杉本彩も怒りに震える「一見普通の人がストレスで猫を燃やす」動物虐待の現実
2021年12月15日(水) 現代ビジネス
◆自分たちの身近に潜んでいる動物虐待
写真はイメージです。photo/iStock
「動物虐待というと、見るからに残虐で異常性がある人が行っていると思っている方も多いと思います。でも、実際に虐待をした人たちを見てみると、普通に社会人として会社に勤め、家庭を持っている人が行っているケースも少なくありません。でも、それは私たちの日常、身近に動物虐待が潜んでいるということを意味していると思うのです」
というのは、『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』を主宰し、長年、動物愛護の問題と向き合い続ける女優の杉本彩さんだ。
杉本さんの協会には、SNSでこんな動物虐待動画がアップされていたという報告や、虐待が疑わしいという事例の相談がやってくるという。
第1回では、繁殖業者による空前絶後の大規模な犯罪を紹介したが、第2回は、こちらもあとを絶たない個人レベルでの動物虐待事件について、お話を伺った。
---------- 杉本彩さん 女優、作家、ダンサー、実業家、リベラータプロデューサー、公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長。 2014年「一般財団法人動物環境・福祉協会Eva(現・公益財団法人)」を設立し、理事長になり、動物愛護活動に力を注ぐ。『動物たちの悲鳴が聞こえる – 続・それでも命を買いますか? 』(ワニブックスPLUS)、『動物は「物」ではありません! 杉本彩、動物愛護法“改正"にモノ申す』(法律文化社)などの著書もある。 ----------
※途中、犬猫の虐待の描写、被害にあった猫の治療中の写真があります。
◆病院勤務の職員がストレスで猫を燃やす
被害にあった猫のトラくん。被害にあった当初は体毛も燃え、お腹や足などほぼ全身赤く焼け爛れ瀕死の状態だった。写真提供/CARA CAT CAFE
コロナ禍でお家時間が続くなか、家の中でも触れ合える癒しを求めて、ペットの犬や猫の需要が高まり、ペットショップは今やバブル状態だという。
だがその一方で、動物虐待事件も増え続けている。
2021年にニュースになったものの中から、ピックアップしてみると……。
---------- ■大阪に住む病院勤務の男性職員が、2021年1月、自宅で飼っていた猫に消毒用のエタノールを浴びせ、そこに火のついた割りばしを近づけて、猫の顔や体に大火傷を負わせた。男は焼けただれた猫を長時間放置した後、動物病院に連れて行き、獣医師に「自分でやった。精神的に参っていた」と説明。獣医師が警察に通報し、男は1月26日、動物愛護管理法違反の容疑で書類送検された。 ----------
「この事件は、当協会Evaにとっても、印象深い事件のひとつとなりました」 と話す、杉本さん。
「私たちは1月12日に関西の動物愛護団体を経由してこの事件を知りました。男性が飼っていた猫は、地元の保護猫カフェから譲渡された猫。新たな場所で幸せな余生を過ごすはずであった猫に、身勝手な理由で火をつけたわけです」
被害にあった猫は胸から腹部にかけて、四肢の内側も広範囲に焼けただれ、見るに堪えない姿だったが、幸いにも一命はとりとめた。
しかし、今も懸命な治療が続けられている。
「消毒用アルコールをかけた時点で、猫は逃げたはずですが、それをつかまえ、何かしらの方法で拘束し、着火している。生きた猫を燃やすのには明確な殺意があったと思われ、その後、焼けただれたままの猫を長時間放置している。とても悪質性の高さを感じます。 その行為が、5年以下の懲役または500万円以下の罰金である動物殺傷罪という重大な罪に当たることを認識させ、再犯を抑止する意味からも、検察庁に厳罰な処罰を求めるために、私たちは大阪地検に告発状を提出しました。2月のことでした」(杉本さん)
