【ABC特集】
飼い主が認知症! そのとき猫たちは?
「多頭飼育崩壊」壮絶すぎる現場
2020年9月1日(火) ABCニュース
不妊手術などを行わずにペットを異常繁殖させてしまい、飼育することが困難になってしまう、いわゆる「多頭飼育崩壊」。
そこには、飼い主の怠慢だけでは片付けられない根深い問題を抱えています。
そこからなんとか救い出そうと奔走する、一人の女性の活動に密着しました。
お昼寝する猫の映像ではありません。多頭飼育崩壊の現場です
田園地帯が広がる兵庫県のとある街。その住宅街の一角…。庭先には気持ちよさそうに眠る数匹の猫の姿が…。
「めちゃかわいい、寝てる~。ちょっとやせ気味さんに“妊婦”さんもいますね」
NPO法人「人もねこも一緒に支援プロジェクト」代表の小池英梨子さん(30歳)。
3年前から、多頭飼育された猫とその飼い主を支援しています。
「人もねこも一緒に支援プロジェクト」代表の小池英梨子さんに繁殖し過ぎた猫たちの相談をする大畑健司さん
「この家に住んでいるのはお母さんとお兄さん。お父さんは?」(小池さん)
「もう他界しています」
大畑健司さん(仮名 37歳)。
母と兄の2人が暮らす実家には、常に30匹ほどの猫がいるといいます。
離れて暮らす大畑さんですが、近所から苦情が相次いでいると連絡を受け、小池さんにSOSを出しました。
「母親が去勢や避妊の知識が全くなくて野放し・・・増えるだけ増えてしまいました」(大畑さん)
猫の繁殖能力は高く、不妊手術をしなければ2匹の猫が、1年後には50匹にもなることがあるといいます。
大畑さんが家を離れている7年の間に、実家はゴミ屋敷のような姿に変わり果てていました
<台所へ入る2人>
「やべぇことになっとんな」(大畑さん)
「だいぶ悪化している感じですか?」(小池さん)
「そうですね。僕がおった時からは見る影もない」(大畑さん)
家の中に入ったとたん、鼻を突き刺すような異臭…至る所に、ゴミが散乱していました。
「バタバタ!バタバタ!(猫が走る音)」
「お~~~~」(びっくりする小池さん)
母親の寝室は大畑さんの想像を超えるありさまでした
今から7年前、父親が他界。その後、大畑さんは家を出ました。
母親は、寂しさを紛らわすため、2匹の猫を飼い始めたといいます。
(ドアを開け母親の寝室に)
「この障子がすごいですね」(記者)
「父が亡くなった時、僕が張り替えたんですけど、こないなことになっとるとは…。まさか、まさかですよ。こんなにいっぱい(猫が)増えてこんなことになるなんて」(大畑さん)
近所の人達の不満もピークに近づいています
最大の問題は、猫たちが集落を自由に動き回ること。
大畑さんの飼い猫も野良猫も関係なく、交尾を繰り返していました。
住民たちも不満を抱えています。
「猫被害は正直あるんです。やわらかい土のところに糞をしていたりね」
「そうですよね、すみません」(小池さん)
「村にも迷惑かかるし、シッと怒るんやけど」
「もう何でも食べますもん。この頃はセミを狙ってますわ」
いったい、何匹の猫が出入りしているのか。
大がかりな捕獲作戦が必要でした。
「不妊手術をして全頭(家に)戻して、この猫たちに関してはご家族で責任をもって看取っていただくという方針でサポートしていきます」(小池さん)
30匹の猫たちの大捕獲作戦が始まります
<捕獲作戦の日>
この日、小池さんたちは、30個の捕獲機を持ち込みました。
その中にエサを入れます。
「奥のごはんを食べ進めると踏み板があるので、踏み板を踏めば自動的に閉まるようになっています」(スタッフの梅本幸子さん)
「猫が捕まって暴れそうだったら布をかけたら静かになるので」(小池さん)
よほどおなかが空いているのでしょうか。あっさりエサにおびき寄せられケージに入ります
