「僕みたいな商売必要でしょう」ケージに糞尿が堆積、緑内障で眼球が突出
・・・売れ残った犬猫を回収する“引き取り屋”の言い分
2021年6月22日(火) 文春オンライン
動物取扱業者による虐待飼育などの社会問題を背景に、2012年9月に動物愛護法が改正された。
しかし、法改正の内容は動物取扱業者への規制強化という観点からはきわめて不十分なものだった(このため2019年6月、動物愛護法は4度目の改正が行われた)。
その証拠に、現在も全国で数多くの見過ごせない虐待が起こっている。
ここでは、朝日新聞記者の太田匡彦氏が動物虐待の実態に迫った著書『 奴隷になった犬、そして猫 』(朝日新聞出版)の一部を抜粋。
売れ残った動物を回収する「引き取り屋」の実態を紹介する。
※本稿にはショッキングな写真がございます。ご注意下さい。また、登場する人物の所属先や肩書、年齢、団体・組織名称、調査結果のデータなどはいずれも原則として取材当時のものです
◆ ◆ ◆
◆想定外の闇ビジネス
第1種動物取扱業者への規制強化が不十分なものとなったために、犬たちを巡る「闇」はさらに深さを増す。
栃木県内の大量遺棄事件で逮捕された、ペットショップ関係者の男。
この男は実は、犬猫の「引き取り屋」という、一般には聞き慣れないビジネスを営んでいた。
事件は死んだ犬たちの大量遺棄として発覚したが、問題の根は、男が営む引き取り屋というビジネスにあった。
男は、愛知県内の繁殖・販売業者から100万円を受け取って犬80匹を引き取っていた。
それらの犬を運搬中、結果として多くを死なせてしまったのだ。
2013年秋から繁殖業者やペットショップによるとみられる犬の大量遺棄事件が顕在化した。
埼玉県の橋谷田元・県生活衛生課主幹は言う。
「栃木県で起きた大量遺棄事件の犯人が逮捕されて初めて『引き取り屋』という業態があることを知った。動物愛護法第35条の改正で、業者は犬の引き取り先を探すのに苦労しており、闇でこういう商売が出てきているのだろう」
「闇」となるのには理由がある。
引き取った犬猫を一部でも販売していれば第1種動物取扱業(販売)の登録が必要だし、ペットホテルやペットシッターのように犬猫の保管を目的としたビジネスを営むなら第1種動物取扱業(保管)の登録を求められる。
だが、栃木県で大量遺棄事件を起こし、逮捕された男のように単に引き取るだけなら法の網の目をかいくぐれる。
そもそも、「引き取り屋」というビジネスを、動物愛護法は想定していなかった。
こうしたことから、行政の監視、指導の手は届きにくくなる。
「(栃木県で大量遺棄事件を起こした男が)犬の引き取り屋をしていたことを把握していなかった」(栃木県動物愛護指導センター) 「そういう業者がいるかもしれないと懸念しているが、把握できていない」(群馬県動物愛護センター) 「潜在的にいくつもあるのかもしれないが、行政としては把握するすべがない。次の法改正の大きな課題になる」(埼玉県生活衛生課)
犬猫たちの前に、大きな闇が広がっていた。
◆「引き取り屋」の実態
栃木県矢板市で営業する犬猫の「引き取り屋」。引き取られた犬猫の多くが、この環境で一生を終える。
写真=動物愛護団体提供
引き取り屋とはどんなビジネスなのか――。
2012年の動物愛護法改正の取材を終え、13年9月にその改正法が施行されて以降、ペット業界への法改正の影響について掘り下げていた私は、そんな焦燥にかられた。
引き取り屋ビジネスの実態を解明するため、14年1月、15年3月、16年8月の3回にわたり、私はある引き取り屋を訪ねた。
栃木県矢板市内の最寄りのインターチェンジから車で数分も走ると、コンテナやプレハブが雑然と並んだ一角が現れる。
入り口で声をかけると、初老の男性が姿を見せた。
後に動物愛護法違反(虐待)と狂犬病予防法違反(未登録・予防注射の未接種)の容疑で栃木県警に書類送検されることになる、白取一義氏だ(動物愛護法違反については不起訴処分)。
2度目に訪ねたとき、白取氏は時間をかけて、引き取り屋ビジネスについて語ってくれた。
