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原発事故の町で家畜と暮らす「ナオトさん」

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原発事故で避難指示が出た町で家畜と暮らす「ナオトさん」からコロナ禍に学ぶこと 中村真夕監督

2020年9月23日(水) 東京新聞

原発事故で避難指示が出た町で、1人残って動物たちと暮らす男性を追ったドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」を発表してから5年がたつ。
「ナオトさん」と皆に呼ばれる福島県富岡町の松村直登さん(61)。
私はその後も毎年、カメラを手に富岡町に通い、続編にあたる「ナオト、いまもひとりっきり」を制作した。
現在、ネットで緊急配信している。


牛と松村直登さん(「ナオト、いまもひとりっきり」の一場面より)

◆帰還困難区域に開通したJR駅で
撮影開始から7年目となった今春。
ナオトさんはいつもの作業着姿で、微笑(ほほえ)みながら迎えてくれた。
4月の緊急事態宣言で都心部すら閑散となった東京と比べ、福島は明るく、晴れやかに見えた。
だがそう感じたのは一瞬のことで、福島の現状は相変わらず厳しかった。
富岡町内にあるJR常磐線「夜ノ森」駅をナオトさんと訪れた。
駅の周辺は帰還困難区域なのに、東京五輪開催のために無理やり開通させた。
真新しい駅は、人影もまばら。
ナオトさんは「なにが『復興五輪』だ。原発事故だってまだ全然収束してねえし、町民だってほとんど帰還してねえのに」とつぶやいた。
避難指示後も、2017年の一部解除後も、ナオトさんは変わらず自分の家に住み続けている。いろいろな動物の世話をし、生き死にを見つめながら淡々と暮らしている。

◆国策の末の原発事故…なぜ住民が責任をとらされるのか
原発事故直後、国からは家畜の殺処分命令が出た。
ナオトさんは、「殺したくない」とそれを拒否した近所の老夫婦から牛を預かり、世話をしている。
今やその牛も2代目だ。
愛猫のシロとサビは、それぞれ2回出産し、十数匹の猫たちが生まれた。
毎年訪れる度に、新しい動物の家族が増えている。
たくましい生命力にいつも驚きを覚える。
ナオトさんは「放射能で汚染されたからと、家畜を殺す権利などない」と訴えてきた。
この人にとって、動物はペットや家畜ではなく、一緒に生きていく家族であり、仲間なのだ。
そんなナオトさんの考え方は真っ当なのだと自然に感じる。
いつから人間は動物たちより上だと勘違いするようになったのだろうか。
撮影中、私は何度も「なぜ逃げないのですか」とナオトさんに問い続けた。
その答えは、「おらは何もおかしなことしてねえ、自分の家に残っただけだ。おかしいことをしたのは国だべ」だった。
国策の末に起きた原発事故。
なぜ住民だけが責任をとらされ、故郷を捨てて逃げなければいけないのか。
真っ当すぎて、私は反論できなかった。

◆コロナ禍で「東京の人は来ないで」と言われ
皮肉なことにコロナ禍で、東京に住む私たちは、地方の人々から「東京の人は来ないでほしい」と言われるようになった。
それを経験して、「放射能汚染されている」と偏見や差別に直面した福島の人々の苦しみに、少しは共感できるようになった気がする。
「目に見えない脅威」への恐怖によって、偏見や差別といった人間の醜さが露呈する。
世の中が動揺している今、福島を訪れ、動物たちと共に地に足をつけて暮らしているナオトさんを見ると、私はちょっと正気を取り戻せる。
ある種のパニックになっているからこそ、一歩引いて冷静に現実を見つめたい。
ナオトさんと動物たちは、その大切さも教えてくれている気がしている。


中村真夕さん

なかむら・まゆ 映画監督。
「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」が公開中。


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