「ケージ飼い」海外が批判 ニワトリ自由なし/「動物福祉」に逆行
2020年12月8日(火) 中日新聞
元農相が大手鶏卵生産業者から現金を受け取った疑惑、相次ぐ鳥インフルエンザなど、養鶏業の周辺が話題になることが増えている。
その養鶏に海外から批判が出ている。
キーワードは「ケージ飼い」。
どういうことなのか。
(木原育子)
ケージ飼いのニワトリ=アニマルライツセンター提供
「ケージについてですが…」。
こう切り出すと、仕事のやりがいを冗舌に語っていた電話先の相手は口をつぐむ。
数十件の養鶏業者に電話し、どこも反応は同じ。
ようやく一軒だけ取材に応じてくれた。
「俺たちだってニワトリを伸び伸びとした環境で育ててやりたい。でも、安全な卵をこれまで通り提供していくためには、どうしようもないんだ」。その業者はこう漏らした。
それほどナーバスなケージ飼い。
ワイヤ製のかご「バタリーケージ」にニワトリを入れ、ずらりと並べて飼育する方法だ。
産み落とした卵は傾斜を滑らせて集める。
国内では九割を超える業者が採用している。
ニワトリを「密」にして飼育するため、効率良く安価に卵を供給できる。
が、問題もある。
その一つが感染症。
密なだけに広がりやすいのだ。
取材に応じてくれた業者は掃除や消毒を一日に何度もする。
「日本は海外と違ってニワトリを放し飼いできるほど広大な土地はない。ケージ飼いを続ける代わりに、ストレスを軽減するために栄養価の高い飼料に改良を重ねてきた」
そしてもう一つの問題。
ケージ飼いではニワトリが羽を伸ばすことはできず、止まり木もない。
そんなことから欧州は2012年にバタリーケージの使用を禁止した。
欧州の公的機関が出した資料によると、ルクセンブルクでは、全ての卵が、ケージに閉じ込めない「ケージフリー」で育てたニワトリが産んだものになった。
ドイツやスウェーデン、オーストリアもケージフリーが9割以上になる。
ケージフリーが進んだ背景には、「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方がある。
1960年代の英国で生まれた。
動物に対して、飢えや恐怖など五つからの自由を掲げている。その波が、日本にもきつつある。
12年のロンドン五輪ではケージフリーの卵が提供された。
そして東京五輪を前に元五輪選手たちが選手村などでの食事では、ケージ飼いでない卵を出すよう嘆願書を出した。
さらに、国内で事業をしているスターバックスやヒルトンホテルなどは、ケージ飼いの卵を使わないと宣言している。
認定NPO法人アニマルライツセンター(渋谷区)代表の岡田千尋さんは「日本のケージには、動物たちが本来の行動を取れる自由がなく、アニマルウェルフェアの考え方から逸脱している。ケージでの飼育を禁止するのは世界的流れで、日本も取り掛かるべきだ」と求める。
こんな中、国内でもケージを使わない「平飼い」でのブランド卵を売る業者が増えてきた。
ただ、平飼いだと費用がかかるし、土地も必要。
多くの養鶏業者にとっては死活問題だ。
一方、ケージ飼いに批判があっても、生食できる日本の卵は急速に輸出を伸ばしている。
財務省の貿易統計によると、12年の586トンから19年には8、633トンと15倍になった。
日本の養鶏はどう進んでいけばいいのか。
大学院大学至善館の枝広淳子教授(環境経営)は「ニワトリの犠牲の上に、安価な卵が成り立ってきた。世界の常識を共有するために、日本の養鶏業者は変わるべきだし、政府もその費用を負担するべきだ。劣悪な環境で飼育されたニワトリの卵は買わないなど消費者の意識も変わるチャンスだろう」と語る。