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悪徳ブリーダーが減らないワケ

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「犬1000頭がケージにぎゅう詰め」
利益のために虐待を繰り返す"悪徳ブリーダー"が減らないワケ

2021年10月2日(土)  PRESIDENT Online

新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要で、犬や猫をペットとして迎える人が増えている。
ペットジャーナリストの阪根美果さんは「ブームに乗じて、劣悪な環境下で繁殖犬や繁殖猫を飼育する悪徳ブリーダーが後を絶たない。国はこうした業者を排除するため規制強化を進めているが、それだけでは解決は期待できない」という――。

■警察が動物愛護法違反の疑いで家宅捜索
今年9月、約1000頭の犬を劣悪な環境で飼育していたという長野県松本市の繁殖業者(ブリーダー)が、警察の家宅捜索を受けました。
健康状態などに問題が生じている犬も多く、一部の犬は保健所に保護されました。
狭く不衛生な部屋で繁殖させるなどした動物愛護法違反の疑いがもたれています。
このブリーダーにはさまざまな問題が見られました。
保健所への犬の登録数は600頭でしたが、実際には約1000頭の飼育をしていました。
ブリーダーとして登録をするには必要な申請書を提出し、その後、飼養施設に不備がないか確認するために自治体の担当者が内見します。
問題がなければ営業許可され、5年間有効の「第一種動物取扱業登録証」が公布されます。
継続する場合には更新の手続きが必要で、再度内見が入ります。
また、申請内容に変更がある場合には、変更届を出す必要があります。
犬の登録数の変更は、変更時から30日以内に提出しなければならないので、このブリーダーは違反をしていたことになります。
しかし、5年に満たない間に繁殖犬が約400頭も増加しているのは尋常ではありません。
筆者はコロナ禍が影響していると考えています。

■ペットブームの裏で増えている「命の軽視」
一般社団法人ペットフード協会の「令和2年全国犬猫飼育実態調査」によると、1年以内の新規飼育者の飼育頭数は犬が46万2000頭(前年度比14%増)、猫が48万3000頭(同16%増)で、共に2019年と比べて増加。
増加率もそれ以前の年に比べて大きいことから、コロナ禍の影響がうかがえるとしています。
入手先としては、ペットショップでの購入が伸びていて、販売する犬・猫が常に不足。
そのため、価格が高騰しています。
また、『「会社四季報」業界地図2022年版』(東洋経済新報社)によると、2019年度のペットフード・ペット用品の国内市場規模は4461億円(前年度比5.5%増)、ペットショップ・医療・保険などを合わせた全体の市場規模は約1兆5000億円とも言われています。
ペットを家族と考える意識が高まる中、コロナ禍による巣ごもり需要が背景となり、まさにペット市場はブームを迎えています。
しかしながら、その裏では子犬・子猫を産みだす繁殖犬・繁殖猫への「命の軽視」が増大しているのです。

■利益優先で飼育環境は二の次になってしまう
松本市のブリーダーはブームに乗ってより多くの利益を得るために、急激に犬の数を増やした可能性があります。
飼育スペースを確保するために、ケージを5~6段に積み重ね、複数頭を1つのケージに入れていたのです。
そうなれば掃除も行き届かず、倒壊する危険もあります。
健康管理もままならないでしょう。
従業員の一人は「犬たちは狭いケージの中で過ごし、運動をさせることもなかった」と話しています。
不衛生な狭いケージの中で思うように動けず、散歩にも行けず、犬たちの抱えるストレスは計り知れません。
需要が増えれば、供給も増える。
ペットショップで購入する人が増えれば、悪徳ブリーダーは利益を求めて多くの子犬・子猫を産出するために、繁殖犬・繁殖猫を増やしていきます。
そして、劣悪な飼育環境でケージの外に出ることも許されず、過酷な日々を過ごすことになるのです。
犬や猫を飼いたいと思った時、どこから迎えるかをしっかりと考える必要があります。