前回の訪問で、やせている猫を多く目にした小池さん。
臭いにつられて、捕獲器に入ってくるとみていました。
「(エサでおびき寄せ猫を捕獲し)ごめんね、びっくりしちゃうね、ごめんね」 「いいペースだと思います。初めての捕獲器なので、まさか食べていたら入り口が閉まるなんて思わないんで」(小池さん)
目の前のエサに罠が仕掛けられているとは夢にも思っていなかったにちがいありません
次々と捕獲される猫たち…気づけば3時間が経過していました。
見える範囲の猫はみんな捕まったようです。
「じゃ、お疲れ様です、一旦、病院に猫を入れてきます。あした手術であさって退院になります。お疲れ様でした、ありがとうございます」(小池さん)
この日、捕獲したのは、野良猫も合わせ22匹。
「今、あの環境にいる猫たちに最大限してあげられることは、不妊手術をして、これ以上増えないようにしてあげること。まず、すぐにできる一手が何かということを考え行動することが大事なんじゃないかなって思います」(小池さん)
大阪ねこの会(大阪・八尾市)
大畑さんの猫たちが連れてこられたのは、大阪府八尾市にある「大阪ねこの会」。
ここでは野良猫や、多頭飼育崩壊の猫を保護し、獣医師がボランティアで不妊手術をします。
「(バリカンで猫の毛を剃りながら)おなかパンパンだね。もう妊娠後期ですね」(小池さん) 手術に備え小池さんもサポートに入ります。
ボランティアの獣医師たちが年間およそ2000匹の不妊手術を行います
全身麻酔をかけられた猫たち。
ここでは、年間およそ2000匹の不妊手術をしています。
2匹が1年後には50匹にも増えるという、驚くべき猫の繁殖能力。
大畑さんの猫も妊娠していました。
「結構大きくなってる?」(記者)
「大きくなってますね。だいたい(妊娠)50日くらい、あと10日で産まれます」(山口武雄 獣医師)
すべての猫たちを救えるわけではないのです
お腹からでてきたのは、これから生まれようとしていた4つの小さな命。
「全部の(子)猫に“里親”つけて、猫として一生全うさせることができるかというと…なかなか難しい。早めに不妊手術をして生まれないようにするというのが一番の得策だと思います」(山口獣医師)
不妊手術をすれば、病気のリスクや、野良猫などの殺処分を減らすことにつながり、失われる命を救うことになるのです。
究極の目的は猫たちの失われる命を救うことなのです
通常1匹2万5000円ほどする手術費も、ここでは3500円。
手術を終えた猫には、見分けがつくように、耳にカットを入れます。
「不妊手術がかわいそう、堕胎手術がかわいそうという意見もある。けれど、ここで止めないと殺処分とか、もっとかわい哀そうな命が増えてしまうというところがあるので」(小池さん)
結局、大畑さんの猫4匹が、合わせて10匹を妊娠していました。
多頭飼育崩壊を起こした家のアフターケアを定期的に行っています
「こんにちは~、お邪魔します」
小池さんの仕事は、猫を保護し不妊手術をするだけではありません。
多頭飼育崩壊を起こした家庭を2か月に1度訪問し、サポートをしています。
「猫たちの体調はどうですか?」(小池さん)
「大丈夫やと」(飼い主の女性 35歳)
うつ病にかかった飼い主の女性(35歳)
こちらは母と3人の子どもの母子家庭。
現在、8匹の猫がいます。
母親が「うつ病」になったことで、猫の管理が困難となり、一時は13匹まで増えました。
小池さんは、多頭飼育崩壊を起こした家庭にも、不妊手術をした猫たちを返すことにしています。
「世話は最後まで飼い主が‥」それが基本方針です。
「(不妊手術後)生活環境は変わりました?」(記者)
「(猫の)発情ごとに病院に行くことがなくなったので、そこの安心はあります。家の異臭も前に比べてなくなったかなと」(飼い主)