◆動物虐待が軽んじられた処分に異議申し立て
保護猫カフェで元気にのんびり過ごしていた頃の子猫時代のトラくん。譲渡されて幸せになるはずだったのに……。写真提供/CARA CAT CAFE
ところが、大阪地検が4月に下した判断は、不起訴処分。
内容は「起訴猶予」で、犯罪事実は認めたものの、起訴しないという判断だった。
その理由は「自ら被害猫を動物病院へ連れて行ったことと、男が数万円の贖罪寄付をし、治療費のうち約10万円を支払っていること、そして反省の情が見られることなどから、前例と比較して判断した」というものだった。
「簡単にいえば、完全に黒だけど、罪には問わない、ということです。あれほど酷いことをしているのに、罪に問われないとは、一体どういうことでしょう。 火傷を負った猫を動物病院に連れて行くのは飼い主として当然の責務です。しかも、本来なら全額負担する治療費も、7月の時点で1週間分の金額を支払っただけで、その後は入院中の治療費(トータルで80万円以上かかっている)は未払いのまま。これでは寄付をしたといっても、それは刑事罰を軽減するためのパフォーマンスとしか思えません」
さらに、杉本さんたちが危惧したのは、この事件が、動物殺傷罪が厳罰化された後に発生していることだった。
令和2年6月施行の改正動物愛護管理法で、愛護動物に対するみだりな殺傷罪が、それまでの「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」と大幅に厳罰化されたのだ。
「厳罰化された後に、あんな残虐な事件が不起訴で終わってしまってはいけない。それが今後、新たに起きる事件について処分をする際の参考例になってはいけない、との思いから、私たちは不起訴処分が不当であると考え、検察審査会に厳正な判断を求め、審査の申し立てをしました。それが5月に受理されたので、さらに私たちは市民の方々に向けても、大阪第三検察審査会に嘆願書を送ってほしいと呼びかけました」
その結果、7月29日、検察審査会は、「不起訴処分は不当であり起訴相当」と議決した。
不起訴不当どころか、さらにその上をいく「起訴相当」という内容で、議決書の中には「猫の命も人間の命も変わらず尊いものである」という一文が明記されていた。
「不起訴という処分では、動物殺傷罪が厳罰化されたことの意味が果たされていないことは問題であり、しっかり厳罰化された処分が下るべきである、という内容とともに、命の重みついてもはっきりと明記されていたことは感動的で、私たちと同じ思いを共有していただいて、とてもありがたい思いでした。 その後、再度、下された処分は略式起訴で、罰金10万円となりました……。正直、罰金だけみれば軽すぎるのではないかと思いますが、無罪で終わらせなかったことは、本当に良かった。大きな一歩であったと思っています。刑事告発の重要性というものを、この事件を通して改めて強く思いました」
◆密室で繰り返されるペットへの非情な虐待
写真はイメ―ジです。photo/iStock
今秋以降には、こんな事件も起こっている。
---------- ■10月中旬、飼っていた子猫を浴槽に入れて無理やり泳がせたとして、無職の50代男性が動物愛護法違反の疑いで愛知県警に逮捕された。男性は2020年6月、当時住んでいた名古屋市内の自宅で、水を張った浴槽に子猫を投げ入れ必死に泳いでいる姿を撮影しSNSに投稿していた。さらに、首を絞めたりしている姿を撮影した動画をSNSに投稿していた。 閲覧者が通報したほか、Evaが刑事告発したことで、愛知県警が動いた。 ■11月18日、交際相手の女性が飼っていた猫に虐待をしたとして、愛知県警は30代の会社員の男を逮捕した。男は9月、当時住んでいた愛知県大治町の自宅で交際相手の女性が飼育するオス猫のベンガル(1歳6カ月)1匹を壁に叩きつけ、椅子に押し付けるなどした疑いがもたれている。 猫は右の肺挫傷や右足を骨折するなどの怪我を負った。 女性はもともとベンガルを2匹飼っていて、事件前に1匹が死んでいることから、警察は容疑者の男が虐待を繰り返していたのではないかとみて調べている。 ----------