「僕が引き取りやってるのをペットショップや繁殖業者が知っていてね。依頼を受けて犬や猫を引き取っている。お金をもらって」
建物からはひっきりなしに犬の鳴き声が聞こえてくる。
白取氏に案内されてプレハブの中に足を踏み入れると、犬たちの吠え声につつまれた。
会話もままならない。
放置されたままの糞尿のにおいで、息をするのが苦しい。
犬たちは小さなケージに入れられ、足元は金網。
ケージには犬の毛がびっしりとからみついていて、多くが三段重ねにされている。
なかには2匹一緒に入れられ、ほとんど身動きできない状態の犬たちもいた。
圧倒的に犬が多いが、猫たちの部屋もあった。
猫もケージに入れられたまま。
爪が伸びっぱなしで何重にも巻いてしまっている猫や、皮膚病でかきむしったのか流血している猫がいて、ほとんどがじっとうずくまっていた。
◆「僕みたいな商売……、必要でしょう」
白取氏は栃木、群馬、茨城、千葉など関東各地のペットショップ、繁殖業者から依頼の電話を受けて出向き、犬や猫を引き取っていた。
埼玉県内の競り市(ペットオークション)に行き、「欠点」があって売れ残った犬や猫を引き取ることもあるという。
「週に1、2回は必ず電話があって、どこかに出向いている。1回あたり5~10頭、多いときは30頭くらいを引き取る。昨日は繁殖業者から7頭引き取った。その繁殖業者は『皮膚病になっていて、それはもう治ったんだけど、治るまでの間に生後何カ月にもなっちゃった。市場(競り市)では売れないから持って行ってくれ』って言っていた」
こうして敷地内に、常に150匹以上の犬を抱えていると説明する。
白取氏も含めて3 人で犬の面倒を見ており、「毎日、掃除して、すべての犬を運動させている。売れそうな犬がいれば、繁殖業者や一般の人に5000~2万円くらいで販売する。無料であげるのもいる。死んじゃう犬は年間30、40頭くらい。みんな寿命」と主張し、栃木県動物愛護指導センターにも同様の報告をしていると話す。
白取氏の手元には小型犬だと1万円、中型犬だと2万円、大型犬だと3万円が引き取り料として入ってくる。
猫は5000~1万円程度を取る。
次の買い手が見つかりにくい6、7歳以上だとその倍の料金を取ることもある。
白取氏はこう話す。
「ショップからもよく電話がかかってくるよ。ショップの場合はだいたい5、6カ月以上の子犬を引き取ってほしいと言われる。ペットショップの店頭には20万、30万で売れる新しい犬を置いたほうがいいと、賢い社長はわかってるんだよね。でもバカな社長は、大きくなってしまっても、1万、2万でもいいから売ろうとする。僕はそういうバカな社長には『新しい犬をどんどん入れろ。5、6カ月の犬は俺のところに持ってこい』って言ってる。殺さないで、死ぬまで飼う。僕みたいな商売、ペットショップや繁殖業者にとって必要でしょう」
◆鼻をつくような糞尿のにおいが充満
驚くべきことに、栃木県動物愛護指導センターは、白取氏のビジネスを容認してきた。
たとえば2014年6月、同センターは事前に連絡したうえで立ち入り検査をしている。
だが、「特に問題はないと認識している」と実際に検査に入った県の担当者は取材に答えている。
一方で動物愛護団体の依頼で現地を確認した獣医師は、適正飼養から大きく逸脱した状況だったと指摘する。
「換気できる窓が見あたらず、全体に薄暗くて十分な採光が確保されていない。いずれの建物も、鼻をつくような糞尿のにおいが充満しており、犬たちが暮らすケージに清掃の形跡は見られなかった。脚に糞を付着させている犬も多くいて、長毛種では犬種が判断しがたいほど全身が毛玉に覆われ、四肢の動きが制限されている犬も確認した。皮膚炎や眼病などの可能性がある犬がいたが、適切なケアが行われている様子はなかった」
◆引き取られた犬を待つ「生き地獄」
このような環境で飼育されている犬たちがどうなってしまうのか。
私が朝日新聞に引き取り屋のことを初めて書いたのは2015年3月24日付朝刊だ。
記事には、14年冬に動物愛護団体が内部の様子を撮影した写真を添えた。
同じ動物愛護団体が15年12月に再び、この引き取り屋の様子を確認、撮影した。
