空き家バンクで見つけた築50年の一軒家 保護猫たちのシェルターに活用
2021年9月9日(木) sippo(朝日新聞社)
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。
アニドネはオンライン寄付サイトを運営している中間支援組織です。
この8月に支援する認定団体が増えました。
そのひとつ、長野県上田市で活動する『特定非営利活動法人 一匹でも犬・ねこを救う会』さんは、空き家バンクを利用して猫のシェルターを手に入れました。
面白い取り組みだと思います。
ご紹介させていただきますね。
シェルターで穏やかに暮らす猫たち。来訪者が来てもまったく動揺することなくマイペース。ほとんどが飼い主の飼育放棄
◆譲渡まで猫たちが暮らす場所が必要
保護事情は、地域によって問題や状況が大きく変わります。
東京の都心では、野良犬や野良猫はあまり見かけなくなりました。
一方、地方ではまだ野犬が保護されることもありますし、春の出産シーズンは赤ちゃん猫が行政に多数持ち込まれることも。
また、保護活動のスタイルも実はさまざまで、シェルターは持たずに個人宅での預かりさん(新しい飼い主が見つかる間、飼い犬のように家で保護する)だけで活動している団体もありますし、子猫レスキューや単犬種などと専門分野を持つ団体もあります。
今回ご紹介する『一匹でも犬・ねこを救う会』は、一軒家をシェルターとして利用する決断をしました。
活動する上田市はまだまだ保護猫が多い場所。
譲渡をするまでの間、猫たちが暮らす場所があれば、もっと命が救える、そんな事情からどうしても一時避難の場所が必要だったそう。
◆空き家バンクで戸建てを購入しシェルターに
シェルター外観。2020年11月には活動の公益性が認められ上田市功労賞を受賞している『特定非営利活動法人 一匹でも犬・ねこを救う会』
私はとても天気のいい日にシェルターに伺いました。
外観はまったくシェルターに見えません。
おじゃまします~と個人宅に入る感覚です。
築50年の建物ですが、その古さを感じさせないのは鉄骨3階建て(段差のある立地のため2階+地下階)の頑丈な造りだからでしょう。
離れもある大きなお家です。
延べ床面積320平方メートル、保護部屋10、倉庫部屋7、ほか給餌(きゅうじ)洗い場、洗濯室、トイレなどがありました。
市の有休施設の活用を要望していたことに対して、空き家バンクで調達したらどうかと、日頃からお世話になっている市議会議員さんに助言いただいたことがきっかけで、100匹近くを収容できる希望の砦(とりで)が実現したそうです。
◆スタッフの心にも変化をもたらしたシェルター
窓も多く日当たりがとてもいいお部屋。高い場所でくつろげるように工夫しています
今回、代表の清原さんにインタビューしました。
――どのような物件を探していたのでしょうか?
「シェルターとしての利用が法的に問題ない都市計画上の区域であること、風通し、日当たりなどの住環境、部屋の数や広さがあって頑丈な物件であること、メンバーが通える範囲の距離であること、物件の価格や初期の整備費用が安く予算の範囲であること、駐車スペースがあることなどなど。条件は多岐に及びました。そして、実は旧シェルターの撤去期限があと2カ月という切羽詰まった事情もありました。保護猫たちを無事転居させることが最重要でした」
――そのような急なご決断ですと、資金はどうされたのですか?
「土地+建物で280万円です(登記費用、整備費除く)。一部を自己資金とし、クラウドファンディングによりご支援いただきました。200万円の目標を見事達成したときは、とてもうれしかったですね。これで、みなの希望の場所ができ、活動の幅が広げられると思いました」
――シェルターを持ってよかったこと、逆に大変なことを教えてください
「私たちはTNR活動、地域猫活動、多頭飼育崩壊の救援、入院などで取り残される犬猫の対応など、保護せざるを得ない状況に数多く直面します。限界はありますが、ともかくSOSから耳目をそらさないで対応できるようになったことで、スタッフの心の葛藤が軽減されているかと思われます。また、穏やかに暮らす猫たちとのふれあいには私たちのほうが心を癒やされています。 半面、保護するほど、医療やフードなどの費用やお世話する労力がかかります。個体の心身の健康、シェルター内の健康管理、感染症予防にも神経を使います」
◆さまざまなSTORYを持った猫たち
筆者の西平と副代表の松井ルミさん。松井さんはTNRをメインに活動をしている
古い日本家屋の特徴をうまくシェルターに利用していました。
部屋ごとに属性が分かれていて、エイズ陽性や多頭崩壊出身、保護直後の隔離部屋といったように部屋数の多さが生かされていました。
私が伺ったときには90匹ほど猫たちがいました。
案内をしてくださった副代表の松井さんは、それぞれ理由があってシェルターに来た猫たちの素性をとても丁寧に教えてくれました。
◆集う場所があると広がりもある
特に都心であればあるほど、預かりさんのみで運営する団体さんは多いです。
その理由は、家賃などの固定費が高くなり維持に苦慮するから。
一方、地方では有休施設も増えています。
戸建て家屋以外にも、閉鎖された学校を使って社会貢献に転用しているケースもありますよね。
今回のお話を聞いて、とても上手に保護猫たちの居場所を作られたと思いました。
猫たちにとって、ずっとシェルターにいるのは幸せではないでしょう。
早く愛情たっぷりの飼い主と暮らすお家が見つかることがベストです。
ただ、すぐにレスキューすべき猫たちはまだまだ多くいて、行き場に困った猫たちのオアシスとなっていることは間違いなかったです。
猫たち、みな穏やかに好き好きに過ごしていましたから。
sippoの読者さんには保護猫活動をされている方も多いと思います。
今後の参考になればと思い、現地レポしました。
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