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飼い主と一緒にホームで暮らした7年半

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飼い主と一緒にホームで暮らした7年半 
「祐介君」は虹の橋へ旅立ちました

2021年5月17日(月) yomiDr.

ペットと暮らせる特養から 若山三千彦

私が経営する、ペットと一緒に暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。
入居者の後藤昌枝さん(仮名、70歳代)と同伴入居した愛猫の「祐介君」について、昨年夏、このコラムで紹介しました。
その祐介君が今年3月、虹の橋に旅立ちました。
15歳でした。


大好きな後藤さんとくつろぐ祐介君

虹の橋とは、ペットを飼っている人の間では広く語られている伝説です。
飼い主より先に死んだペットたちは、虹の橋のたもとで、楽しく遊びながら、飼い主さんを待っている。
やがて飼い主と感動の再会を果たし、そこから二度と離れることなく一緒に暮らす――、と結ばれています。
この伝説は死後の世界について語っていますが、宗教は一切関係なく、どこかの国や民族に起源となる話があるわけでもありません。
20世紀に自然発生的に生まれたストーリーが、インターネットの普及により全世界に広がったとも言われています。
祐介君も今、虹の橋のたもとで幸せに暮らしながら、後藤さんのことを見守っていることでしょう。
祐介君が、「さくらの里山科」で過ごしたのは7年半。
生涯のちょうど半分にあたります。
前半を後藤さんの自宅で過ごし、残り半分を「さくらの里山科」で過ごしたわけです。
どちらも大切な我が家であったろうと思います。
猫は家につき、犬は人につく、と言われています。
しかし猫を飼ったことがある人は、この俗説が必ずしも正しくないことを知っています。
祐介君も、「さくらの里山科」にやってきたその日から、安心し、くつろいでいました。
子猫の頃から7年半ずっと過ごした前の家を懐かしみ、新しい家で落ち着かない、というようなそぶりは全くありませんでした。
大好きな後藤さんが一緒だったからだと思います。
猫もしっかり人につくのですよ。
「さくらの里山科」の居室(完全個室制)には、洗面台が付いており、蛇口は手をかざすだけで水が出るタイプの自動水栓です。
驚くべきことに、祐介君はすぐに自動水栓を使いこなすようになりました。
水が飲みたくなると、洗面台に飛び乗り、ちょいちょいっと蛇口の前に前足を出すのです。
水が出ると、おいしそうに飲んでいました。
猫にはそんな順応性もあるのですね。
もちろん、ちゃんとした水飲みも用意していましたよ、念のため。
ちなみに私は若いころ、一人暮らしをしていた時に猫を飼っていました。
その猫が4歳の時、私の人生は少し慌ただしくなり、仮住まいを含めて3年間で4回引っ越しをしました。
しかし、愛猫は常に落ち着いていました。
どの家に引っ越した際も、好奇心いっぱいで家の中を探検するものの、すぐに安心し、くつろぐようになり、逃げ出すそぶりはありませんでした。
祐介君にとって、後藤さんがいる所が自分の家であるように、私の愛猫にとっても、私がいるところが自分の家だったのだと思います。
猫も人につくものだな、と実感しました。

これ以上幸せな最期はないのでは…

虹の橋へと旅立っていった祐介君

すみません。話がそれました。
「さくらの里山科」に来ても、後藤さんの部屋が我が家になり、幸せに暮らしていた祐介君ですが、だんだんと年を取り、弱っていくのは避けようのないことでした。
12歳の時には内臓の病気が見つかり、手術をして、その後は療養食(キャットフード)に切り替えましたが、それでも年相応に十分元気でした。
しかし、今年に入ったくらいから、急激に食欲が落ちてしまいました。
かかりつけの獣医さんに相談しながら、食べやすい缶詰タイプのキャットフードや、ささみをゆでた物を試したりと、いろいろと工夫したのですが、一時的に少し食べるようになっても、またすぐに食欲が落ちる、ということの繰り返しでした。
3月になる頃には、液状のおやつしか食べられなくなっていました。
それでもしっかり歩くことはできていたので、私たちは、まだもう少しは時間があるだろうと思っていました。
3月半ばのある日、祐介君はぶらりと隣のユニットに遊びに行きました。
隣のユニットに行くのは珍しいのですが、その時は何人もの入居者の部屋を訪れ、しばらくリビングで過ごしていました。
死んだのはその2日後です。
もしかすると別れを告げに行ったのかもしれません。
その日の明け方、後藤さんは床の上で寝ていた祐介君を、ベッドに戻そうと抱き上げたそうです。
そっと抱きしめると、じっと後藤さんの顔を見つめてきたので、しばらくそのまま抱いていたそうです。
互いに見つめ合う幸せな時間が過ぎた後、後藤さんは自分のベッドのすぐ脇にある猫用ベッドに祐介君を入れ、自分もベッドに入りました。
そしてもう一度目を向けた時には、祐介君はもう息を引き取っていました。
後藤さんは、猫用ベッドに入った時にはもう意識がなかったのかもしれない、と考えています。
だから祐介君が最後に見たのは、後藤さんの顔だったに違いないと。
そうだとしたら、祐介君は、大好きなお母さんの顔をまぶたに焼き付けて、虹の橋へと旅立っていったのです。
飼い猫にとって、これ以上幸せな最期はないのではないでしょうか。
このフレーズは、別のエピソードでも使ったのですが、どちらも本気で私はそう思っています。
祐介君と後藤さんの暮らしを最後まで守ることができた。
この一点だけでも、私は「さくらの里山科」を作った意義があると考えています。

若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 

若山三千彦

社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長  1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取(みと)り犬(いぬ)・文福(ぶんぷく) 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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