岐阜)燃えるように美しい美濃柴犬 高校生が繁殖に着手
2019年11月21日(木) 朝日新聞 松浦祥子
朝日に照らされると燃えるように美しい。
美濃柴犬は、そう表現されることもある。
美濃地方の山間部で昔から飼われていたようだが、いまや年間20頭ほどしか生まれない希少種となった。
繁殖に取り組もうと、高校生が立ち上がった。
美濃柴犬のもみじとあんずを育てる生徒たち=2019年11月11日、大垣養老高校、松浦祥子撮影
11月11日、岐阜県養老町の県立大垣養老高校。
飼育小屋のまわりで、両手の手のひらに収まりそうな生後2カ月のメスの姉妹「もみじ」と「あんず」が走り回るのを、「美濃柴班」の生徒3人がじっと観察していた。
1日3回のエサやり、しつけ、トイレトレーニング……。
ささいな変化も見逃さないよう、細かにメモを取る。
同校では来年度から募集枠が変わり、2年時から動物科学科が新設される。
ベテランの安江清仁・実習教諭(61)が「何か地域貢献にもなる新しい取り組みができないだろうか」と考えたのが、絶滅が危惧される犬種の保存や繁殖への挑戦だった。
これまで同校で犬を飼育した経験は、ゴールデンレトリバーなどの洋犬ばかり。
そこで6月、新任の香田佳那・実習助手(27)と美濃柴犬保存会(小森博代表)が運営する山県市の美濃柴犬の里を訪れた。
美濃柴犬は1936(昭和11)年、日本犬の「柴犬」として国の天然記念物に指定され、保存活動が始まった。
多くの日本犬は第2次世界大戦を経て頭数が激減したり、絶滅したりした。
美濃柴犬保存会では年2回展覧会を開き、血統書を交付するなどの活動をしている。
安江教諭と香田助手は、生産科学科2年で動物専攻の生徒の中から、飼育する動物の希望がまだ固まっていない木村天(そら)さん、浦田晴友(はると)さん、三宅理朗(りお)さんに「挑戦してみないか」と声をかけた。
飼育方法がマニュアル化されている洋犬と違い、希少種の美濃柴犬を学校で飼うのは未知の領域。
「あなたたちが学校での美濃柴犬の飼育マニュアルを確立するんだ」。
安江教諭に促され、当初は自信がなかった3人も飼育を決意。
2匹を育て、ほかのオスと交配させて繁殖をめざすことにした。
やんちゃな性格のもみじと、高いところが苦手で臆病なあんず。
浦田さんは「地域の人たちと交流ができるように、ちゃんとしつけされた犬に育てたい」と話し、木村さんも「展覧会で表彰されるような犬を育てたい」と意気込む。
ただ、生徒を含めて犬の飼育はまだまだ新米。
香田助手は犬を飼うのも初めてという。
災害救助犬の訓練士に来てもらい、飼育小屋のレイアウトや、しつけのコツを一から教わるなど、生徒たちと子犬の成長を懸命に見守っている。
「必死に初めての子育てを頑張っています」
美濃柴犬は成犬でも大きさは40センチ程度。
順調に育てば、来年から新たに8頭ほどの繁殖が可能になるという。
23日に開かれる学校祭「大養祭」では、午前10時から正午まで美濃柴犬交流会が開かれる。
他で飼われている美濃柴犬8頭ほども集まる。
誰でも見学可能で、触れあうこともできるという。
(松浦祥子)
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