セラピー効果絶大! ペットと暮らす癒やし生活
2020年9月30日(水) LIVINGくらしナビ
出典:リビング札幌Web
動物の無邪気な姿を見て、癒やされた経験がある人は多いでしょう。
実は人が動物と接することで得られる効果はそれだけではありません。
今回、動物と過ごすことによるメリットやそれを活用した事例を紹介します。
構成・文/村本香子、撮影/久保ヒデキ(一部除く) 撮影協力/ジョイフルエーケー屯田店ペットワールド
■教えてくれたのは
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今木 康彦さん 獣医師・社会福祉士
株)アニマルアシステッド代表取締役、認定NPO法人北海道障がい者乗馬センター理事長。
7月より札幌市中央区の「モフモフガーデンマルヤマ」内に、ペットの健康や気になることを相談できる「ペットと飼い主のためのモフモフ保健室」を開設。
https://a-assisted.net
■「癒やし」だけではない 動物がもたらしてくれる効果
昔から、動物を飼うことは「子供の情操教育に良い」「世話をすることで責任感が育まれる」などの良い影響があるとされてきました。
また、多くの動物は人間より寿命が短く、飼い主は多くの場合ペットの死を目の当たりにすることになります。
このことは核家族化などで死に接することが減った近年、〝死の準備教育〞として貴重な機会ともされています。
でもそれ以外の多岐にわたる影響がわかってきました。
「アニマルセラピー」という言葉を聞いたことがありますよね。
実はこれは日本で広まった造語。
正しくは「動物介在介入」(Animal Assisted Intervention)といいます。
動物介在介入には、「身体的効果」「心理的効果」「社会的効果」の3つの効果があるとされています。
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■血圧低下やリハビリ面での研究結果が
3つの効果の中でも研究が進んでいるのが「身体的効果」です。
特に血圧を下げることは、さまざまな研究によりわかっています。
一例を挙げると、老人保健施設に犬を連れて行き、入居者が犬と接すると血圧、心拍数が下がり気持ちが落ち着いてくるなど多くの研究結果が報告されています。
また運動機能のリハビリテーションにも、動物を介在させることが効果的です。
例えば障害を持つ人などが馬に乗ることで体の機能を整える「ホースセラピー」。
イギリスには国家資格があり、ドイツでは保険適応されるなどヨーロッパではリハビリテーションの一つの手段として確立されています。
例えば犬好きの人が犬と一緒にリハビリテーションを行うことで、一緒にボール投げをして遊ぶなど、受け身ではなく自分の意思で自然に体を動かせるというメリットがあります。
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■笑顔が出やすくなり、いつしか外へと向かう気持ちも
「心理的効果」は、多くの人が思い当たることでしょう。
好きな動物を見ているだけで無理なく安心感が得られ、笑顔が出やすくなります。
犬や猫に限らず好きな動物を見ればOK。
動物園に行っても、多くの人が笑顔で過ごしていますよね。
そうした心身への好影響が「社会的効果」につながります。
社会的効果とは、動物といることで無理なく外に出たい気持ちになったり、人とつながりたくなったりすることを指します。
例えば視覚障害のある人が、盲導犬がいる場合といない場合では、いる場合の方が外出が増える傾向があるのだそう。
盲導犬と心を通わせ、パートナーができると外に向かう力がわいてくるというわけです。
また、誰かと2人きりでいて、そこに動物がいると会話が弾んだり、逆に沈黙でも気まずさが無く気にならなかったという経験はありませんか?
動物は人と人とを結びつける潤滑油にもなってくれます。
■今木先生が見た 人間と動物のいい関係
・身体的効果編
膝の手術をした高齢の女性・Aさんは、室内で平行棒を使い、ゆっくり歩くリハビリをしていました。
Aさんは犬が大好きで、ボランティアの犬が来るといつも痛むはずの膝の上で抱きかかえるほど。
あるとき今木先生と担当の作業療法士のBさんはAさんに「犬の散歩をしてみますか?」と尋ねると快諾。
病院の屋上に犬を連れて行ってリードを渡すとAさんはスタスタ歩き出したのです。
先生とBさんは「歩けるじゃないですか!?」とびっくり。
今後は犬ともっと長く散歩することを目指し、リハビリのプログラムを組むことになりました。
・心理的効果編
重度の認知症で高齢者施設に入居していた女性・Cさんは、普段は無表情でなかなか会話もできない状態でした。
ある日、ボランティアで訪れた小型犬を抱っこすると、Cさんがスーッと“お母さん”の顔に。
声をかけてあやしながらしっかり抱きとめ、職員とちょっとした会話もできました。
そんなCさんの様子と犬のかわいらしさで施設のスタッフも心が癒やされる出来事でした。
■動物と過ごす好影響を 取り入れた活動はさまざま
前項では「動物介在介入」の効果について説明してきました。
では実際にどのように行われているのでしょう?
