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片目をけがして、草むらで鳴いていた子猫

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片目をけがして、草むらで鳴いていた子猫 幸せを願い「みちる」と命名

2019年3月13日(水) sippo(朝日新聞)

草むらで鳴いていた小さな子猫は、片目をけがしていた。
引き取った30代の主婦は、幸せが満ちあふれるようにと、「みちる」と名付けた。
その出会いをきっかけに、主婦はボランティア活動を始めた。

2018年6月初旬、朝5時ごろのことだった。
宇都宮市に住む黒川さんが自宅2階で寝ていると、裏の空き地の方から「ミーミー」と子猫らしき声が聞こえてきた。
気になって、薄暗い中、懐中電灯を持って見に行った。
雑草をかき分けて探したが、見つからなかった。
午前8時ごろ、再び子猫の声がした。
隣の家の庭を見ると、奥さんの足もとで子猫が鳴いていた。
ガリガリに痩せ、左目から膿が出て、その周りに砂が固まっていた。


保護して約2週間後のみちる

問題は夫の猫アレルギー
すぐ保護したかったが、黒川さんの夫には猫アレルギーがあり、自宅で飼うのは難しかった。
かわりに隣の奥さんが「うちでいったん預かるよ」と、飼い犬がかかっている動物病院に連れて行ってくれた。
子猫は体重300グラムほど、生後約1カ月のメス。
獣医師によると、左目はカラスにつつかれたらしかった。
黒川さんは海外出張中の夫に、LINEで「かわいい子見つけちゃった」と経緯を伝えた。
「俺のアレルギー次第だよな」と返事を受け取り、夫の帰宅を待った。
その間も小4の息子と小1の娘は、何度も隣の家に子猫を見に行っていた。
「うちにこの子がいたらいいのに」。
黒川さんは「この子を家に迎えたら、最後まで幸せにする責任があるんだよ。あと、パパにアレルギーが出たら飼うことはできないよ」と言い聞かせた。
発見から3日、帰国した夫とともに子猫に会いに行った。
夫は子猫を手のひらに乗せてみたが、不思議とかゆくならなかった。
「いけるんじゃない」と2人で顔を見合わせた。
夫婦は宮城県出身の幼なじみ。
夫は小学生時代、黒川さんが拾った三毛猫をなでただけで、鼻水がずるずる出るほどだった。
隣の奥さんに「ご主人の体も大切だから、まずはトライアルという形でやってみては」と提案され、1週間の予定で自宅に連れ帰った。
実は、もともと夫は猫好きだった。
「俺の膝の上で寝ている」「指を吸っている」と子猫がかわいくて仕方ない様子で、一緒に過ごしてもアレルギー症状は出なかった。
1週間のはずが、3日目には「うちの子にします」と伝えていた。
子猫の名前は、黒川さんが考えた末、二度とつらい思いやひもじい思いをせず、毎日が幸せに満ちあふれるように「みちる」と付けた。
家族として迎えることに決めた日の夜、赤ちゃんの命名のように紙に書いて発表した。
「いいね」と家族みんなが言ってくれた。


摘出手術後、抜糸する前のみちる
 
ハンデをみんなで受け入れる
子どもたちも「みちる」の相手をよくする。
ある日、小1の娘がメロディをつけて歌っていた。
「おっはよーおっはよーみちるちゃん」
黒川さんは「いい歌だよ、2番3番つくってみようよ」と声をかけた。
「にくきゅうぽかぽか おやすみね」「あしたもげんきにあそぼうね」
そうやって娘が作った詩が、宇都宮市の夏休みのコンテストで銅賞をもらった。
家に遊びに来た友だちが「みちる」の顔を見て「目、どうしたの」と言っても、その友だちや2人の子どもは引いたりすることはない。
「ハンデのある子を素直に受け入れてくれている」と黒川さんはうれしくなるという。
「みちる」は左目のけがのため、距離感がつかみづらいようで、おもちゃで遊んで背中から着地したり、蛇口から水を飲もうとして顔が濡れてしまったりすることがある。
それでもいたって元気で、誰にでもよく懐く。
治療を続けた別の病院で、化膿した左目がいずれ腫瘍になる可能性があると指摘され、避妊手術と同じタイミングで摘出することになった。
年11月30日に左目を手術。
傷跡は黒い糸で縫ってあったため、つけまつげのように見えた。
「ツイッギーみたいだね」とほめてねぎらった。


自宅で預かり中の小梅(左)とおかか

子猫をきっかけに世界が広がった
黒川さんは「みちる」を迎えた日に、「みちる」のインスタグラムを始めた。
実際に一緒に生活してみて、フード代やトイレの砂など、それなりにお金がかかることを実感した。
個人ボランティアのインスタを見て、費用負担は大変だろうと思った。
「いいね」ボタンを押すだけの日々がもどかしくなっていった。
昨年11月、猫のTNRや保護活動をしている団体「宮ねこ会」が、保護した9匹の猫の譲渡や預かりを緊急募集する投稿を見た。
黒川さんは預かるかどうか迷った。
娘が「私の部屋を使っていいから、うちでお預かりしようよ」と言ってくれて、心が決まった。
その月、譲渡先が決まるまでの慣らしとして、生後3、4カ月くらいのメス2匹を預かった。
黒白でおにぎりっぽく見えたので、「小梅」と「おかか」と名付けた。
ボランティアの「みぶ里親会」と「宮ねこ会」が主催する譲渡会に2匹を連れて行っては、新しい家族が決まるのを待っている。
さらに1月からは、趣味の手芸を生かして、ハンドメイド作品を販売するサイト「ミンネ」で手作りのシュシュ首輪やおもちゃを販売し、実費を除いた売上を「宮ねこ会」に寄付し始めた。
「家にいて出来ることを少しずつやりたいなと思って」
それまでは、ゆかりのない新しい土地での生活に、孤独を感じることもあった。
だが「みちる」を迎えてから、インスタやボランティアなどで出会いがあり、世界が広がった。
「みなさん、インスタのコメントで『みちるを助けてくれてありがとう』って言ってくれるけど、私からしたら、毎日を楽しくしてくれている『みちる』に感謝しているんです」


「みちる」しあわせに

【写真特集】片目をけがして鳴いていた子猫「みちる」


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