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多摩川河川敷の猫を追い続ける写真家は訴える

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野良猫「可愛いだけではないんだよ」
多摩川河川敷の猫を追い続ける写真家は訴える

2020年10月15日(木) HUFFPOST


多摩川河川敷で暮らしていた野良猫「シロ」。子猫の時に捨てられたシロは、普段は近くのマンション群の隙間にある小さな公園で暮らし、時折河川敷を訪れていたという。太田さんによって引き取られ、2017年に15歳で亡くなった。

都心に暮らす人々の憩いの場、多摩川(東京・大田区)。
ジョギングや散歩したり、家族や友人とピクニックやバーベキューを楽しんだりする人でいつも賑わっている。
そんな多摩川のある河川敷の片隅で、人知れず生きる猫たちがいる。
ほとんどが捨てられた猫とその子孫。
20匹ほどが住み着いているという。
河原にポツンとペット用のキャリーケースが放置され、その近くで、見慣れない猫が怯えながら隠れている。
そんな光景が、ここでは幾度となく繰り返されてきた。
雨上がりでジメジメとした河川敷の高架下を歩いていくと、ホームレスの住居の陰から、猫が一匹、二匹と姿を見せた。
感染症だろうか。
脇腹の皮膚が痛々しく腫れた猫や、目ヤニで目の周りが汚れた猫もいる。
地元の写真家・太田康介さんは10年ほど前から、こうした猫たちを保護する傍らで、彼らをカメラで追い続けてきた。
「写真を通して、猫たちがどういう状況で生きているかをちゃんと伝えたい。可愛いだけではないんだよ、と」
著書の写真エッセイ『おじさんと河原猫』には、必死に生き抜こうとするそんな猫たちの姿が記録されている。
多摩川に生きる猫たちの過酷な現実とは。 猫を虐待する人が絶えないため河川敷の具体的な場所は明かさないようにという条件で、太田さんと河川敷を訪れた。

「今日も一匹救われた」

多摩川河川敷の猫たち

捕獲器のなかで「ミャーミャー」とか細い声を上げる猫の姿を確かめると、太田さんはほっとした表情を浮かべた。
「よかった、今日も一匹救われた。人懐っこい子だから、どこへ行っても幸せになってくれると思いますよ」
保護された猫は、まだ2、3歳のメス猫だという。
捕獲器の中にいるのに、暴れることもなく、窮屈そうに体を丸める。
「さくら」と名付けられた猫はこの後、病院で健康チェックを受け、里子に出されるのだという。


捕獲器の中の「さくら」。夕方5時、ボランティアが毎日餌をやりに来る時間に合わせて捕獲器を設置した。

捨て猫が後を絶たない多摩川河川敷。
太田さんは、他の個人ボランティアと協力しながら、こうした猫を一匹ずつ保護し、新しい家族を探す活動を続けてきた。
しかし、いくら保護をしても、猫の数はなかなか減らない。
最近もまた新しい猫が捨てられたばかりだ。
河原にペット用のキャリーケースが放置されていると思ったら、近くで見慣れない猫が怯えながら隠れていたという。
過去には、子猫2匹を10メートル近くある橋の上から投げ捨てた飼い主もいる。
ホームレスが必死に看病し、なんとか一命を取り留めたのだという。

飼い猫の3分の1しか生きられない猫たち

多摩川河川敷の茂みに、ボランティアやホームレスが猫のために作った小屋

猫たちは、河川敷の茂みやテトラポット、岩陰などに身を隠しながら生きている。
ボランティアが作った猫用の小屋や、ホームレスの住居もすみかだ。
夕方の5時になると、ボランティアの女性が餌をやりに来る。
警戒心が強い猫たちだが、毎日餌をくれるこの女性にだけは別だ。
撫でられても逃げず、体を摺り寄せて甘える猫もいる。


最近、河原にキャリーケースごと捨てられていた猫

猫たちにとって、河原での生活は常に命の危険と隣り合わせだ。
心ない人から、石を投げられたり、尻尾を掴まれたりするのは日常茶飯事。
時には、ゴルフクラブで殴られたり、毒餌を撒かれたりする悪質な悪戯もある。
カラスやアライグマなどの野生動物も天敵だ。
台風や大雨で川が氾濫すれば、逃げる術を知らない猫たちはひとたまりもない。
また、衛生状態が悪い河原では、ノミやダニを媒介した感染症や猫エイズ・猫白血病などの病気にもかかりやすいという。
飼い猫の寿命は一般的に10年~15年。
しかし、野良猫たちはその3分の1程度しか生きられないとも言われている。
「病気の猫は、捕まえて病院に連れていくこともあります。でも全部は無理なので、状態が悪いのはそのままにするしかない」太田さんは悔しそうにし、こう続ける。
「猫はそもそもペットで、野生動物ではない。人間に守られてしか生きていけないんです」

