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“動物を乱暴に殺す”日本

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“動物を乱暴に殺す”日本は、世界からこんなに遅れていた…!

2020年10月12日(月) 現代ビジネス

「豚は人の目をまっすぐ見つめ平等に見える」

写真:現代ビジネス

豚についての有名な実験がある。
簡単なテレビゲームを豚に教えてみると、犬やチンパンジーよりも上手に操作し、毎回成功するというものだ。
ペンシルバニア州立大学の故スタンリー・カーティス博士が行った実験である。
豚の知能を知るための研究は多数行われており、毎度素晴らしい成績を収めている。
豚はきれい好き――そんなことを聞いたことがある人も多いかもしれないが、事実だ。
豚はスペースさえあればごはんを食べる場所からできるだけ離れた場所に糞をする。
つまり衛生的な場所で暮らしたいという欲求を持っている。
泥浴びをする行動には、体温を下げ、外部寄生虫を落とし、心身の健康を保つ効果がある。
私たちがお風呂に入ることと同じだが、豚はもう少し賢く、泥のほうがすぐに乾燥しないためより体温維持がしやすいことを知っているという。
あの特徴的な鼻はとても鋭敏かつ頑丈で、地中に隠れたごちそうを掘り起こす。
土を掘る行動は豚にとって重要で自然な行動であり、気になればすぐに鼻を使って地面を掘りはじめる。
豚同士で挨拶をするときも鼻を使う。
子供を産むときは心地よい巣を作るし、子供にお乳を飲ませているときには、人間がするように子守唄を歌って子豚たちを安心させようとする。
母系の6~30頭程度の群れを作り、行動をともにし、子育てを分担したり、他の豚の子供の面倒を見ることも珍しくはない。
英国のチャーチル元首相が述べた「犬は人を仰ぎ見て、猫は人を見下し、豚は人の目をまっすぐ見つめ平等に見える」は、見事に言い得ているように思う。
しかし、もうずっと長い間、私たち人間はこのすばらしい動物を不当に貶めている。

国内の養豚場で何が起きているのか

写真:現代ビジネス

「豚の首を吊ったなど身近な人には知られたくない」――ごく最近まで、ある養豚場で働いていた方の言葉だ。
養豚場では弱って肉用に出荷するまで生きられない豚を農場内で殺処分するが、その養豚場では首吊りという方法を採っていたという。
2020年の今、首吊りのように意識を失うまで時間がかかる方法で豚を殺すという方法は、明らかな動物虐待であり、動物愛護法に違反していると考えられる。
畜産の現場では、動物が苦しみ、そしてそれによって従業員も苦しんでいるのかもしれない。
今、日本の養豚場で何が起きているのだろうか。

