1000匹多頭飼育、母犬を無麻酔で帝王切開…
杉本彩さんが告発した悪徳ブリーダーのひどすぎる実態
2021年11月6日(土) デイリー新潮
糞尿まみれの劣悪な環境で飼育されていたおよそ1000匹の犬たち。
獣医師の資格を持たないオーナーは、繁殖のため母犬を無麻酔で帝王切開していたという。
動物愛護法違反容疑で長野県警に逮捕されたこの悪徳業者を刑事告発したのが、女優の杉本彩さんが代表を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」だった。
杉本さんに、今回の事件から見えるペット業界の闇について語ってもらった。
小泉進次郎環境大臣(当時)に、繁殖業者に対する行政の指導や監督を徹底するよう求める嘆願書を提出する杉本彩さん(9月24日)
◆「犬は痛みに強い」と無麻酔で……
〈死骸は産業廃棄物として、糞尿や生ゴミと一緒にフード袋などに入れ、他のゴミと一緒に廃棄していた〉
〈ケージは4段から6段程積み上げられた状態で、上段には手も届かない。世話が行き届かないため糞尿がケージの受け皿から溢れ、上段から下にいる犬のケージに垂れ流れているほど酷かったそうだ。床面は錆びた鉄製の網すのこであったため、犬の足裏はカエルの足のように開き腫れあがっていたそう〉
〈獣医師免許を持たないオーナーは、自ら犬の四肢を荷造用の紐で目一杯伸ばし、縛り付けて不動化し、無麻酔で帝王切開を行っていた。手術器具は滅菌処理をしておらず、血液を拭う布切れも洗濯しただけのものだった〉
〈オーナーは、「犬は痛みに強いから大丈夫」だと言っていたそうだ。当然だが、犬は鳴き叫んで痛がり、中には痛みに耐えきれず、「ヒィッ」と声を上げて失神する犬もいたという。「獣医師より俺のほうが上手い」と、愚かな自慢をしていた悪魔のようなオーナーだ〉
今年10月2日、杉本彩さんが福井新聞オンラインの連載「杉本彩Eva通信」で、長野県松本市の繁殖業者「アニマル桃太郎」の飼育環境について綴った文章である。
杉本さんが振り返る。
「6月末に、ここの元従業員から話を聞いた獣医師の方が、私どもに動いてほしいと相談してきました。元従業員の方は、数年前から保健所や警察にも訴え続けてきたものの、どこも取り合ってくれず途方に暮れていていたようです。Evaは8年前に動物愛護の啓発活動や政策提言を行う目的で起ち上げた団体ですが、最近は動物虐待に関する相談もかなり寄せられています。私は28年間にわたり動物愛護活動をしてきましたが、ここまで悪徳非道な繁殖業者の話を聞いたことがなかった。激しい怒りとともに、一刻も早く事件化させなければならないと思い、協会を通して長野県警に掛け合い始めました」
◆200匹がフレンチ・ブルドッグだった
その後、警察もようやく動き出す。
9月2日、県警は動物愛護法違反容疑で繁殖業者の飼育施設を家宅捜索に入った。
14日、Evaは松本警察署に「アニマル桃太郎」の代表らを刑事告発。
それから二ヶ月後の11月4日、とうとう県警は、代表の百瀬耕二容疑者(60)ら二人の逮捕に踏み切ったのだった。
杉本さんが動いたことで、事態を放置したら世間から批判を受けると県警は考えたのかもしれない。
まさに“お手柄”とも言える迅速な動きであったが、 「そんなつもりは本当にありません。ようやく業者が逮捕されて、ほっとしているところです。これを機に行政も警察も、もっと悪徳業者を取り締まるよう日頃の指導・監督に力を入れてほしい。マンパワーが足りないというのは、動物虐待を放置する言い訳にはなりません。この業者は30年間も商売を続けてきたのです。もし取り締まらないというならば、私たちに立ち入り権限を与えてほしいくらいです」
そして、もっと多くの人にこの事件を知ってほしいと訴える。
「彼らが何をしていたのか、目を背けずちゃんと見てほしいのです。そして、彼らがなぜこんな凄惨な動物虐待を行っていたかについて考えてほしい。私たちがペットショップで購入しているかわいい子犬たちが、こういった非道な悪徳業者の手によって、モノのように生産されていたのです」
今回摘発された繁殖業者が飼っていた約1000匹のうち、およそ200匹がフレンチ・ブルドッグだった。
「ペットショップで40万~50万円の高値で売られている人気犬種です。人為的に交配して作られた繊細な犬種のため皮膚病にかかりやすく、暑さにも寒さにも弱い。あの環境下ならば、どんどん死んでいったと思う。そんな人気犬種を産むために、無麻酔で帝王切開された母犬たちの気持ちを考えてください。犬も人間と同じで痛みを感じます。ペットショップでかわいらしくつぶらな瞳で私たちに訴えかけてくる犬たちが、そんな地獄絵図のような環境下で産まれてきた可能性があるということを、消費者の方々は購入する前にちゃんと考えるべきです。そうした安易な消費が、こうした悪徳業者による動物虐待の温床になっているのです」
9月2日、長野県警が家宅捜索に入った長野県松本市の犬舎。約1000頭の犬が劣悪な環境で飼育されていた
◆芸能人たちの責任
杉本さんは、自分と同じ芸能人がテレビやYouTube番組などで高価な犬・猫を購入しているのを見ると、やるせない思いにかられるという。
「『ペットショップで抱っこしちゃったら、耐えきれずに購入を決めちゃった』と言っている芸能人の番組を目にしたことがあります。他にも、ティーカッププードルを購入したとか……。ティーカッププードルも、小さくてかわいい犬を嗜好する人間のために無理に掛け合わされて作られた個体で、虚弱体質なのですぐに死んでしまいます。影響力のある方々がこうして安易に消費を煽り、消費者が目新しいものに飛びつくから、どんどん犬のことを考えずに、かわいいモノとして犬が作られ、ブランド化されていってしまう」
とりわけコロナ禍もあり、いまペットショップは大盛況だという。
杉本さんは、もしこれからペットを飼いたいと考えている人は、まずは行政の動物愛護センターや動物愛護団体にいる保護犬、保護猫を引き取ることを検討してほしいと訴える。
「ただし、動物愛護団体を名乗っている団体のなかにも、いかがわしいところが多くあるので注意してほしい。実際、今回の事件でも、家宅捜索が入った直後、犬たちはそっくりいなくなってしまいました。聞くところによると、某大手ペットオークション業者に渡り、その傘下にある寄付金を集めることを目的とした動物愛護団体に渡ってしまったようです」
最近では、保護犬、保護猫を高齢者に押し付けてカネ儲けを企むような、悪質な動物愛護ビジネスも流行しているという。
「何十万円もするブランド物を買う前は、よく調べて考えるでしょう。それと同じように、動物を飼う前によく調べて考えてほしいのです。犬たちはモノじゃない。私たち人間と同じように尊い命なのです」
デイリー新潮取材班 2021年11月6日 掲載
新潮社
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