主に、下記の3項目において動物が活用されています。
医療や介護の現場で、実際にリハビリなどで患者向けのプログラムに動物を介在させることを「動物介在療法」といいます。
動物を介在させて教育に取り入れることを「動物介在教育」。
小学校でウサギなどの動物を飼うことなどが代表的です。
最後が、ボランティアで老人施設や医療施設などを訪れる「動物介在活動」で、日本では現在、これが最も多く行われています。その事例を2つ紹介します。
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事例1 英国のホースセラピーを取り入れ 乗馬でリハビリテーション
認定NPO法人北海道障がい者乗馬センター
札幌市中央区盤渓にある「北海道障がい者乗馬センター」。
ここではホースセラピーの本場・イギリスで学んだインストラクターの指導で、障がい者も乗馬を楽しむことができます。
馬に乗ったとき、揺れに合わせてバランスを取ろうとする動きがリハビリ効果につながるのだそう。
理事長を務める今木さんは「障害を持った人が20、30分乗るだけで明らかに体に変化が出ることが多いんですよ」と話します。
ここでは高齢者、子供をはじめ健常者も乗馬を楽しむことができます。
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馬に乗ると姿勢がシャンとします
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子供も大人もOK。健常者も乗馬が楽しめます
写真提供/北海道障がい者乗馬センター
事例2 「離したくない」と大人気! 入居者が元気になれるふれあい活動
社会福祉法人さっぽろ慈啓会 慈啓会老人保健施設
慈啓会老人保健施設は昨年5月に「札幌市小動物獣医師会」がボランティアで行う、入居者と犬猫とのふれあい活動を受け入れました。
よくしつけられた犬や猫が数十匹訪れ、40〜50人の入居者と順番にふれ合う内容です。
ペットを飼っていた人もそうでない人も楽しみにしていて、始まるとみんなニコニコ!
自分の番が来て抱っこをしたら「もう離したくない!」と熱烈にかわいがっていたのだとか。
看護部長の荒木美弥子さんは「皆さん本当にいい表情をなさるんです。元気になりますよね」と話します。
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、この活動は休止中。
でも機会があればまた受け入れたいと考えているそうです。
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写真提供/札幌市小動物獣医師会
■「終生飼育」するということ みとってからも続く関係こそが終生飼育
現在「ペットを飼っている」という人や「これからペットを飼いたい」と思っている人もいるでしょう。
飼う以上、最後まで責任を持って飼うべきなのは言うまでもありません。
でも実際には人間の都合でペットを手放す人がいることも事実。
また犬や猫の場合、出会いの場となるショップや譲渡会では子犬(猫)の方が人気で、成犬(猫)は飼い主が見つかりにくいことが多いそう。
今木さんは「小さいときは確かにかわいいし、子犬(猫)の時代はほんの一瞬だからかわいがってあげてほしい。でも大きくなってからもいろいろな表情や行動、能力があるのでそれもたくさん見てあげてほしい」と話します。
また、寿命が短い動物を飼うことを「病気になったらかわいそう」「みとるのが辛い」と考える人もいるのではないでしょうか。
でも「高齢になった犬や猫と過ごすゆったりとした時間も大事なものになるはず」と今木さんは話します。
また「病気になったとき、当のペットは飼い主の心配や愛情が強く向いているのを感じ、体は辛いとしても心は満たされているのではないでしょうか?」とも。
動物たちは最期まで多くのことを教えてくれ、亡くなってからも心の中にずっと存在するはずです。
そのことを含めて“終生飼育”と考えてみてはいかがでしょう。