コロナで増える密猟、日本人サファリガイドが危機訴え
2020年11月4日(水) オルタナ
新型コロナウイルスの感染拡大はアフリカの野生生物にも思わぬ影響をおよぼしている。
密猟が横行する南アフリカでは、環境保護団体の資金が激減し、自然保護区内で人の移動が減ったことで、ロックダウン期間中、ブッシュミート(食用のための野生生物)をターゲットにした密猟の事件数が増えた。
そうしたなか、南アフリカにいる唯一の日本人サファリガイド・太田ゆかさん(25)は「バーチャルサファリ」を立ち上げ、生態系保全への関心を高めようと奮闘する。
(オルタナ編集部・松田ゆきの)
クルーガー国立公園でサファリガイドをする太田ゆかさん
太田さんは、2015年に南アフリカ共和国へ移住後、アフリカ最大のガイド訓練学校を卒業してサファリガイドの国家資格を取得した。
南アフリカにいる唯一の日本人サファリガイドとしてヨハネスブルグから車で5時間、四国と同じ面積ほどのクルーガー国立公園で環境保護プロジェクトに参加していた。
環境保護プロジェクトの専属サファリガイドとして、国立公園をボランティア参加者や旅行者に案内するほか、国立公園でのパトロールや、傷ついた野生生物を保護するのが主な業務だ。
クルーガー国立公園は動物保護区ではあるものの、密猟者は後を絶たない。
太田さんは数年前、後ろ足が罠にかかり、歩くのもままならず苦しむアフリカゾウを発見した。
ゾウの傷はかなり深く、治療ができないと判断し、その場で安楽死をさせることになった。
針金で作られた罠にかかった草食動物が死んでいる現場にも遭遇した。
「密猟の罠にかかってしまった動物など、私たち人間のせいで苦しむ動物に遭遇すると、悲しく、とても申し訳ない気持ちになります。まだ動物が生きていた場合は、罠の除去をするために麻酔銃で打ったり、捕獲をしたり、野生動物にとってもストレスのかかる対処をしなくてはなりません。安楽死という選択肢しか残されていない場合もあります」。
太田さんは胸の内を明かす。
なぜこうした密猟が横行するのか。
東南アジア、特にベトナムでは、象牙やサイの牙で作られた装飾が富裕層の社会的ステータスのシンボルであり、闇市場では高い価格で売買が行われている。
日本では印鑑の素材として象牙の人気が高く、中国が2017年12月に象牙の販売を禁止した後、日本は世界最大の象牙の取引市場となった。
象牙の国際取引はワシントン条約によって禁止されているものの、日本国内の流通は合法であるため、象牙の密猟・密輸に間接的にかかわっているとして国際社会から批判されている。
新型コロナで旅行者が7割減に
太田さんが主催する「バーチャルサファリ」では、画面越しに生き生きとした動物たちの姿を見ることができる
そうしたなか、新型コロナウイルスの感染拡大はクルーガー国立公園の環境保全プロジェクトにも大きな影響を与えた。
南アフリカの観光業はGDP全体の8.6%、321億ドルを占める(2018年)。
しかし、2020年以降、新型ウイルスで海外旅行者が減少し、観光業の収入が落ち込んだ。
サファリツアー予約サイト「サファリブッキングス」の調査では、調査に協力した294人のツアー担当者のうち9割が「新型ウイルスの影響で予約数が75%減った」と回答した。
太田さんが参加する環境保護団体も活動を休止し、再開の目処は立っていない。
太田さんが協同していた環境保護団体の運営費用の多くは、アフリカの大手旅行会社が賄っており、コロナの影響を受けて団体への資金は大幅に減った。
環境保護団体の資金が激減し、自然保護区内で人の移動も減った。
ロックダウン期間中、サイの密猟が半減した一方で、ブッシュミート(食用のための野生生物)を狙う密猟が増加したという。
「感染拡大前までは、私たちサファリガイドや旅行客がいて、いつも人の動きがあり、密猟者にとっては密猟をしにくい環境でした。私が住むクルーガーでは、多くの人が観光業に従事しており、大量の失業者がでました。とりわけ、生活が困難になった失業者がブッシュミートを狙った密猟を行う事例が増えています」(太田さん)
密猟を取り締まる活動を行う環境保護団体の活動資金も限られ、サファリ業界が厳しい状況だからこそ、太田さんは今できることとして2020年8月からバーチャルサファリを開催した。
映像制作会社と連携し、世界初となるオンラインでの日本語ガイドを行う。
10月24日の無料版バーチャルサファリは、1時間、日本に住む参加者168人をYouTubeの動画配信でつないだ。11月8日は2時間の有料版を開催する。
なぜ太田さんは、密猟などサバンナの諸課題に取り組むのか。
「幼い頃からの目標であった動物保護についてもっと学びたいと思い、アフリカでボランティアに参加したのがきっかけです。初めてのアフリカの大自然に圧倒されると同時に、この繊細で美しい世界が人間の活動のせいで危機的状況にあることを目の当たりにし、ショックを受けました」
「日本での暮らしの中では気づきにくいことが、アフリカのサバンナで生活していると日々現実に起きているということを思い知らされます。日本人サファリガイドとして、日本の暮らす人にももっと興味を持ってもらえるように、身近に感じてもらえるように、アフリカから活動し続けたいと思っています」と意気込みをみせた。
松田 ゆきの