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乳がんステージ4で保護猫カフェを開いた女性

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乳がんステージ4で保護猫カフェを開いた女性
 猫を助けているようで実は助けられている

2020年8月22日(土) sippo(朝日新聞社)

猫の保護活動をしていると、猫を助けているようでいて、実は猫に助けられていると感じることがよくある。
仲間のボランティアさんもそのひとりかも知れない。

仲間からの相談

ボニズハウスの猫たち

「保護猫カフェを開きたいと思うんですけど、相談に乗ってもらえませんか?」
数年前に仲間のボランティアさんの古橋さんから相談を受けた。
自宅を改装して保護猫カフェを開きたいという。
「……」
猫の保護活動を真剣にやってくれる人が増えることは、もちろんうれしい。
でも、手放しでは賛成できなかった。
近年増えてきた保護猫カフェや保護猫シェルターであるが、その運営はどこも厳しい。
保護猫というたくさんの命を抱えることになり、休みなどなくなる。
それ以上に、考えなければならないことがあった。
それは彼女が重い病で闘病中の身ということだった。
「古橋さん、体が……」
彼女は乳がんのステージ4を宣告され、抗がん剤で治療中の身だった。
闘病に専念しなければならない身で、たくさんの保護猫を抱え込む。
世話もたいへんだが、本人の身に万が一のことがあったら。
どうしても考えなければならないことだった。
「このままがんが進行しても、自分が生きている間に譲渡先を見つけられるであろう子猫だけ保護することにします。やりたいんです」
たくさん保護した後に、本人に死が訪れてしまったら。猫のためにも本人のためにも、多頭飼育崩壊だけは避けなければならなかった。


ボニズハウスの猫たち

多頭崩壊なんてさせるわけない

古橋さんご夫婦

「古橋さんが保護猫カフェをやりたいと言っているんだけど。」
別の仲間のボランティアさんに相談した。
「やらせてあげなよ。本人がやりたいと言っていて、家族のみんなも協力すると言っている。多頭飼育崩壊なんてさせるわけないじゃない。みんながいるんだから」
事前に相談を受けていた仲間のボランティアは、口をそろえてそう言った。
保護猫カフェねこかつを含め、普段から多数の猫を保護して譲渡している仲間がサポートすれば多頭飼育崩壊なんて起きない、起こさせない。
古橋さんの保護猫カフェはスタートした。
古橋さんはたくさんの猫たちを助け、新たな飼い主さんへとつないだ。
しかし、病気は着々と進行しているように見えた。
抗がん剤の副作用からか、歩くのもつらそうに見えた。
頭に帽子をかぶって現れるようになった。
「今度の譲渡会に参加していいですか?長く立っていられないから座りながらの参加になってしまいますけど」
「無理しないでくださいよ」
旦那さんに補助してもらいながら、彼女は譲渡会に参加した。

「乳飲み子ぜんぜんいけます」

授乳する古橋さん

ちょうどその頃、ねこかつでは、ある行政施設からの子猫や乳飲み子のレスキューをはじめたばかりだった。
連日20匹、30匹というむちゃなレスキューだった。
「梅田さん、まだ乳飲み子ぜんぜんいけます。いつでも言ってください」
古橋さんから何度となく連絡をもらった。
「ありがたいんだけど、体は大丈夫なんですか?」
「夫も娘も手伝ってくれてますから、大丈夫です」
産まれてまだ間もない乳飲み子は、3時間おきくらいにミルクをあげなくてはならない。
つまり夜中も起きてミルクをあげなくてはいけないのである。
健康な人がやってもきついのに、末期がんの体にどれだけ負担をかけているのか。

寝ずに到着を待っていた

ボニズハウス譲渡会ののぼり

「古橋さんが、また乳飲み子をやるって言っているんだけど、いいのかな」
別の仲間のボランティアさんに毎回相談した。
「大丈夫だよ。旦那さんも娘さんもみんなで協力してくれてるんだから」
「そう言ったって、旦那さんだって昼間は仕事があって、それなのに夜中に起きて乳飲み子のミルクまであげなくちゃいけないなんて、普通なら嫌なはずだよ」
「古橋さんの旦那さんは、とんでもなく優しいんだから大丈夫。梅田さんとは違うんだから」
そんな言葉が毎回返ってきた。
行政施設から乳飲み子を引き出したあと、ねこかつで1回ミルクをあげて、古橋さんの家に送り届ける。
そうすると、古橋さんの家に到着するのはいつも深夜12時ごろだった。
旦那さんと娘さんも寝ずに乳飲み子の到着を待ってくれていた。
「うわー!かわいいー!」
乳飲み子の入ったキャリーを開けると、古橋さんと同じくらい旦那さんも喜んでいたのが印象的だった。

300の猫の命を救った

IKEAでの譲渡会にご夫婦で参加

そんなことが続いているうちに、あることに気が付いた。
古橋さんの顔色が以前と比べ良くなってきていて、はた目には闘病中だなんてまったくわからなくなっていた。
ちょっと前までは歩くのもつらそうだったのに。
「体、調子よさそうですね」
「抗がん剤を変えたからか、楽になったんです」
それからまたしばらくして、古橋さんの体からがんの反応が消えた。
主治医の先生も「がんはどこに行っちゃったんだろうね」と。
古橋さんが乳がんのステージ4の体で保護猫カフェ「ボニズハウス」を開いてから、3年の月日が経った。
その間に救った猫の命は300匹近くにのぼる。
古橋さんが300の猫の命を救っている間に、300の猫たちが彼女を救ってくれたかもしれない。


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