そうしたところ、記事に掲載した写真に写っているパピヨンと見られる犬がまだ、せまいケージに入れられたまま飼育されていた。
被毛の状態がかなり悪く、四肢や臀部(尻のあたり)については脱毛も見られる。
この写真が撮影された際、動物愛護団体とともに内部を確認した獣医師はこう話す。
「記事に載った写真に写っていたパピヨンと見られる犬は、皮膚炎にかかっているのになんの治療もなされていませんでした。あの環境ですから、ノミやダニなどの感染からは逃れられません」
このパピヨンも含め、散歩など適切な運動をさせてもらっていないことが明らかな犬がほとんどで、なかには獣医師による治療が必要な状態の犬も少なくなかった――と指摘する。
いくつかの事例をあげてみる。
・爪が伸びっぱなしで、毛玉に覆われている犬。
・精神疾患の一つである、常同障害の症状が出ている犬。
・緑内障のため、眼球が突出している犬。
・既に、目が見えなくなっている犬。
・さらには、狭いケージの床面は金網状になっているため、前脚が湾曲したり、後ろ脚が骨格異常を起こしていたり、という犬たちも……。
列挙していけばキリがないほどに、悲惨な状態だった。
獣医師は言う。
「狭いケージに入れられたまま、適切に管理されずに飼養されているために、犬たちはボロボロの状態でした。猫も数多くいて、巻き爪が肉球に食い込んでいる子や、耳の後ろをかきむしったために肉が露出している子もいました。しかもケージには糞尿が堆積しており、本当に最悪の環境。動物愛護法に違反しているのは明らかでした」
生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでいて…ペット繁殖業者の“生々しい実情”を衝撃ルポ
『「奴隷」になった犬、そして猫』より
SNSや動画サイトで毎日のように目にする子犬や子猫。
愛くるしい動物達の姿に癒やされる方も多いだろう。
しかし、その一方で“可愛くなくなったもの”を襲う悲劇も存在する。
実際、いまだにおよそ4万匹もの犬猫が全国で殺処分されているのだ。
現在は犬に続き、空前の猫ブームが起こっている。
そんなペット産業が抱えている闇とは……。
朝日新聞記者の太田匡彦氏は各所への取材を行い、『奴隷になった犬、そして猫』(朝日新聞出版)を執筆した。
ここでは同書の一部を抜粋し、業者が行う繁殖の重大な問題を指摘する。
※本稿にはショッキングな写真がございます。ご注意下さい。また、登場する人物の所属先や肩書、年齢、団体・組織名称、調査結果のデータなどはいずれも原則として取材当時のものです
◆ ◆ ◆
◆2人で400匹、すし詰めに
福井県は、犬猫約400匹に対して従業員が2人しかいなかった県内の繁殖業者を問題視し、2017年11月以降、繰り返し立ち入り調査を行ってきた。
世話が行き届かず、ネグレクトなどの虐待につながることを懸念したほか、清掃する場所を減らす目的で犬猫を狭いスペースに入れっぱなしにしていたことも重く見たという。
この繁殖業者の施設に県職員とともに立ち入った地元ボランティアらによると、飼育されていたのはチワワやフレンチブルドッグ、ミニチュアピンシャー、柴犬など小型犬が中心。
これら繁殖用の犬猫たちは狭いスペースに、すし詰め状態で入れられていたという。
17年12月時点では、約400匹の犬猫を管理するのに従業員は2人しかおらず、エサは1日1回しか与えられていなかった模様。
病気やケガをしている犬に対して適切な処置が行われていた様子もなく、施設内は「強烈なアンモニア臭で、マスクをしていても鼻をつく状態だった」(地元ボランティア)。
狂犬病の予防注射も受けさせていなかったという。
動物愛護法違反で刑事告発した福井県の動物販売業者の繁殖場(日本動物福祉協会提供)
福井県は、犬猫の数を減らすか従業員を増やすかするよう指導を重ねてきたというが、「動愛法にはあいまいな表現しかない。従業員1人あたりの適正な飼育数に関する基準がなく、数字を示しての指導ができない。一つのケージに2、3匹の犬が入っている状況が動愛法違反にあたるのかどうかの判断も県にはできない」(県医薬食品・衛生課)として、実質的には放置に近い状態だった。
