<飼育動物の安楽死>後編 命の「みとり」どう選択
2021年7月11日(日) 中日新聞
今月のテーマは「飼育動物の安楽死」。
前編では、身近な動物の安楽死に対して多様な考え方があることを取り上げました。
それでは「動物の最期」と向き合う時に必要な視点とは-。
専門家の意見に触れながら考えを深めましょう。
(北村希)
■都合で決めてはダメ 関西大非常勤講師(倫理学)・鶴田尚美さん
関西大非常勤講師(倫理学)・鶴田尚美さん
現在、ペットは、フードや医療の質が上がったことで長生きするようになり、人間と同じがんなどの慢性的な病気も増えてきています。
治療を続けるか否かの選択に迫られる機会も増えています。
私も飼い猫6匹をこれまでみとりました。
安楽死は選んでいませんが、同じ腎不全という病気でも、強制的に食べさせて治療をした例もあれば、積極的な治療はせず自然に任せた例も。
何が正解とは言えません。
死から目を背けたくなる人もいるでしょう。
しかし飼い主に最低限必要なのは、現実を直視し、治る見込み、治療の選択肢を情報収集し、理解すること。
苦しむ姿を見ていられないとか、経済的な理由だとか、人間側の都合で安楽死を選ぶことは倫理的に認められません。
ペットの保険に入っておく、一人暮らしの人は後見人を見つけておくなど、事前にできることはあります。
飼い主の急な入院など、どうしても事情がある場合は、動物の介護施設に預ける選択もあります。
新型コロナウイルスの巣ごもり需要でペットを飼う人は増加。
飼う時には10年以上生きることを理解した上で、長期的な見通し、命を引き受ける覚悟を持つことが求められています。
■飼い主の意思大切に 峰動物病院院長・沖山峯保さん
峰動物病院院長・沖山峯保さん
40年以上、獣医師をしています。
いろんな考え方があると思いますが、飼い主の気持ちが第一。
動物を飼い続け、最期を決める責任があるのも人間だからです。
動物の最終的な意思をくみ取るのは難しく、残念ながらきれいごとにすぎません。
日本では安楽死という言葉を出すことすら遠慮してしまう人が多いですが、飼い主が納得できるよう、私は選択肢の一つとして安楽死の提案はしています。
提案時には方法、安楽死を実施する目安などを詳しく説明します。
例えば腎不全では、けいれんが起き始めた時を一つの目安にしています。
大切なペットがけいれんや発作、嘔吐(おうと)を繰り返すのを見ていられないという感情は当たり前。
「かわいそうで見ていられない」とか、「老衰でこれ以上、頑張らせたくない」といった理由も受け入れます。
逆に迷いが少しでもあるなら、安楽死の選択をしない方がいい。
納得がいっていないと、トラウマ(心的外傷)となり、動物にまともに向き合えなくなってしまう人もいるからです。
人間の気持ちは千差万別なので、安楽死の共通の条件を作るのは難しいと思います。
飼い主が自らの考え方に合った信頼できる獣医師を選ぶことが大事です。
■記者はこう考えた
動物園の赤ちゃん誕生のニュースばかりに反応していたが、盛岡市動物公園の記事を機に、死にも向き合わなければと、このテーマを選んだ。
動物の安楽死について結論は出ないが、自分だったらエゴと言われても治療を尽くすかもしれない。
少なくとも治療や体の状態について飼い主は最大限に理解し、獣医師は説明を果たす責任があると感じた。
日本で安楽死を話題にするのがタブーな風潮は、その責任を阻んでしまうのでは、とも。
タブーだからと議論すら避けられているテーマが、他にもまだありそうだ。