不幸な野良猫を増やさない…捕まえる・手術・戻す「TNR活動」
成果を出す一方でモラルのない「餌やりさん」の壁が立ちはだかる
2022年2月23日(水) 南日本新聞社
今月13日、いちき串木野市にある住宅の捕獲器の中に野良猫がいた。
不妊・去勢手術を受けるため動物病院へ。
80代の住人女性は「何匹もいて心配していたので本当によかった。
近所に迷惑を掛けずに済む」とほっとした様子だった。
不妊・去勢手術をした目印に桜の花びらのように耳をV字に切られた野良猫=いちき串木野市
女性は昨年夏、家の敷地で出産していた野良猫を見つけたのをきっかけに餌やりを始めた。
この猫に子や孫が生まれるなどして、あっという間に約10匹になった。
これ以上増えないようにと、近くの50代の娘が動物愛護団体に相談。
同12月ごろから「捕まえては手術」を繰り返してきた。
これらの費用は家族で出し合い、この日に最後の2匹を捕獲。
野良猫たちは、苦痛がないよう麻酔をして不妊・去勢手術を受ける際、耳をV字に切られる。
桜の花びらのような形が目印の「さくらねこ」として、再び周辺で暮らし続ける。
■TNR活動
鹿児島県内で、野良猫を一代限りにして増加を食い止める対策の柱となっているのは、手術をして元の場所に放す「TNR活動」だ。
捕らえる(Trap=トラップ)、不妊・去勢手術する(Neuter=ニューター)、元に戻す(Return=リターン)の頭文字を取った。
「TNRが一番効果がある」。
NPO法人「犬猫と共生できる社会をめざす会鹿児島」の杉木和子理事長(72)は強調する。
同会は2000年からTNR活動を開始。
猫約1万7000匹の手術に関わった。
会員宅の周辺で保護したり、飼い主を探すための譲渡会に参加したりする猫の数が減っており、手応えを感じている。
杉木理事長は「すぐに減らなくてもむやみに増えないことにつながり、かわいそうな最期を迎える野良猫が減る」と意義を強調する。
「猫好きな人だけでなく、嫌いな人のためにもなる。多くの地域住民に重要な活動だと知ってほしい」
■モラルの欠如
14日夜、たまたま通りかかった鹿児島市の公園で、トレーに入った猫の餌が生け垣の下に隠すように置かれているのを見つけた。
30個近くあり、あちこちから猫が来て、食べては走り去っていく。
用意したとみられる人は見当たらない。
生け垣に隠すように置かれたエサを食べる猫。飼い主とみられる人は見当たらない=鹿児島市
飼い猫か、野良猫か分からなかった。
ペットと野良猫の線引きのあいまいさがTNR活動の前に立ちはだかる。
同会などによると、飼い主がいないようにみえる野良猫を捕まえた際に「私の猫に何をするのか」と怒る人がいる。
一方で餌を与えながら「自分は飼い主ではない。手術費用を出せない」と言い張る人も少なくない。
「餌を与えたら飼っているのと同じなので責任のある管理が必要だ。飼い主のモラルが欠けている」と杉木理事長。
「動物にどこまで関与すれば飼い主となるのか。将来的に社会全体で認識を共有する必要があるだろう」と話した。
無責任な餌やりをしないように呼び掛ける看板=鹿児島市