「命が私たちの食べ物」 家畜を撮って“命に向き合う”写真家の信念
2021年10月17日(日)
「家畜写真家あかっぷる」として活動する、瀧見明花里さん。
2017年「『いただきます』を世界共通語へ」をコンセプトに家畜写真家として独立し、北海道を中心に全国の畜産農場で牛や豚、鶏や羊などを撮影しています。
その写真からは、命の営みやストーリーを感じずにはいられません。
瀧見さんの「命と向き合う」覚悟と信念が込められた撮影について、取材しました。
北海道札幌市を拠点に、「家畜写真家あかっぷる」として活動する、瀧見明花里さん。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
◆食べない命すら亡くなっていた
学生の頃から、生まれ育った北海道の自然豊かな景色が好きだった瀧見さん。
どこまでも続く畑や牛の放牧光景に「第一次産業の方が作ってくれている光景なんだ」と気づき、畜産への興味が沸きました。
銀行勤めをしていても畜産への思いがなくなることはなく、ニュージーランドへワーキングホリデーに。
1年3か月の滞在期間を振り返って、「ニュージーランドは食について考えさせられる国」だったと話します。
酪農家や畜産農家の手伝いをする中で、瀧見さんにとって衝撃的な出来事に遭遇しました。
それは生まれたばかりの子牛の死でした。
毎朝の日課で牧草地に行くと、前夜に生まれたであろう衰弱した子牛を発見。
母牛も周囲に見当たらず、瀧見さんはその子牛を抱きしめて温めようとしました。
しかし、回復の見込みはないと感じたオーナーの判断により、その子牛は発見から1時間足らずで射殺されました。
オーナーの判断は「助からないのに生かしておくと、その子は死ぬまで苦しまないといけない」という、ニュージーランドの動物福祉の考え方に基づいていました。
できるだけ早く天国に送ってあげることが、子牛のためだと考える文化土壌があったのです。
「それまで、食肉処理した動物を夕食でいただくこともあり、生命のサイクルは頭では分かっていたつもりでした。でも『食べない命すらなくなっていたんだ』と気づきました。せっかく生まれてきたのに、この数時間の意味は何だったのか、と泣きながら考えました」
何が正解なのか、ひたすら考えた瀧見さん。
しかし、「食べる、食べない」「命を救う、救わない」という問いには正解がなく、その意味での難しさを感じたといいます。
家畜の命について考え抜いた結果、瀧見さんは写真家になることを決めました。
「命が私たちの食べ物なんです。その存在を知ってもらうため、私は家畜写真家の道を決めました。それが家畜動物に対して私ができることであり、命に対する“私の向き合い方”なんだと考えています」
食の向こう側にある「いのち」に目を向けて欲しいという思いを込め、瀧見さんは家畜写真家として写真を撮り続けています。
◆自分のなかに、鶏がいる
家畜写真家としての活動は、北海道を始め全国へと展開。
2018年、クラウドファンディングを機に全国の酪農家を回り、写真撮影を通じて、様々な出会いと経験を重ねました。
乳牛の出産に立ち会ったり、トラックに乗った家畜動物を泣きながら見送ったり。
その中でも「大人の食育体験」と銘打たれた、養鶏所での食肉処理体験に参加したことがありました。
やらなくてはという思い半分、やりたくないという気持ち半分で申し込みましたが、そこで「命をいただく作業を身をもって感じた」と言います。
「命のサイクルを見せていただくことで『自分の中に鶏がいる』と感じたんです。自分の中に鶏の命があり、自分が生かされているんだという感覚を得ました」
2021年5月には、「あかっぷる授業」として北海道の小学校で家畜写真の”授業”を展開。
約40名の小学4年生を対象にオンライン授業を行いました。
活動の幅を広げながら、多くの人たちに「家畜動物の命」を表現し、伝えています。
◆世界の「ITADAKIMASU」へ
瀧見さんは、日本では当然のようになじみのある「いただきます」という言葉が、大切なキーワードだと考えています。
「ニュージーランドでは、食事の際に何も言わなかったり、お祈りだったり、簡単な『さぁ、食べよう』という言葉で始まることが多かったんですが、私は習慣で『いただきます』と言っていました。すると、様々な人たちに『それはどういう意味があるの?』と興味を持ってもらえたんです」
『いただきます』は食材に感謝する言葉だと伝えると、多くの人たちが「素敵な言葉だね」と返してくれたそう。
「その時に『いただきます』という言葉は日本の文化であり、海外の人たちから素敵だと感じてもらえるのだと気づいたんです。世界に『いただきます』が広がると、食材に感謝できる文化になると思うし、私が撮る家畜動物の写真も、かわいいだけじゃないコンセプトとして伝わると考えています」
瀧見さんは海外での取り組みを増やして世界に対してアプローチしようと、アメリカ・ニューヨークでの写真展を計画しています。
日本の「いただきます」を、世界の「ITADAKIMASU」へ。
瀧見さんの挑戦は続きます。
【瀧見さんが撮影した「命」を感じる家畜写真】
近い距離で撮影された豚は、どことなく愛らしい表情を見せています。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
距離の近さは、心の近さ。自分も被写体になり切り、動物対動物として撮影を重ねます。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
『自分の中に鶏がいる』と感じた体験は、命への向き合い方をさらに深めたといいます。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
食べ物の先には必ず「いのち」があるということを、身を以て感じた瀧見さん。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
瀧見さんがニュージーランドにて撮った写真。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
写真撮影で大切にしているのは「目線」。鶏と目を合わせて撮りたいので地面に伏し、汚れても写真を撮ります。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
「いただきます」という言葉の深みと重みを、写真に込めます。© allrights reserved Livestock Photograper Akari Takimi
ほ・とせなNEWS編集部
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