コロナ禍でペットブームと飼育放棄が同時に起きている「危うい現実」
2020年7月22日(水) 現代ビジネス
新型コロナの感染拡大で、SNSを眺める時間が増えました。
見ているだけで癒やされるペットと一緒に暮らしたい気持ちが生まれ始めた人もいると思います。
確かに、ペットがいるだけで、家族間の「会話」があり和みます。
以前のように、番犬のために犬を求めたり、ネズミを捕獲してもらうために猫を飼ったりする人は、あまりいなくなりました。
いまやペットは家族の一員で癒しなどの心理的な役割を担っています。
その一方、世界では都市封鎖の影響でペットが長い期間に室内に取り残されたり、飼育を放棄されたりするケースがありました。
ネット社会が、発達しているいま、飼育放棄は、起こるべきして起こったのか、たまたまなのかを考えてみましょう。
写真:現代ビジネス
◆日本のペット事情
コロナ禍で犬や猫の人気がにわかに高まり、突然のペットブームになっています。
家にいる時間が長くなり、いわゆる巣ごもり需要で、ペットを飼ってみたい人が増えているのです。
そのため、ペットショップでの販売数や動物保護団体への譲渡申し込みが多くあります。
◆中国のペット事情
都市封鎖が行われていた中国・武漢では、飼い主が帰省先から戻れなくなり、1匹の猫が3ヵ月以上にわたって室内に取り残され、ボランティアの人が世話したりしていました。
このような事態のとき、飼い主がいなくなったペットが多くいて、悲惨な状況になっていたそうです。
さらに、人から猫、人から犬に新型コロナが感染したというニュースが流れると、ペットを放棄する人も出ていました。
◆アメリカのペット事情
世界で一番、新型コロナの感染者が多いアメリカも捨てられたペットを引き取る人が増えています。
しかし、自粛が緩和されて、元の生活に戻った時に飼育放棄してしまうことが、問題になっています。
ニューヨークにある動物保護団体「FRIENDS WITH FOUR PAWS」では、新しい飼い主に、誓約書の提出を義務づけ、飼育放棄が少なくなるように、努力しています。
万が一、飼えなくなったら、この動物愛護団体が引き取ることになっています。
◆SNSの危うさ
〔PHOTO〕iStock
ペットの飼育放棄は、コロナ以前から日本では、大きな社会問題になっていました。
各自治体は、殺処分ゼロを目指しています。
そして、犬や猫の終身飼育を飼い主に求めています。
以前のペットブームでは、散歩している犬を見たとか、知人宅で猫を撫でて、飼いたくなったなどでした。
いまや、若い人を中心にSNSを見て、小型犬や猫を求める傾向があります。
このコロナ禍の中、飼育放棄がさらに増えるのではないか、という危なさがあるのです。
◆SNSを見て飼育放棄が増える理由
SNSの中には、「かわいい」子や「愛おしい」子で溢れています。
指一本でスマホを開くと、犬や猫の写真や動画が数多くあります。
よく見るとTwitterで人気の犬や猫は、幼い子、若い子が圧倒的に多いのです。
子猫や子犬は、体の比率からして大きな顔、そして、ぎごちない動きなど、その存在だけでかわいいです。
SNSの中のペットたちは、歯が抜けて舌をだらりと出している子や、シニアになり毛ぶりの悪い子は、あまりいません。
みんな毛並みもよく、機敏な動きをしています。
まるで、ペットの世界には、「老い」「病気」が存在しないみたいです。
「飼い主と添い寝している犬」「あくびをしている猫」「一緒に寝ている猫と犬」「赤ちゃんを見守っている猫」などなどの動画や写真ばかりが発信されています。
SNSは、つまり「ハレ」の場なのです。
「ほらぁ、ウチの子、こんなにかわいいでしょう」を見せたいので投稿しているわけですね。
スマホを見ている人たちは、犬や猫を飼いさえすれば、このような動作や姿勢をいつもしてくれるのだと、錯覚に陥るのです。
ペットは、飼い主に癒しだけを与えてくれる存在に思えてしまう危うさがSNSにはあります。
◆SNSで伝わらないもの
SNSでは、犬や猫のもふもふ感やぬくもりはもちろん、「ニオイ」も伝わりません。
ペットを飼ったことのない人は、この「ニオイ」が気になり、あるにわか飼い主は、毎日、ペットをシャンプーして、体調を崩したペットを動物病院に連れてきていました。
犬や猫は、ペット用に改良されていますが、それでも無臭というわけにはいきません。
ウンチやオシッコをすれば、それには「ニオイ」が伴います。
しかしながら、実際に見に行ったりせずに、SNSで見てすぐにペットショップに直行して、トイ・プードルなどの小型犬や猫を買い求める若い人もいます。
◆コロナ禍でペットを飼い始めると…
自宅で自粛していたときは、孤独で人恋しくて、犬や猫をほしかったのでしょう。
その頃は、たっぷりお家時間がありました。
しかし、自粛が緩和されて、だんだん家に居る時間が少なくなってきたときに、ペットをちゃんと世話できるのでしょうか。
ペットは、一度、飼えば、終身飼い続けないといけないのです。
たとえば、7月22日から、国内観光需要喚起を目的とした「Go To Travelキャンペーン」が開始されました。
ここで問題になるのは、旅行に行こうと思っても、新しく飼ったペットをどうするか? です。
旅行に行く場合は、ペットホテルに預けるか、ペットが泊まれるホテルに宿泊するしかありません。
かわいいから飼ってしまって、そのあたりを考えていないと、面倒になり飼育放棄になりやすいのです。
◆ペットは「病気」をします
若いときでも、ペットはその子に合ったものを食べさせないと、下痢をしたり、嘔吐をしたりします。
科学的に正しいといわれる飼い方をしていても病気をすることがあるのです。
たとえば、猫も犬もがんや心臓病になります。
猫は特に慢性腎不全になりやすいでし、柴犬などの日本犬は、認知症になりやすく、ぐるぐると回ることもあります。
このような病気は、どの子にも起こる可能性があり、決して珍しいことではないのです。
SNSではあまり載っていませんが、人と同じ様に病気になります。
その都度、動物病院に連れて行き、そして、治療費もかかります。
◆ペットは「老い」もあります
〔PHOTO〕iStock
日本の犬や猫は、長寿になりました。
十数年以上、生きている子が多くいます。
病気でなくとも、加齢のために後肢の踏ん張りが弱くなり、やがて寝たきりになることもあります。
そして、膀胱の収縮が弱くなるので、オシッコの回数が増えてトイレでしなくなり、そこここにオシッコを漏らすことが多くなります。
◆ネット社会でのペット保護活動の利点
コロナ禍の中で譲渡会をすること難しくなっていますが、ネット社会になり、保護した動物の動画を配信し里親を探したり、クラウドファンディングで手術費や治療費などを募ったりできるようになりました。
◆ずっと愛してほしい…
筆者は自宅で、もうじき18歳の老犬と暮らしています。
ぐるぐると回ったり、ウンチやオシッコをいろいろなところでします。
それでもそんなことを全部、含めて愛おしい存在です。
ペットがいる人生が、豊かで素晴らしいと思っています。
ペットと暮らし始めた飼い主が、こんなはずではなかったと責任を放棄しないで「病気」をしたときも「老い」たときも彼らの傍らにいてずっと愛してほしいものですね。
石井 万寿美(獣医師・作家)
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