■規制強化が期待されるが「13万頭が行き場をなくす」
前述のようなブリーダーは氷山の一角であり、コロナ禍のペットブームの裏にますます増大していると推測できます。
しかしながら今後は、環境省の改正動物愛護法に関する「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(省令基準)」によって摘発の対象になります。
この省令は「悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする」「自治体がチェックしやすい統一的な考え方で基準を設定」「議員立法という原点と動物愛護の精神に則った基準とする」というポイントに沿って進められ、今年4月に公布されました。
いわゆる「数値規制」です。
全ての項目について2021年6月に施行するとされていましたが、パブリックコメントにはより厳しい規制を求める声があがる一方で、「このままでは廃業をするしかない」と基準の緩和を求める事業者の声が多く寄せられました。
あるペットショップチェーンの幹部らは、「廃業するブリーダーが増え、犬や猫が山奥に遺棄される」「行き場を失くす犬や猫は13万頭になる」と反論しました。
こうした意見を踏まえて、環境省は準備期間が必要と判断したいくつかの項目について経過措置を設ける方針を明らかにしました。
完全施行は2024年6月に後ろ倒しとなったのです。

■来年には飼育スペースや飼育頭数がルール化
今年6月1日からは、金網の床材の禁止、さびや割れなど破損の放置禁止、温度計・湿度計の設置、臭気の適切な管理、日長時間に合わせた照明管理が義務づけられました。
2022年6月には下記に見られる「ケージなどのサイズ・構造」や「運動スペース」の明確な数値規制に合わせた対応をしなければなりません。
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分離型の規模(運動スペース分離型)
犬:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍 猫:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の3倍 *猫は棚を設け2段以上の構造とする
*運動スペースは一体型の基準(下記)と同じかそれ以上の広さがある運動スペースを確保し、1日3時間以上運動スペースに出して運動させること(自らが所有しない外部のドッグランなどは運動スペースとは認めない)

一体型の規模(運動スペース一体型)
犬:分離型の床面積の6倍×高さ体高の2倍 猫:分離型の床面積の2倍×高さ体高の4倍
*猫は2つ以上の棚を設け3段以上の構造とする
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また、経過措置が取られたブリーダーや従業員の1人当たりの飼育頭数も図表1のように決められました。


【図表を見る】ブリーダーや従業員1人当たりの飼育頭数

従業員は正規・非正規雇用にかかわらず週40時間勤務で1人換算となり、例えば、週20時間勤務の従業員が2人いる場合には、2人で1人換算となります。
計算方法も含め細かい規制が設けられています。
さらに、加齢による母体への負担を軽減するという観点から、雌犬・雌猫の交配終了年齢、雌犬の生涯出産回数に対する繁殖制限も決められました。
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雌犬:生涯出産回数は6回目まで。かつ雌の交配は6歳まで(満7歳未満) 満7歳の時点で出産が6歳未満の場合、交配は7歳まで。
雌猫:交配は6歳まで。(満7歳未満) 満7歳の時点で出産が10回未満の場合は、交配は7歳まで。
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■ブリーダーが頼る動物愛護団体はすでに手いっぱい
家宅捜索を受けたブリーダーもこの「数値規制」は知っていたはずです。
約1000頭もの繁殖犬を抱えながら、この時点で何の対応もしていなかったということは、ギリギリまで営業して廃業をするつもりだったのでしょう。
実際にこのブリーダーは家宅捜索後に廃業を宣言し、残された犬たちを埼玉県の同業者に譲っています。
その迅速な対応から、もともと廃業後に譲る約束をしていたと考えられます。
しかし、一部の犬たちは動物愛護団体に渡ったとのこと。
「数値規制」により、繁殖犬の役目を終える、あるいは疾患を持つ犬たちを渡したのではないかと推測できます。
このことから筆者が懸念することは、経過措置が取られたとはいえ、行き場を失くす13万頭の犬や猫がどうなるのかということです。
動物愛護団体は既に多くの保護犬・保護猫を抱えています。
コロナ禍で譲渡会も思うように開けず、保護する犬や猫が増えるばかりで悲鳴をあげています。
ブリーダーは事業者の責任として、動物愛護団体等の手を借りることなく、自ら引退犬や引退猫の「終の棲家」となる譲渡先を探す必要があります。
そこは安住の地でなければなりません。
そのための経過措置であることを、決して忘れてはいけないのです。