野良猫「可愛かったな」だけではどうしても済ませられない
太田さんが河川敷と関わるようになったきっかけは2009年、ドキュメンタリー番組で劣悪な環境で生きる多摩川の猫たちを知ったことだった。
自宅で飼っている「愛猫」2匹の姿と重なり、いてもたってもいられなくなった。気が付くと多摩川に車を走らせていたという。
「我が家では猫たちを “蝶よ花よ” と可愛がっていましたから、その仲間がほんの少し離れた河川敷で苦しんでいるというのがショックで、何かできないかと思ったのが始まりです」
それからというもの、猫たちを保護しながら、彼らの姿を写真に収める生活が始まった。
そこには、写真家としてのこんな思いがあるという。
「野良猫を撮る写真家を否定する気は全くないのですが、僕は出会った猫を見て『可愛かったな』だけではどうしても済ませられない。ご飯はちゃんと食べているんだろうか、毛並みが悪いけど調子が悪いんじゃないか、とその猫の背景が気になって仕方がないんです。だから僕は、その場で撮影しておしまいではなく、猫たち一匹一匹を追い続けることで、彼らが生きる環境や、その生き様を伝えていきたい。本当に『猫の環境をもっと良くしてあげたい』という、その気持ちだけでやっています」

台風で猫6匹と一緒に流されたホームレス男性「高野さん」

ホームレス男性の「高野さん」。散歩中の犬にも懐かれるほど、不思議と動物に好かれる人だったという。仲間外れになっているホームレスがいると「どうした?」と一番に声を掛けていたという人柄を、動物も感じ取っていたのだろうか。

『おじさんと河原猫』には、猫たちだけではなく、彼らを取り巻く人間の姿も映し出されている。
河川敷周辺に暮らすホームレスや近隣のボランティアだ。
太田さんが中でも忘れられないのが、ホームレスの「高野さん」だ。
高野さんは2007年頃から河川敷に住み始め、10年以上も猫や犬の世話をしてきた。
世話をしてもらうことを期待して、わざわざ高野さんの小屋の前に猫を捨てに来る人もいたという。
高野さんと交流の深かったボランティア女性はこう振り返る。
「人から『泥棒!』って言われても、猫たちにご飯を食べさせるために、一生懸命に缶を集めていてね。自分はちゃんとした食事は取らないで、いつも安い弁当を値下げになるのを待って買っていました」
2019年10月、台風19号が東京を直撃し、多摩川が氾濫。
そんな中、高野さんは世話をしていた猫たちを見捨てることができず、河川敷に戻ったのだという。
住んでいた小屋の屋根に6匹の猫と避難したが、濁流は残酷にも彼らを小屋ごと飲み込んでいった。
高野さんの行方はいまだ不明だ。
太田さんは『おじさんと河原猫』で高野さんのことを、こう綴っている。
《高野さんのことをあてにして、多摩川に猫を捨てに来る人たちは、高野さんがどれほどの思いで猫を守っていたかなんて、全く知らないでしょう。世話をしてくれそうな人がいる場所に捨てることで、自分の罪悪感を軽くしたかったのかもしれません。でも、その行為が、高野さんのような優しい人を危険な目に遭わせ、「死」に追いやってしまう可能性があるなんて考えもしなかったでしょう。簡単に猫を捨てる人がいる一方で、高野さんは決して猫たちを見捨てませんでした。決して。》

まずは目の前の一匹を救うことから

毎日河川敷に通い、猫に餌をやるボランティアの女性。自宅から自転車で15分と決して近い距離ではないが「来ないと猫たちが心配で逆にストレスになる」のだという。

ペットフードメーカーの業界団体「一般社団法人ペットフード協会」の調査によると、近年は犬の飼育数が減少するなか、猫の飼育数はやや増加傾向にあるという。
全国で飼育されている猫は2019年の統計で、約978万匹だった。
しかし、こうした統計にはカウントされていない野良猫たちがこの瞬間も人知れず、飢えたり、寒さに凍えていたり、病気や事故で苦しんでいたりする。
なかには保健所で殺処分されてしまう猫もいる。
平成30年には、全国で約3万匹もの猫が殺処分された。
「野良猫の問題は多摩川だけじゃない。日本全国どこにでもあります。僕一人で全ての猫を救うことなんて到底できない。でも逆に言うと、目の前の一匹を救うことからしか始まらないとも思うんです」。
太田さんはそんな思いで、これからも猫に寄り添い続けていきたいという。
まずは目の前の一匹から。
新型コロナの影響でペットに癒しを求める人が増えたとも言われているが、目の前の小さな命にどうか愛情と責任を持ち続けてほしい。

吉田遥/ハフポスト日本版


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