犬猫を本州に送り譲渡しても、減らぬ保健所収容 宮古島での挑戦
2020年2月7日(金) sippo(朝日新聞)
美しい海に囲まれ、温暖な土地で人々がおおらかに暮らす沖縄県宮古島。
今も犬や猫の放し飼いが多く、野良犬や野良猫が次々と生まれている。
その島に移住した女性が、犬や猫の保護団体を立ち上げた。
保護した犬猫の多くは飛行機で本州に送って譲渡しているが、それでも保健所に収容される犬猫の数には追いつかない。
そこで収容される動物そのものを減らす別の方法を模索し始めた。
犬猫の放し飼いが当たり前の島
沖縄本島からさらに飛行機で南西へ1時間弱。
宮古島のサトウキビ畑の中に、保護犬保護猫のシェルター「宮古島SAVE THE ANIMALS(セーブ・ザ・アニマルズ)」はある。
約1000坪の土地に、コンクリート作りの犬舎と、貨物コンテナを改修した猫舎、犬が走って遊べるドッグランがある。
現在は犬、猫それぞれ約80匹を保護している。
大阪府出身の中原絵梨奈さん(34)が立ち上げたシェルターだ。
シェルター「宮古島SAVE THE ANIMALS」。右はコンテナを利用した猫舎
ヨガのインストラクターをしている中原さんは、2017年に宮古島の隣にある来間島に移住。
首輪をした犬が島内をウロウロと歩き回っているのを見て驚いたという。
「放し飼いが普通で、仮に犬がいなくなっても探さない人も多いんです」
大阪に住んでいた時も地域猫や保護猫の活動をしていたこともあり、翌年から宮古島の保護団体「宮古島アニマルレスキューチーム」の手伝いを始めた。
だが、その団体は個人の活動の域を出ず、継続が困難になり、当時保護していた犬約60匹を引き継いでもらえないかと中原さんは相談を受けた。
とはいえ、引き取るにも場所もない。
知り合いの動物病院に話すと、使っていない土地と犬舎だった建物があるから使ってくれと言ってくれたという。
中原さんは自宅を処分して、この土地を購入。
2019年1月、犬を引き取ると同時に、クラウドファンディングで施設を整備する資金を集め始めた。
4月に大阪のNPO法人「KATZOC(カゾック)」の一部として「宮古島SAVE THE ANIMALS」を作り、代表になった。
◆飛行機で保護犬・猫を本州へ運ぶ
当初は島内にある県の保健所に保護された飼い主のいない犬や猫を引き出して、譲渡先を探す活動を主にしていた。
これまで保護犬152匹、保護猫80匹を譲渡したという。ただ、宮古島ならではの事情がある。
「島の人から申し出があっても、『家には入れない、夜には放す』という人もいて……。島内では適正飼育がまだ徹底されていなくて、譲渡しにくい。そのため島内での譲渡先は本州からの移住者が多いんです」
保護犬をあやす中原さん
宮古島市の人口は約5万5000人。
それに対して、保健所に収容される犬は例年、約300匹、猫は数十匹に及ぶ。
とても島内だけで譲渡先を見つけられる数ではない。
その結果、譲渡先の多くは本州となる。
SNSなどで保護犬や保護猫の情報を流す。
定期航空便がある東京、大阪、名古屋には協力団体や協力者がいる。
島外から譲渡希望があれば、飛行機で犬猫を運んでくれるバゲージボランティアをSNSで募って、運んでもらうのだ。
「乗客なら1ケージ6000円で手荷物として運べます。動物だけ貨物としても送れますが、送料が3倍になる」と話す。
送料は譲渡希望者の負担となる。
そうした努力を続けたが、宮古島SAVE THE ANIMALSで引き出せた数は年間160匹ほど。
保健所に残った犬猫の収容期間は5日間。
それを過ぎた犬猫は沖縄本島の南城市にある県の動物愛護管理センターに送られる。
「収容期間を過ぎているので、送られた犬猫はすぐ処分対象になる」という。
そのため、保健所に収容された犬猫を引き出し、殺処分される犬猫を減らすことに力を注いできた。
保護だけでは限界があった
「けれど、収容数が減らないんです。譲渡数は私たちの活動で増えても、ここ10年ほど収容される数は減っていない」
野放しにされて繁殖する犬や猫が減っていないのだ。
「やり方を変えない限り、減らないし、解決にならない」と痛感したという。
猫舎でくつろぐ保護猫たち。子猫が多い
たどり着いた結論は、宮古島の中で避妊去勢を普及させて、生まれてくる飼い主のいない犬や猫を減らすことだった。
「海で隔てられているので、外から入ってくることはない。島の人が飼っている犬や猫の繁殖をコントロールできれば、収容数をゼロに近づけられる。島の中で解決したい」。
そのため昨年末から保健所からの引き出しをやめ、今後は避妊去勢の普及に全力をあげるという。
「保健所からの引き出しをやめれば、処分数は一時的に増えるでしょう。だから、避妊去勢の効果を出さないといけない」
すでに昨年4月から、飼い犬や飼い猫の避妊去勢手術を無料でするプロジェクトを始めた。
獣医師に協力してもらい、寄付金をもとに手術を行った。
「いきなり島の人たちに避妊去勢が必要だと言っても理解されにくいので、最初は手術を受けた人に鶏卵をプレゼントもしました」。
その結果、飼い犬23匹、飼い猫179匹に手術ができた。
大きなお腹で保護された犬「トナ」。その後、子犬たちが生まれた
さらに今後は、車に医療機材を載せた「移動病院」を作って、各地の公民館などを回って、手術を広めたいという。
宮古島SAVE THE ANIMALSで病院が持てれば、シェルター収容の動物の診療もできる。
今も協力してくれる獣医師はいるが、定期的に宮古島に来て院長を務めてくれる獣医師を探している。
◆事件があっても明るく
宮古島SAVE THE ANIMALSの運営には現在、月間約190万円かかっている。
4割はグッズ販売や保護犬や保護猫とふれ合う際に支払ってもらう入場料などでまかない、6割を寄付に頼っているという。
保護している犬猫のフード類は、amazonの動物保護施設支援プロジェクトなど、寄付でほぼまかなえているという。
「amazonから月に100個以上届きます。具体的に支援してほしい内容が分かり、支援しやすいという点があると思います。とても助かっています」
犬の食事の準備をする見米さん。約80匹分となると、たいへんな量
ネット上で資金を募るクラウドファンディングも活用した。
シェルターに加え、ドッグランやキャンプ場、飲食などの施設を備え、収益を得られる「パーク」の構想を掲げて、約780万円の援助を集めた。
コンテナを利用した猫舎などはこれで整備したが、そのほかに個人の資金を投入して業者に手付金360万円を渡して飲食施設などの設計工事を依頼した。
だが、宮古島はリゾートホテル建設などでバブル状態。
人手も資材もなく、計画は遅々として進まなかった。
結局、この業者は昨年12月、詐欺容疑で逮捕された。
パーク構想を白紙にせざるをえず、支援してくれた人たちに連絡して理解をえた。
そんな事件があっても、「生き物を扱っている責任がありますから」と中原さんは明るく活動を続けている。
現在、宮古島SAVE THE ANIMALSのスタッフは4人。
ほかに20人ほどのボランティアが運営を手伝っている。
テレビ番組で紹介されたため、島外からボランティアにやって来る人もいる。
千葉県浦安市の見米扇菜さん(29)もその1人。
「今では月1回ほどやって来て、観光もせずに、ここのお手伝いをしています」。
そう笑って、たくさんの犬たちのフードを準備していた。