世界が廃止する「拘束飼育」

写真:現代ビジネス

日本の養豚場の90%が採用している「ストール飼育」という飼育方法を紹介しよう。
この方法は世界中の養豚場が廃止していっている方法である。
妊娠ストール、分娩ストールという豚の拘束檻は、肉用にされる子豚を産むための母豚が入れられている拘束用の檻だ。
母豚たちは、後ろを振り向くことはもちろん、真横に首を動かすこともできない。
歩くこともできない。
体を横たえれば檻にギチギチにはまりこみ、足は隣の豚の頭に当たる。
地面はコンクリートだ。
説明なく人間がこれに入れられたら、数分後には悲鳴を上げはじめるだろう。
しかし母豚たちは初めて妊娠した瞬間から、殺されるまでの約2~4年間、ストールに拘束される。
母豚は人工的に受精させられ、妊娠ストールに入れられ、妊娠期間の114日間を過ごす。
やることもなく、時々落ちてくる餌を食べるだけ。本来は日中の75%の時間を探索や採食に費やすのに、飼育下では餌の時間は15分程度で終わってしまう。
精神的に追い詰められた豚たちは、異常行動を起こす。
目の前の鉄柵をかみ続けたり、口の中に何も入っていないのにもぐもぐと口を動かし続けたり、鬱状態になり反応が鈍くなったりする。
腹の中で子が大きくなり、分娩直前になったら今度は分娩ストールという、同じく拘束檻に入れられる。
初産のときなどは、母豚はなにもないコンクリートの上であっても、巣の材料になる素材を探す行動を見せる。
子豚の安全をふかふかの草や藁で守るのが母豚のやり方だが、それをすることは許されていない。
子供が産まれ、拘束された状態でお乳をあげ続ける。
このとき、知らない人が近づいてくると母豚は必死で警戒する声を発し、ときに水を飛ばしてみせ、子豚を守ろうとする。
彼女にはそのような無意味な抵抗以外、為す術がない。
生後すぐに子豚たちは無麻酔で尻尾を切られ、また男の子豚は無麻酔で陰嚢に切込みを入れられ睾丸を抜き取られる。
このときの痛みと恐怖で子豚が悲鳴を上げ、母豚も一生懸命に抗議の声を上げる。
目の前で子供が痛めつけられているのに、何もしてやれないのはどんな気持ちだろうか。
この分娩ストールは子豚を潰さないためだと言われるが、実際には分娩ストールでも子豚の踏み潰しは何度も何度も起きる。
母豚に罪はなにひとつない。
振り返ることすら、場所を移動することすら彼女たちにはできないのだから……。
3週間子豚とともに過ごし、母豚はまた子を孕まされ、妊娠ストールに拘束される。
この人工授精までの数日だけ拘束を解く農家もあるが、拘束し続ける農家が60.7%(*1)を占めている。
このサイクルを4回~6回繰り返し、子を産めなくなってきたら殺される。
殺されることが決まり、ストールから出された"廃用"の母豚の様子とはどのようなものだろうか。
養豚場で働いていた方が語る。
「やがて生産効率が落ち経済的価値がなくなれば廃用母豚となり、まるで刑務所努めを終える日のように分娩ストールの扉が開く。  はしゃぐように、飛び跳ねるように、当たり前の喜びを感じるように通路を歩く廃用母豚。その希望に満ちたその背中の先にあるのは、眩しい太陽ではなく、真っ赤な最期である。  歩けることが嬉しくてたまらない様子の母豚だが、屠畜場では前には進みたくない衝動に駆られるのだろう。  彼女たちが最後に目にするのは自分を殺す人間の顔だろうか、それとも床に溜まった大量の自分の血だろうか。それとも分娩ストールで21日間授乳した、自分の子供の幻だろうか。  私は、廃用が決まって農場の通路を嬉しそうに歩く母豚の後ろ姿が忘れられない。  もしも彼女たちが言葉がわかって、君たちはこれから殺されるんだよと教えられたら、彼女たちはどんな後ろ姿で歩いただろうか。  どんな涙を流すだろうか。  それとも、拘束からの解放は死を上回るものだろうか」

世界から取り残される日本
このような身体拘束が豚の健康を心身ともに破壊することは明白だ。
事実、拘束されていると心拍数が上昇し、筋肉量が低下し、骨が弱くなる。
世界はこの拘束飼育を拒絶した。
EUでは2013年から妊娠ストールの使用は禁止(*2)されているし、世界最大であるブラジルの食肉企業も、中国最大の食肉企業も、タイ最大の食肉企業も廃止を明言し、世界中が豚本来の生き方に近づけ、群れで自由に動き回れる飼育に切り替えていっている。
ESG投資のアジェンダの一つにはアニマルウェルフェアが含まれており、アニマルウェルフェアを著しく損なうものの象徴とされる拘束飼育を続ける食肉企業や、その肉を調達し続ける食品企業は投資を得られなくなっていくだろう。
幸いこの拘束飼育をやめたところで、生産性に影響はない。
むしろ、母豚たちは健康になり、廃用にされるまでの期間が伸び、子豚の生育率にも良い影響を与えるようになっている。
海外からもう随分遅れを取ってしまったが、日本でも改善の兆しがある。
豚のストレスを減らしたいと考え一時的に檻を開けたりする試みをする養豚場があったり、プリマハムは今後豚舎を新設または改築する場合は妊娠ストール飼育をやめると決断してくれた。
アニマルウェルフェアは日本の養豚業者にとっても重要なパーツになりつつある。
そんな中にあっても、未だに妊娠ストールの豚舎を作ろうというリスクをもろともしない経営センスの企業もあるのだが……。

母豚の子供はどう飼育されているのか
子豚たちのほとんどは檻の中で群れで飼育され、生まれてから6ヵ月後に肉用に殺される。
生まれて7日以内に、尻尾を切られ、一部の農家では8本の歯を切り潰され、男の子豚は去勢手術をされる。
動物は人間より痛みに鈍感だと勘違いしている人も多いが、それは間違いだ。
麻酔なしで去勢手術をされた子豚は、心的外傷性疾患により死亡することもある。
処置後に震え、足がぐらつき、寝そべることができず、腹膜炎を起こして死亡したりもする。
歯切りに至っては、やる必要性が既にないことがわかっているにもかかわらず、慣習的に歯を切り続ける農家がいまだに残っている。
EUやカナダでは麻酔なしで去勢手術をすることを禁止しており、尾切りも歯切りも日常的に行うことを禁止している。
肉用豚の管理は農家によって結構差がある。
どろどろで汚く過密な豚舎もあれば、バイオベットなどを活用し飼育密度も悪くない豚舎もある。
これらは外からはわからない。
無菌豚と言われるSPF豚などのようなクリーンなイメージの養豚場でも中はドロドロということもある。

