殺処分を行う行政施設の職員「みんな苦しんでいる」
犬や猫の命と向き合うほどに苦悩
2020年10月20日(火) sippo(朝日新聞社)
梅田達也
殺処分機の中の子猫たち
保健所、動物愛護センター、動物指導センター、動物管理センター、名称は統一されていないが、全国には犬猫を収容し、殺処分を実行する多くの行政施設が存在する。
犬猫を殺処分する施設イコール悪の施設、単純にそう考える人が多いためか、行政施設は毎日のように苦情の電話の対応に追われる。
苦情を受けてもしかたのない施設も多いだろう。
しかし、すべての施設がそうなのか。
はたして、そう単純なものだろうか。
「これでまた助けることができる」
「あっ!ちょっと待って、これ持っていって帰りに飲んで!」
行政施設に収容されていた子猫約30匹を引き出して、車を走りだそうとしたときだった。その施設の長であるセンター長が1本の栄養ドリンクを持って追いかけてきた。
「いつもありがとう。これでまた助けることができるよ!」
センター長が息を切らしながら駆け寄ってきて、お礼を言ってペコリと頭を下げた。
そんなことがあったのは1度や2度ではなかった。
センターから引き出した猫
ねこかつがこの行政施設から猫の引き出しをはじめたのは2017年のことだった。
前年度の2016年、この施設の猫の殺処分数は1600匹以上だった。
引き出しをはじめた当初、収容された子猫たちは、収容されたまま段ボールの中に置かれ、収容されたその日の夕方には、そのほとんどすべての子猫が殺処分機の中に入れられ窒息死処分されていた。
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職員が子猫にミルクを与える。
ねこかつが引き出しをはじめたと同じ年、ちょうど時を同じくして、このセンター長のもと、殺処分ゼロへ向けたセンターの改革がはじまった。
「助けるために、何をしたらいいですか?」
センター長やセンター職員から何度も質問を受けた。
「ボランティアが引き出す前に、センターに収容された子猫たちにミルクを1回あげて欲しい。子猫が冷えないように温めて欲しい」
センターから引き出した猫
まずは、そんな要望を出した。
すると、事務室で職員さんたちがミルクをあげてくれるようになった。
子猫の季節には1日20~30匹もの子猫が収容される。ピークには日に50匹も収容される日がある。管理職の職員さんやセンター長もミルクをあげるのに加わった。
「毎日引き出しに行くのは難しい。なんとか数日センター内で子猫や乳飲み子の世話をできるようにしてくれないか」
それまで物置として使われていた部屋が子猫の世話をする部屋にあてがわれた。
センターの改革によって設置された猫舎
「心配な子猫は家に連れて帰って診てるんですよ」職員さんが笑って話してくれた。
猫の殺処分数が一気に減少
この年、この施設に関わったボランティアたちが例年以上にがんばったこともあったが、センター長以下センター職員たちが血のにじむような努力をした結果、猫の殺処分数は前年度の1600匹以上から400匹以下に一気に減った。
そして、その次の年には、生きられる猫の命を強制的に絶つということはなくなった(交通事故など瀕死の状態で収容された猫を注射で安楽死する場合や自然死などがあるため、統計上の殺処分数はゼロではない)。
殺処分機
こうした改革が評価されたためか、動物愛護法改正に関する国会議員の勉強会にセンター長とともに講師として呼ばれたことがあった。
私からは、殺処分をゼロにするためには何をすべきか話をした。
センター長からはセンターでどのような改革があったか話があった。
国会議員や有識者の人たちを交えた公の場である。
淡々としたやりとりが続いた。
「みんな苦しんでいる」
その中で有識者のひとりから質問があった。
「猫を強制的に殺すということはなくなったということだが、犬については残念ながら殺処分が行われている。その殺処分方法について質問したい」
殺処分を安楽死という人もいる。
しかし、殺処分の多くは安楽死とはほど遠い、ガスによる致死処分である。
殺処分機の中に二酸化炭素が注入され、殺処分機の中の犬や猫は10数分もがき苦しみ、血を吐きながら死に至る。
殺処分機のボタン
その方法があまりに残酷なため、代替手段として、注射による薬殺の方法を採用している施設もある。
しかし、注射による薬殺は、注射を行う職員の危険や精神的負担、コストの面で割高であることなどが理由で、ガスによる致死処分に代わりうるものにはなっていない。
「犬に関しては、いまは、殺処分機は使っていません。麻酔薬を混ぜた餌を与える方法をとっています。この方法では、犬は眠ったまま亡くなります」
センター長が先の質問に答えた。
「殺処分ゼロが実現できる日まで、せめて殺処分の方法をこの方法に換えてみてはどうでしょうか」
有識者の方から、国会議員へ提案があった。有識者の方は、動物愛護活動に理解の深い方で、そのやり取りを聞いていた私にも至極まっとうな意見に思えた。
センター内に収容された犬
「この方法でしたら、注射による致死処分のような職員さんへの負担もないように思えますし」
有識者の方がこのように続けた。
そのときだった。
「ちょっと待ってください。薬入りの餌を作り与える職員も、死体を処理する職員も、みんな苦しんでいるです」
センター長が語気を荒らげて言い放った。
殺処分を行う行政施設。
そこで命と真剣に向き合えば向き合うほど、向き合った人間は苦しむことになる。
ただひとつ言えることは、犬や猫のためにはもちろん、苦しむ人間をなくすためにも、殺処分などという制度は一日もはやく無くすべきだということだ。
梅田達也 (うめだ・たつや)
保護猫カフェ「ねこかつ」代表。
保護したり行政施設から引き出したりした保護猫の飼い主を募集する場として、保護猫カフェを運営しながら、ほぼ毎週末、各地で譲渡会を開催している。
TNR活動にも力を入れており、講習会も開いている。
明日のブログに、少し前の記事ですがこの内容と関連した行政施設の職員たちの葛藤と現実の姿「誰も猫を殺処分したくはない―命の現場が抱える葛藤と現実―」を掲載します。
長い記事内容になりますが、ぜひ最後まで御覧ください。
(byぬくもり)