この業者については公益社団法人「日本動物福祉協会」が、動物愛護法違反(虐待)などの疑いで18年3月1日に刑事告発している。
福井区検は同年7月、この業者の代表者(当時)だった40代の男を狂犬病予防法違反で略式起訴したが、福井地検は虐待容疑については不起訴とした。
その後、日本動物福祉協会は福井検察審査会に審査を申し立て、同審査会は19年4月10日付で代表者(当時)の男について「不起訴不当」と議決している。
◆検察官の捜査は不十分
同審査会は、17年12月1日から6日ごろまでの間、この業者では犬猫385匹を狭いケージに入れるなどしていたと認定。
議決では、▽狭いケージに入れる▽コンクリートブロックのマス内に50匹以上の犬を過密に入れる▽エサやりの際に片手でケージ内の犬の首根っこをつかんで引っ張り出した上で別のケージやマス内に入れる――という行為について、動物愛護法が規定する虐待にあたることが「十分に考えられる」と判断した。
また検察官が、福井県の行政獣医師の供述に依拠して「虐待に該当しない」と判断したことについて、「第三者の獣医師の意見を得たり、現場を視認した者から事情を聴いたりする等の捜査を行っておらず、検察官の捜査は不十分と言わざるをえない」とも指摘した。
同審査会が指摘した「行政獣医師」について、福井県は、問題が発覚した当初、取材に対して、17年11月29日にこの獣医師が1人で4時間弱かけて約400匹の犬猫を見たが、「すべて健康な状態で、問題のある犬や猫は見受けられなかった」としていた。
なお、働いていた飼育員の女性2人については、「刑事処分の対象とする必要まではない」と判断し、「不起訴相当」とした。
福井地検は19年10月25日、代表者(当時)の男を、動物愛護法違反(虐待)についてはやはり嫌疑不十分だとして再び不起訴とした。
◆あいまいさが招く悲劇
ほかにも茨城県内では2018年2月下旬、グレートデーンなどの大型犬を取り扱う繁殖業者からボランティアらが一部のやせ細った犬を保護した。
業者を所管する茨城県動物指導センターは「犬猫の飼育管理に関して明確な基準がない。業者を信じて、粘り強く指導をしていくしか方法がない。現状では、自治体にできることには限界がある。動愛法に数値規制を入れてくれれば、きめ細かい指導ができるのだが」とする。
やはり、動物愛護法が機能していない。
静岡県でも問題が起きた。
静岡県焼津市内の県道沿いに建つ戸建て住宅。18年7月中旬に訪ねると、その敷地内に甲斐犬の成犬が24匹、多くがケージに入れられたまま取り残されていた。
所有者は、70半ばの一人暮らしの男性。
これらの甲斐犬を使い、長く繁殖業を営んでいた。
地元紙などに広告を出し、1匹16万円ほどで甲斐犬の子犬を販売していたという。
男性のほかに従業員はいない。
静岡県内の繁殖業者。甲斐犬にとっては十分といえない大きさのケージで飼育されていた。
一部の犬はケージから出せず、排泄もケージ内でさせるしかなかった。
写真=筆者撮影
ところが18年6月下旬、男性は転倒して、そのまま入院してしまった。
親族によると、意思疎通が図れない状態が続いた。
主治医は「失語は避けられず、麻痺も残る。
今後も意思疎通は無理かも知れない」とみているという。
◆NPOのメンバーが見た凄惨な現場
こうした事態を受けて、親族から相談された同市内のNPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」が動いた。
7月上旬に同NPO法人のメンバーらが現場に足を踏み入れた。
すると、大きめのケージには2匹ずつ、身動きもままならない小さなケージには1匹ずつ、犬たちが入れっぱなしになっていた。
足元には糞尿。
生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでおり、続けてもう1匹がすぐに死んだ。
動物病院に運び込まれた残りの2匹にもたくさんのノミやダニが付着していて、貧血状態だった。
