ついに法律まで改正、タブーなき米国の「犬は家族の一員」という認識
2020年2月15日(土) Forbes japan
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自由でオープンな国のアメリカにも、さまざまなタブーが存在する。
人種差別や性差別については世界で最もセンシティブな対応をすることで知られているが、犬を他の動物と同等にみなしてはいけないということは、あまり日本では知られていないに違いない。
筆者も犬は飼っているが、それでもアメリカ人の犬に対する愛着の普遍性と、その深度にはいつも驚かされる。
ひとことで言えば、冗談でも犬の悪口を言ったりすると、思わぬところで大きな反発となって返ってくるので気をつけたほうがいい。
たとえば、「犬を散歩させなければならないので残業はできない」と部下から言われて、「犬だって1時間くらいは待てるでしょう」と言おうものなら、とんでもない暴君な上司と思われ、社内に悪評が広がる可能性さえある。
動物のなかで犬が人間に最も親しく飼われているということに異論はないが、アメリカの家庭における、この確固たる家族の一員ぶりは、やはり特筆に値する。
逆も真なりで、野良犬を捕獲したり、はたまた、どこかの国の人間が犬を殺傷するような動画をアップしていたりすると、それに対するコメントは壮絶な怒りに満ちたものとなる。
戦後アメリカのすべての大統領は犬を飼い、犬と一緒の写真や執務室で犬と遊んでいる姿がたくさん公開されている。
これだけ見ても、アメリカ人と犬との距離の近さはわかるし、さらに言えば、犬好きであることで選挙民の支持を集めていると言って間違いない。
そして、この伝統とも言える犬への愛着を初めて破った大統領はトランプ氏で、彼がなぜ犬を嫌いなったかについては、ネット上で諸説が流されている。
【25万人が「準介助犬」と搭乗】
アメリカの統計局によると、1970年には全米の夫婦の40%が子供を持っていたのに対し、2012年には、その半分の20%に減少しているという。
事実婚のカップルは数字に入れないという事情があるにしても、半分にまで減少したこの現象について、メイン大学のエイミー・ブラックストーン教授は、ペットとの「交流の進化」が1つの原因だと指摘している。
これは、犬が人間の家族の一員としてのステータスを年々向上させていることに由来する、「犬がいるなら家庭のあり方はこうでいい」という考えへのトレンドシフトと捉えることができるというのだ。
◆エモーショナルサポートドッグの実態
家族の一員であるからして、当然、旅行に出かけるときでも、できれば犬と一緒にとなる。そこで問題となるのが飛行機だ。
さまざまな介護犬はもちろんのこと、近年、エモーショナルサポートドッグ(搭乗客の精神疾患や情緒不安定を鎮める役割の、いわば「準介護犬」)と申告すれば、本来徴収するべき動物の搭乗費用(通常はたいてい125ドル)を無料とする航空会社も現れている。
エモーショナルサポートドッグを機内に持ち込む現象は年々増加しており、その数はデルタ航空1社だけでも25万人にのぼる(2017年)。
すると、犬にアレルギーを持つ搭乗客と、犬を必要とする乗客のどちらを優先するかという問題が不可避となる。
アメリカの航空局は、アレルギー客よりも、介助犬を優先するように行政指導をしてきている。
実際、犬アレルギーを訴える客は、離れたセクションへ席の移動をさせられるが、万が一アレルギー反応が収まりそうにない場合には、降機を求められる。
これは身障者への空路アクセスを国として確保する法律から来ているので、この優先制度は一定の納得を得てきた。
ところが、これは本来の介助犬を想定しているもので、エモーショナルサポートドッグを想定していない。
2つの大きな違いは、介護としての役割をトレーニングされているかどうかで、前者の場合は、他人に対して吠えることはまれだ。
エモーショナルサポートドッグの無料搭乗の増加により、犬が搭乗客に噛みついたり、他の犬と喧嘩をしたり、あるいは粗相をするなど、航空会社はたくさんのクレームを受けるようになった。
2013年に700件の同様のクレーム数だったものが、2018年には3000件にまで及ぶに至った。
そもそも、これまでの研究では、エモーショナルサポートドッグが情緒不安定や精神疾患を抱える搭乗客に治療や予防といった効用を与えているかについては、科学的に証明されていない。
◆法律改正が行われた──
航空会社に対してあまりに犬がらみのクレームが多くなったことを受けて、このほど法律が改正され、機内に持ち込む犬については、例外なくリードをつけられていることが義務付けられた。
また単なるエモーショナルサポートドッグというだけでは無料扱いにはせず、トレーニングを受けている証明を事前に航空会社に対して見せることを義務付けるようになる見込みだ。
さらに、犬の搭乗が一定数を超えた場合には、搭乗を拒否できるようになる。
これにより、「準介助犬のなりすまし」を排除することができ、本当に介助犬を必要としている人たちに対してフェアに扱えるということで、航空会社は理解を求める方針だが、「家族の一員」が搭乗拒否をされたときの乗客の逆鱗が今から目に浮かぶようで、現場もおっかなびっくりだ。
◆空港に犬のための専用ルーム
一方で、人間関係でもよくあるように、愛がねじれて憎しみに変わるケースもよくある。
筆者は捨て犬が市のシェルターに多く保護されているのを見学したことがあるが、無責任な買い主には憤りを感じる。
最近では、人気ユーチューバーのブルック・フーツが、自分の映像で犬と戯れながらも、そのおふざけに感情的に切れて、愛犬を叩いたり唾を吐いたりして大炎上した。
その映像を視聴した多くの人が、ロサンゼルス警察にフーツを告発し、警察は動物愛護法に基づいて調査をするまでに至り(結果は不起訴)、ネット上でも強烈に批判を浴びた。
フーツは謝罪をすることにはなったが、結果としてはユーチューブの閲覧数を膨大に稼いだことになり、皮肉にも現在も30万以上のチェンネル登録を確保している。
いずれにしても、犬を家族の一員と思っているアメリカ人は、日本人の想像を超えてはるかに多い。
犬は人間とは違うなどとむやみに言うことはもちろんタブーで、相手の鬼のような形相に遭遇することになるだろう。
ちなみにラスベガス空港を含む大きな空港では、犬のための専用ルームがあり、「家族の一員」には、人工芝の上で気持ちよくおしっこをしていただくというスペースがつくられている。
長野 慶太