「猫を泳がせた事件の容疑者は、自分では虐待はしていないと容疑を否認しているそうですが、猫を無理やり泳がせることは、猫の体を酷使して衰弱させる可能性があり、動物虐待罪に当てはまります。さらに、SNSに投稿し、再生回数を増やすための道具として動物を利用するなんて、許されることではありません。ましてや、衰弱していくかもしれない様子を撮り続けるなど、これも非常に悪質な犯行だと思います」
ベンガルを壁に叩きつけた事件には、児童虐待とも通じるものを感じるという杉本さん。
「交際相手や夫婦間のトラブル、その不満や欲望のはけ口が動物という弱いものに向かってしまうケースも多いようです。動物虐待は、ほぼ密室の中で行われているものなので、人目に触れることなく終わっている事件が、私たちの想像がつかないくらい、まだまだたくさんあるのではないかと思いますね」
確かに、子どもの場合は、保育園や学校、近所の人たちが気づくということも少なくないが、飼育動物の場合、室内から出ることもなく、飼育していることすら周囲が知らないケースも多い。
密室の動物虐待は山のようにあるに違いない。
◆ひるまず通報。虐待を許さないで
写真はイメージです。photo/iStock
もしも、私たちが動物の虐待を見たり、聞いたりした時は、どうすればいいのか。
杉本さんはこう語る。
「子どもの虐待は、児童相談所など緊急連絡できる場所がありますが、動物の場合、そういった決まった連絡先を設けていない自治体がほとんどです。持っている自治体も残念ながら機能していないところが多いようです。 実際に虐待している現場で、殴っているとか、蹴っているなどの積極的虐待、暴力などを目にした時は、迷わずに警察の110番に通報してください。SNS動画で場所が特定できない場合には、最寄りの警察署に通報するといいでしょう。また、きちんと飼育せず放棄しているネグレクトや、劣悪な環境下に置かれているような場合は、最寄りの行政(保健所)に連絡をしていただきたいと思いますね。自治体によって積極的に関与してくれるところとそうでないところがあると思いますが、根気よく連絡してほしいと思います」
◆虐待を受けたトラくんの治療の経緯と現在
保護猫カフェにいた頃のトラくん。子猫時代は人懐っこい子で、誰にでもごろごろ甘えたさんだったそう。写真提供/CARA CAT CAFE
最後に、冒頭でご紹介した大阪の猫虐待事件で被害をうけたトラくんについてお伝えしたい。
ひどいやけどでなんと、10ヵ月も動物病院に入院し治療を行っていたという。
トラくんの様子を写真とともに、現在の様子も含めてご紹介する。
※トラくんの治療中のつらい写真もあります。でも、これがトラくんが受けた現実でもあります。
虐待されたトラくんを献身的に支えたのは、もともとトラくんがいた保護猫カフェ『CARA CAT CAFE』さん。
325日もの入院中、トラくんを支援し続けたという。
「子猫時代、大切にケアしていたトラくんがこんな目にあうとは……。しかも、罰金10万円で済んでしまう現実に衝撃を受けました。多くの方に、虐待がどんなにひどことか、絶対あってはならないことを知っていただきたいです。今後同じように辛い目いあう子がないこと、トラくんが幸せに暮らしていけることをただただ願うばかりです」というのは、『CARA CAT CAFE』オーナーの木村さんだ。
現在、トラくんを治療をしてくれた動物病院の院長さんが家族に迎えてくれ、新しい生活をスタートしているという。
【写真】言葉も出ない冷酷な虐待で瀕死の大やけどを負った猫の治療と現在の様子
次回、最終回は、最近巷で見かけることが増えている、動物と触れ合えるという施設のありかたと虐待についてお伝えする予定だ。
牧野 容子(エディター・ライター)
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