同NPO法人は親族とともに成犬たちの世話にあたっているが、警戒心が強く、ケージ内の掃除や散歩はままならない。
首輪を付けたことがない犬がほとんどのため、当初はケージの外からエサや飲み水を与え、ホースで水をまいて糞尿を洗い流すのが精いっぱいという状態だった。
7月下旬になり、多くの犬になんとか首輪を付けられ、一部はケージ外に係留できるようになったという。
同NPO法人の谷澤勉理事長は「犬たちにとって、かなり厳しい状態が続いている。犬の所有権を親族の方に移したうえで譲渡に努めていきたいが、24頭もの甲斐犬に新しい飼い主を見つけてあげることは、かなりハードルが高い。こうなる前に、行政は適切な監視・指導ができなかったのだろうか」と話した。
◆行政による立ち入り検査の判断は「問題なかった」
甲斐犬は、もともと猟犬種として使われていた中型犬。
主人には従順だが、それ以外の人には強い警戒心を示すとされる。
運動量も豊富なことから、本来は長時間の散歩も必要な犬種だ。
この繁殖業者の男性は、倒れるまでは適切に飼育管理をしていたと、静岡県衛生課動物愛護班では見ている。
「年に1回は定期的な立ち入り検査をしており、第1種動物取扱業の登録更新も行われている。現場の判断としては問題なかった」(県動物愛護班)とする。
だが、70代の高齢者が1人で、20匹を超える、豊富な運動が必要な中型犬の世話を適切に行うことは、一般的にはかなりの困難をともなう。
ケージも、甲斐犬の体長・体高では身動きを取るのが難しいサイズのものが一部使われていた。
また、13年に施行された改正動物愛護法で犬猫等販売業者に義務づけられた「終生飼養の確保」の観点からも、疑問が残る。
男性は、策定と順守が義務づけられている「犬猫等健康安全計画」に「自分で終生飼養する」という趣旨の文言を記入していたというが、若い犬では1歳の犬もいることから、日本人男性の平均寿命や健康寿命から考えて終生飼養ができなくなるリスクをどう考えていたのか……。
◆動けなかった行政
静岡県でもこれらの問題は把握していた。
だが、動物愛護法のあいまいさが、指導のネックになっていたという。
静岡県動物愛護班は、犬猫等販売業者に対する指導の難しさを打ち明ける。
「ブリーダー(繁殖業者)に限らず、高齢者による犬猫の飼育について、飼育放棄につながりやすいなどの問題があることは理解している。しかし動物愛護法では、犬猫等販売業者に対して、飼育頭数についての具体的な数値規制を設けていない。そのため今回のような状況でも、『飼育頭数を減らせ』という指導はできず、本人の意思に任せざるをえなかった。ケージの大きさについても、狭ければ当然問題なのだが、やはり具体的な数値規制が動物愛護法にない。これも、感覚だけで判断するしかないのが現実なのです」
後述するように、環境省による「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」が2018年3月に立ち上がり、1回目の会合を開いて各種数値規制の検討を始めていた。
だが、この時点では2回目の会合開催の見通しも立っておらず、議論は思うように進んでいなかった。
「犬猫にとっても業者にとっても、適切な飼育環境を実現できるよう指導していくことが、行政の仕事。それなのに、現行の動物愛護法ではそれが難しい。環境省にはできるだけ速やかに、ケージの大きさや従業員1人あたりの上限飼育数などについて、具体的な数値規制を定めてもらいたい」(静岡県動物愛護班)
劣悪な環境に取り残されている甲斐犬たちについては、新たな飼い主を探す作業を地道に続けていくしか、道がない。
しわ寄せは、犬たちと動物愛護団体へと向かう。
NPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」の谷澤理事長は、「厳しい環境で長年生きてきた子たちに、平穏な余生を送らせてあげたい」と話した。
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「奴隷」になった犬、そして猫
太田 匡彦
朝日新聞出版
2019年11月20日 発売