遊び好きで甘えん坊なところもある。人が家にくれば威嚇はするが、噛みに行くということはない。今は若い人や女性にも人気の犬種になっていて普通の犬と変わらない。扱いやすいところもある」とドーベルマンについて説明する。
好奇心旺盛でやんちゃだが、人懐こく比較的飼いやすいというのが、鈴木さんの考えだ。
逃げ出したドーベルマンを約6時間半後に保護
ではなぜ、警察が出動する騒動に至ってしまったのか。
そのことについて鈴木さんは「1970年代にドーベルマン・ギャングという映画があった。訓練されたドーベルマンが銀行を襲って大金を持って逃げるというストーリーだった。それが世界中で大ヒットしたので、そのイメージが根本にあるのではないか」と続けた。
そんなドーベルマンの狂暴なイメージと正面から向き合うドッグトレーナーがいる。
NPO法人「DOGDUCA」代表で犬の保護施設などを運営する高橋忍さんだ。
高橋さんの傍らには、過去に4人の人に噛みつく事件を起こしたドーベルマンのヒカルが寄り添っている。
体重50キロ、雄のドーベルマンであるヒカルは、2015年に愛知県で飼い主が自宅ドアを開けた際に逃げ出して通行人4人を噛んでしまう。
その時のけがで飼い主は足を骨折。
高齢ということもあり、ヒカルを飼い続けることが困難な状況に。
「4人も人を噛んだ狂暴な犬」というイメージがついてしまったヒカルを引き取ってくれる保護団体はなく、そのままでは殺処分になってしまうヒカルを引き取ったのが高橋さんだった。
殺処分寸前まで追い詰められたヒカル
ヒカルを引き取ってから、高橋さんはなぜヒカルが人を噛んでしまったのかを考えるようになったというが、そもそも犬が噛むという行為について「小さい大きい関係なく、犬というのは怖さを感じたり、恐怖を感じたり、不安を感じてしまえば、人間が『やめて』というのと同じことを口でやるのが噛みつきになる」と高橋さんは説明する。
その点、ヒカルの当時の飼い主は高齢だったこともあり、大型犬の散歩は困難だった。
つまりヒカルは自宅以外の場所や知らない人間に慣れていなかったこともあり、慣れない場所に出て、知らない人間に会ってしまったことでビックリして人を噛んでしまったのではないか、というのが高橋さん分析だ。
「僕という人間をまず安心してもらえるように。認知させるということを3回ほどやった。散歩へ連れ出して、通行人の人たちに(対してヒカルが)安心して歩くようにするためには相当時間がかかった。この子を更生させて『犬は悪くない』ということをとにかく伝えたい気持ちが非常に強かった」
「問題は犬種ではなく飼い主の育て方」と高橋さん
ヒカルを引き取った高橋さんはこれまで1000頭以上の犬のトレーニングを行ってきた。
ヒカルの更生は順調に進み、その様子がメディアでも紹介されるようになると周囲の見方に変化も。
「名古屋市でいうならば8年連続で犬の殺処分はゼロ」と高橋さんが語るように、更生したヒカルの姿に感銘を受けたことがきっかけとなり、翌年、名古屋市の殺処分はゼロになった。
ヒカルが処分されていたら、こうなっていなかったのではないか、とも高橋さん。
そんな高橋さんは「犬種ではなく、やはり飼い主さんの育て方だと思います。こういう事件が起こってしまうと、大きいからいけない。怖いからダメだとなるんですが、飼い主さんは言うことを聞かせるしつけばかり一生懸命になっている気がする。飼われたときからきちんと人慣れさせて、犬慣れさせて、色々な出来事にも対応できるように安心感を持たせる育て方をしていけば、いざ、外に飛び出しちゃっても、そんなにパニックになったり、怖がったりという行動をとらずに済む」と述べ、問題は犬種ではなく、飼い主の育て方にあると訴えた。
(ABEMA『ABEMA的ニュースショー』)
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