「凶暴なので処分して」と保健所に持ち込まれた猫
・・・今では保護団体で、母猫のようにハンディある猫たちをお世話
2021年8月7日(土) まいどなニュース
老犬、老猫、ハンディキャップや病気を抱えた犬猫を中心に保護・飼養している動物保護団体「フィリックス・アニマ」。
長野県内で終生飼養シェルターを運営しています。
基本的には譲渡をしない看取り専門の団体です。
そんなシェルターの設立当初から運営を支える1匹の元保護猫がいます。
名前は、姫ちゃん。
今年で11歳になります。
シェルターに入ってくる子猫たちのお世話をしてくれるのです。
看取り専門の動物保護団体「フィリックス・アニマ」のシェルターで、ハンディキャップのある猫や病気の猫たちの“母猫”のようにお世話をする姫ちゃん㊧(提供写真)
◆「凶暴なので処分してほしい」と飼い主が保健所に持ち込んだアメショ、殺処分の対象に
姫ちゃんが保護されたのは、2015年3月。
当時4歳、アメリカンショートヘアの女の子です。
飼い主から「凶暴なので処分しほしい」と保健所に持ち込まれた猫。
引っかいたり、かみついたりしたため、里親への譲渡も難しく殺処分の対象だったといいます。
そこで引き取ったのが、現在「フィリックス・アニマ」代表の藤森由加里さん。
当時をこう振り返ります。
「姫ちゃんは、ペットショップで何十万も出さないと飼えない血統証付きの猫ちゃんだったと思います。手に負えないからという理由で保健所に持ち込んだ飼い主さんの行為は、今でも許せません。引き取ったあと、すぐに動物病院に行って避妊手術をしました。初めておうちに迎えた際には、私の足元に擦り寄ってきたり。その日、ベッドで一緒に寝たりしたんです。決して乱暴な猫ちゃんではありませんでした。おそらく愛情不足だったのだ思います。自分を見てほしくて、かんだり、引っかいたりしていたのではないかと感じました」
◆元保護猫・姫ちゃん、用水路から保護された子猫を“母猫”のようにお世話をした
そして、姫ちゃんが保護されて5カ月ほど経った8月。
生後1カ月ほどの死にかけた子猫が藤森さんのところにやって来ました。
子猫は肥料袋に入れられて用水路に流されていたところを助けられたといいます。
助けられた子猫のほかにも4匹の子猫がいたそうですが、既に溺死でした。
「用水路は田んぼから水を引いており、思いのほか水量も多くて・・・ただ、保護された子猫だけは空気の入り込んでいた場所にいたので、かろうじて息をしていたんです。引き取りに行った際には、低体温でぐったりとしていた子猫。自分の体温で体を温めたり、水を吐かせたりしてしました」
子猫を自宅に連れ帰ったあとも、必死にお世話をしたという藤森さん。
そんな様子を見守っていた姫ちゃんが近寄ってきたといいます。
「最初、自宅に連れ帰った子猫に対して姫ちゃんは『シャー』と威嚇していましたが。そのうち姫ちゃんは興味深そうに子猫のお世話をしている私のところにやってきたんです。子猫も姫ちゃんに近付きました。子猫はお母さんだと思ったのか、姫ちゃんのお乳を吸い始めたり。姫ちゃんもなめてあげたり、排泄させてくれたり。お互いに心を許し合って寄り添っていました」
このとき、出産も子育ても経験のなかった姫ちゃんが、頼ってくる子猫を目の前にして自然と母性に目覚めた瞬間でした。
その翌日、子猫はすっかり元気になり、たくさんのミルクを飲んだそうです。
一命を取り留めた子猫は女の子。
「いろは」ちゃんと名付けられました。
いろはちゃんは体調が安定するまで姫ちゃんに2カ月ほど育てられ、今は里親さんのところで幸せに暮らしています。
◇ ◇
◆失明や半身不随の猫や病気の猫たちからも慕われる姫ちゃん
シェルターでは、年下の猫ちゃんからとても好かれているという姫ちゃん。
失明や半身不随などのハンディを持った猫や病気の猫たちもいつも姫ちゃんに寄り添ってお昼寝をしています。
姫ちゃんのお母さんのような包容力に助けてもらいながら、シェルターの運営をしているという藤森さん。
「いろはちゃんをはじめ、これまでたくさんの子猫をお母さん猫のように育ててくれました。一番心強いのは、子猫の排泄をうまく誘導してくれること。母猫というのは子猫の肛門付近をなめて排泄を促しますが、出産経験がなかったのに姫ちゃんはとても上手です。とっても頼りになります」といいます。
ただ、姫ちゃんを見捨てた飼い主への怒りは今も消えていません。
「姫ちゃんは、私たちの活動を支えてくれる大事な存在です。もっと愛情をかけて接してくれていたら保健所に処分してほしいと持ち込むこともなかったでしょう・・・とても残念です。動物を捨てる人は後を絶ちませんが、そんな人たちの中には子猫のとき、子犬のときはかわいかったからと飼い始めたのだと思います。でも、生き物はかわいいだけでは飼えないんです。たった1つの命ですから、動物を飼われた方は最後まで大切にしながらともに生きてもらいたい」
藤森さんが保健所から引き取った当時4歳の姫ちゃん。目が鋭かったという
シェルターで年下の猫たちに慕われる姫ちゃん(中央)
溺死しかけた子猫に添い寝する猫さん、子猫は一命を取りとめた
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)