あえて飼い主に戻し、生活を見守ることで、多頭飼育の再発を防いでいるのです。
ガンを宣告されている荻野明人さん(仮名)と猫たちを気遣う小池さん
そして、小池さんには、今、一番気にかけている飼い主がいます。
荻野明人さん(仮名 74歳)。多頭飼育崩壊を起こし、今年5月、20匹の猫に不妊手術を受けさせました。
しかし、まだ捕まっていない猫が4匹、家の中に…。
実は、荻野さん。ガンを宣告され、余命はあと1か月…。
小池さんは、1日でも早く猫たちを保護して欲しいという荻野さんの思いを支え、ここに通い続けています。
捕獲できない4匹の猫のため荻野さんの家に何度も通います
「ちょっと奥見せてもらってもいいですか」(小池さん)
「ここ入ってね、左側の、左上見て」(荻野さん)
「あ~なるほど(そこにいた)」(小池さん)
<近づこうとする小池さんの脇を猫がアッという間にすり抜ける>
「お~~~~」(小池さん)
「もうあかん!」(荻野さん)
「そっからいつも2階に上がるんですね」(小池さん)
猫たちは天井裏に隠れ、この日も捕まえることはできませんでした。
萩野さんが飼っていた猫たち
荻野さんが多頭飼育崩壊を起こしたきっかけは、入院した母親の治療費がかさみ、不妊手術をする余裕がなかったこと。
携帯電話には、すでに新しい飼い主が見つかった猫たちの写真が…。
「これが“マンダラ”で、こっちが“ヒゲ”。やっぱりいろんなこと思い出しますね。この猫がこうやったな~、ああやったな~って、泣けることも多いです」(荻野さん)
「多頭飼育崩壊」は誰にでもおこりうる現実です。
不妊手術を終えた猫たちが我が家に帰ってきました
この日、小池さんは不妊手術を終えた猫たちを大畑さんの元へ返しにきました。
「キジちゃん、お帰り、お帰り」
「帰ってきたよ、後ろ開いてるよ、振り向いてごらん、お疲れ様(ケージから勢いよく飛び出していく猫たち)」
1匹1匹に、言葉をかける小池さん…。
猫たちが、住み慣れた場所へ戻っていきました。
家族同様の猫たちが戻ってきて大畑さんの母親もほっとしました
認知症を患う大畑さんの母親も…帰ってきた猫をみて安心したようです。
「ご飯と一緒にお水も置いてあげて下さいね」(小池さん)
「猫が手術して帰ってきたことは知っていますか?」(記者)
「元気になっとる。ありがとうね、いつもすみません」(大畑さんの母親 71歳)
「やっぱり猫がいるとうれしいですか?かわいいですか?」(記者)
「そうそう、肩にものってくるしね、一緒に寝てくれるからな」(母親)
「ありがたいの一言です。全体的な猫の把握ができたというのもあるし、よかったと思います」(大畑健司さん 仮名)
近所の人たちにも安心してもらいます
そして、もう一つ大事な仕事…。
迷惑をかけてきた近所の人たちに、不妊手術をしたことを報告し、理解を求めます。
「ちょっとすぐには被害の改善がなくて申し訳ないんですが、(猫が)いつどこにいるかの情報をいただければ捕獲にうかがわせてもらいます」
「25匹捕まりました。この猫たちは(不妊)手術の印に耳先にV字の切れ込みが入っています」(小池さん)
NPO法人「人もねこも一緒に支援プロジェクト」代表の小池英梨子さん
猫と飼い主を支え続ける小池さんが、思うことは…。
「大畑さんの猫たちは、もともとメス2匹で、決してここの家だけが発生源ではないと思います。それを1軒だけのせいにして、1軒の家の中に閉じ込めて、いったん解決したフリにするのは問題の先送りと悪化にしかなりません。とりあえず里親に出すという先の話よりは、まずは全頭の不妊手術をしましょうとか、何とかできる目標を一緒に1つずつこなしていくところが必要かなと思っています」