殺すところまでがアニマルウェルフェア

写真:現代ビジネス

しかしどのような養豚場でも、農場内での豚の殺処分は行われている。
そうでないのであれば、むしろ苦しみを長引かせ衰弱死や餓死をさせている可能性がある。
これも違法性が指摘できる。
私たちは殺処分に反対しているのではなく、せめて最期の時、長い痛みと苦しみと恐怖の中で死ぬのではなく、一瞬で意識を失わせてほしいと願っているし、それが畜産において動物たちが得られる唯一の救いなのだ。
残念ながら、日本では適切な方法が普及しているとは言えない。
2019年に国は一般社団法人畜産技術協会に農場内の殺処分方法の指針を作らせ公表しているが、内容は曖昧、どの動物にどの方法を使えばいいか判断することは難しい。
そもそも国内で最も一般化している方法は殺菌消毒薬を心臓注射する方法だ。
この方法は他国では聞いたことがないし、薬品の目的外使用は通常反則だ。
安楽であるという証拠は何一つない。
首吊りも2分程度もがき苦しんで死んでいくが、消毒薬も心臓を外してしまうことがあり、そのときは数分以上苦しんで死んでいくことがわかっている。
豚熱などでは二酸化炭素(炭酸ガス)を使う方法も報じられるが、これも豚をとても苦しめる方法である。
欧米で推奨され日本でも導入可能な方法は、電気ショックかボルトガンで一瞬で意識を失わせた後に致死させる方法である。
なぜ日本はこんなに雑に動物を殺すのか。
それは議論されてこなかったからだ。
見たくない、知りたくない、そんなことを言っている間に、粗暴な方法が定着してしまった。
これは養豚農家だけの責任ではない。
消費者と豚肉を仕入れる企業が関心を払ってこなかったことが原因である。
私たちは、ありのままの畜産の現状を知ってほしいと思う。
消費者には知る権利もあるし、この社会に生きるすべての人には人間社会が支配している動物たちを人道的な方法で扱う倫理的責任があるからだ。
そしてなにより、実態を知らなければ、なにひとつ解決はできないからだ。

畜産も食生活も変わり続けてきた
畜産の方法はずっと変わり続けてきた。
生産性を追求する中で間違えた方向に進んだこともあるし、結果的に病気が増えたり、地球環境を追い詰めたり、豚インフルエンザのようなパンデミックを引き起こし多くの人の命を奪ったこともあれば、人間の健康をも脅かす薬剤耐性菌につながったりもしている。
そのような取り返しのつかない失敗を繰り返した結果、世界は集約的畜産の限界を認識し、より人道的で、より自然な畜産の方法に向かっていっている。
アニマルウェルフェアについて、世界から遅れをとって良いことはひとつもない。
この流れに取り残されるということが何を意味するかといえば、社会の持続可能性が脅かされるということを意味する。
アニマルウェルフェアは、動物にとって重要であると同時に、人間自身が生き残るための策でもあるのだ。
殺すことを議論するのを日本人は嫌がる。
畜産農家さえも嫌がる。
しかし、これほどまで嫌がることを動物に押し付けているのだから、畜産動物たちはもっともっと高いアニマルウェルフェアを享受してしかるべきだ。
そして、そこまで嫌がるのだからやはり、動物性食品を植物性に切り替えるほうが心が穏やかになるだろう。
まずは今週末の食事の肉を大豆ミートに切り替えてみてはどうだろうか。
ヴィーガンの生活を取り入れることは今の時代は簡単だし、ついでに気候危機の解決にも役立つし、死亡リスクも減少する(*3)など、いいことづくしだ。
せめて妊娠ストールフリーの豚肉を選ぶ事をおすすめしたい。
どうやったら選べるのか。
それは妊娠ストールが禁止されている国や地域の豚肉を選べばいいだけだ。
国産の豚肉は表示がないので今はそれくらいしか方法がない。

(*1)一般社団法人畜産技術協会の2014年調査
(*2)種付け後4週間と分娩前1周間と分娩時はストールの使用が禁止されていない
(*3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32658243/  https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2412

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事)

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