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虐待逃れ、イブがわが家にやってきた

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<二“人”六脚-保護犬イブと暮らして>
 虐待逃れ、イブがわが家にやってきた

2020年11月8日(日) 毎日新聞

栃木県の北東部に位置する自然豊かなまち・大田原市。
吹く風がまだ肌寒い今年3月下旬、異動に伴う引っ越しを済ませた私の目に、部屋に入るや否や、嘔吐(おうと)するイブの姿が飛び込んできた。
車で来た際に乗り物酔いをしたのだろう。
以前にも経験しており、慌てることはなかった。
「あー、新築なのに……。入居早々汚すかあ」
ため息をつきながら汚物を掃除する私を、イブは申し訳なさそうに見つめていた。
イブは保護犬である。
出会いは前任地の福島県会津若松市にいた3年前にさかのぼる。


保護されて女性トリマー宅に連れてこられた時のイブ(当時はゴン太)。
体は汚れ、どこか不安そうだった=福島県西郷村で2017年、女性トリマー提供

◇体は汚れ、ストレスで血尿に
「助けたい犬がいるのだけれど……」
年の瀬も押し迫った2017年12月、福島県南部のまち・西郷村の自宅にいる妻(48)から単身赴任の私に一本の電話が入った。
保護犬を飼いたいのだという。
村内の女性トリマー(38)が、ボランティアで新しい飼い主を探すためにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で「里親」募集していたのを見つけたらしい。
「犬の性格や育った環境が分からないから……」
飼うことに不安を持ち難色を示したが、犬の可愛さに魅せられた妻の意思は固かった。
犬の名前はゴン太と言った。
体長約65センチになる雄の中型犬で、年齢は当時9歳。
人間でいえば、60歳近くになる。
イエローの毛並みがきれいだった。
顔の表情などから判断して、盲導犬で知られるラブラドルやゴールデンなどのレトリバー系に、他の犬種を掛け合わせた雑種とみられる。
トリマーによると、ゴン太は子犬の頃から西郷村に隣接する同県白河市内の老夫婦宅で飼育されていた。
しかし、可愛がっていたおばあさんが病気で死亡。
ゴン太は犬嫌いのおじいさんから虐待を受けるようになった。
犬1匹がやっと動けるような屋外の狭い敷地で短い鎖につながれ、用を足しても甘えてきても竹ぼうきでたたかれた。
それが約3年間続いた。
見かねた近所の人たちが、市内に住む飼い主の娘に相談。
アパート住まいだった娘はゴン太を引き取れず、事情を知ったトリマーが一時預かることになった。
持ち込まれた時のゴン太についてトリマーが振り返る。
「体が黒く汚れ、しっぽが下がっておびえていた。ストレスからか、血尿も出ていた」
連れてきた娘はすぐに帰れず、「新しい家庭で幸せになってね」と犬に話しかけながら、いつまでも頭をなでていた。
目には涙が浮かんでいたという。

◇殺処分減少もゼロには程遠く
現在、国内で飼われている犬・猫の数は推計で約1857万匹(19年、ペットフード協会調べ)。
08年のピーク時に比べて犬で約33%、猫で約10%減少しているものの、依然としてペットブームは続いている。
その一方で、飼育できなくなったり、迷子などで所有者不明になったりした犬・猫が各自治体の保健所や動物愛護センターなどに持ち込まれ、一定の期間を経て引き取り手がなければ殺処分される実態がある。
環境省は13年に改正動物愛護管理法を施行し、適正な飼育をしていない業者や飼い主から動物の引き取りを求められても自治体が拒否できることを明文化している。
同省によると、改正前の12年度は全国で16万1847匹が殺処分されたが、18年度は3万8444匹と約4分の1に減少した。
だが、国が目指すゼロには程遠い。
また、自治体や愛護団体による飼い主への返還や、新しい飼い主探しの活動も盛んになった。
18年度は約5万3000匹が返還・譲渡されるなど、その数は増加傾向にあり、「小さな命」を救っている。
ただ、予算や人員などの問題で、このような取り組みにも限界がある。
さらに自治体に引き取られた犬・猫は18年度で約9万2000匹いるが、多くを占めるのが所有者不明の成犬や老犬、授乳が必要な子猫だ。
特にゴン太のような高齢犬は、新しい飼い主が見つかりにくい。
保健所に持ち込まれていたら、殺処分される可能性が大きかった。

◇新たな「犬生」ともに歩む
ゴン太はおとなしい性格だった。
私が年末年始の休暇で最初に西郷村の自宅で会った時も「クーン、クーン」と鳴いて近づき、あばら骨が分かるほどやせこけていたにもかかわらず、力強くしっぽを振って喜んでくれた。
虐待を受けても人懐っこさを失っていなかったのが救いだった。
「迎え入れても大丈夫かも」と安堵(あんど)した。
妻はゴン太に代えて「イブ」と名付けた。
わが家にやって来たのが12月24日のクリスマスイブだったことが由来だ。
前の飼い主との嫌な思い出がある名前よりはいいだろうと思った。
そして生まれた日も正確に分からないので、迎えた日を「誕生日」にした。
「これから一緒に新しい『犬生』を歩んでいこうね」
そんな気持ちを込めて。

【大田原通信部・湯浅聖一】=つづく、随時掲載します

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