■「数値規制」だけでは減らない悪徳ブリーダー
しかしながら、「数値規制」をクリアしたからといって、健全なブリーダーであるとは言い切れません。
例えば、ブリーダーの中には、犬や猫が騒げば「うるさい‼」と怒鳴り散らしたり、物を投げたり、体罰を加えたりする人がいます。
利益だけを目的とし、犬や猫の「命」を軽視しているブリーダーです。
飼育環境を改装したり、従業員を雇える資金力さえあれば、犬や猫への愛情がなくてもブリーダーとして存続することができます。
表向きは健全なブリーダーを装いますが、「怒鳴る」「物を投げる」「叩く」などの犬や猫に対する態度は変わらず、精神的・肉体的苦痛を与え続けることでしょう。
そしてまた、利益を追求するためにさまざまな法の抜け道を考えることになるのです。
筆者は「ペット業界に携わる者には、愛情がなければならない」と考えています。
そもそも健全なブリーダーは以前から「数値規制」以上の良い飼育環境を整え、知識と経験を携え、全てにおいて健全性を追求しながら繁殖をしています。
自ら飼い主を選択し、譲渡後はその子犬・子猫の成長を見守り、生涯に渡ってサポートを続けます。
それは犬や猫に対する圧倒的な愛情から生まれた行動です。
愛情があれば法の規制などなくても「命」に責任を持ち、健全性は保たれるものなのです。
「数値規制」と共に問わなくてはならないのは、ブリーダーの資質です。
従業員にも同じことが言えると考えます。
それは今後の大きな課題となることでしょう。

■自治体はきちんと「レッドカード」を出せるか
家宅捜索を受けたブリーダーは約1000頭もの繁殖犬を抱えていました。
「今回の事案を重く見て、他の業者に対する立ち入り監視も実施する」と管轄の保健所の職員は話していますが、未然に対応できなかった自治体の管理体制にも疑問が生じます。1つの事業者が600頭との申請をした時点で、このような事態を想定して、注意深く見守る必要があったのではないでしょうか。
前述したように、ブリーダーの登録の有効期限は5年間ですが、近隣住民からの通報などがない限り、その間に自治体の担当者が訪ねてくることはありません。
また、内見に来る担当者によってもチェックの度合いは異なり、問題が見られた時の対応もまちまち。
そのような管理体制では、悪徳ブリーダーが抜け道を考えるのも無理ないのです。
今回の数値規制は「悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする」ということを主な目的としています。
ブリーダーを淘汰できるかどうかは、自治体の管理がどこまでできるかにも左右されます。
その目的が存分に遂行されるように、自治体の管理体制をしっかりと確立させる必要があるでしょう。

■近隣住民の監視の目、飼い主の責任感がペットを救う
悪徳ブリーダーを摘発するには、近隣住民の厳しい目も大きな役割を果たします。
家宅捜索を受けたブリーダーの場合も、自治体は事前に近隣住民などから通報を受けていました。
近くにブリーダーが住んでいる、あるいは飼養施設がある場合には、日頃から厳しい目でチェックをし、問題があれば自治体に通報をしましょう。
情報があれば自治体は必ず事実確認を行い、問題があれば指導を行います。
「ご近所だし、通報して恨まれたら困る」と考え躊躇(ちゅうちょ)する人も多いようですが、自治体は通報者の身元を明かすようなことはしません。
声をあげることで近隣住民の生活を守り、またそこにいる犬や猫を劣悪な飼育環境から救うことにつながるのです。
コロナ禍のペットブームは前述した悪徳なブリーダーの増大だけでなく、安易に犬や猫を迎え、飼育放棄する飼い主も増やしています。
ペットショップにおいては、誰もが代金を払えば犬や猫を迎えることができます。
飼育に関する知識もないままに迎えたために「こんなはずじゃなかった」と後悔する飼い主もいて、動物愛護団体などに「引き取ってほしい」という相談が相次いでいます。
捨てられた犬や猫もいると聞きます。
このような事態が続けば、今後は飼う側に対しても事前に飼育に関する研修を受けなければならないなど、何かしらの規制が必要となるでしょう。
そして、ペットショップも単に譲渡するだけでなく、健全なブリーダーのようにその犬や猫の生涯にわたって飼い主と共にサポートしていく責任を持つ必要があるのではないでしょうか。
犬や猫は「命」ある生き物です。
「愛情」と「責任」を持って接してほしいと心から願います。

ペットジャーナリスト 阪根 美果

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阪根 美果(さかね・みか)
ペットジャーナリスト 世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者。犬・猫の保護活動にも携わる。ペット専門サイト「ペトハピ」で「ペットの終活」をいち早く紹介。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍している。


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