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虐待されていた4頭の宮古馬がついに救出

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虐待されていた4頭の宮古馬がついに救出。しかし、いまだ楽観視はできず

2019年1月2日(水) HARBOR BUSINESS


N氏の馬房には、まだ糞尿まみれでつながれたままの牛馬が

◆虐待を受けていた宮古馬4頭の自主返還が決定
2018年12月11日の『週刊SPA!』による宮古馬虐待問題の報道を契機に、多くのメディアがこの問題を取り上げた。
馬たちの悲惨な実態に全国の人々が驚愕、多くの改善を望む声が上がった。 

⇒【画像】つながれたまま飼われて骨折、2018年12月に衰弱死した仔馬カイト

この事態を受けて宮古馬保存会(事務局は宮古島市生涯学習教育課)は2018年12月19日、宮古馬飼養者説明会を緊急開催。
対応策と今後の方向性が検討された。
その結果、ここ3年間で死亡した16頭のうち13頭を死亡させてしまった2件の飼養者は、残った計4頭の宮古馬を自主返還することになった。
虐待を生き延びた宮古馬たちは、12月27日に1頭、12月30日に3頭が別の場所に移され「これでひとまず安心」と思われた。
しかし、4頭の馬たちの返還をめぐってさらにさまざまな問題が浮き彫りとなってきたのだ。

◆宮古島市は「虐待」を認めず
12月19日に宮古島市で行われた飼養者説明会では、「今回の報道によって、宮古島市には抗議や問い合わせが数百件にものぼっている」と報告された。
市の担当者と宮古島保険所は、「調査を行ったが、つながれたままであるとか、水や餌を十分に与えていないといった虐待は確認できなかった」と説明した。
市の担当者は、意見交換で飼養者から「報道にあるような状態の馬がいた」という指摘を受けると「今はいない」「全部確認したわけではないが、自分たちとしては今の状況で判断するしかない」としつつも、「非常に不衛生な飼育環境であることや、狭いスペースでの飼育などは確認されており、今後改善されなければ『虐待』となる可能性が高い。警察に通報しなければならなくなる可能性はゼロではない」と述べた。
現時点で「つながれた馬はいない」というのは、これまで市は対応を怠り、やっと2018年3月頃に「綱だけははずされた」というのが実態である。
短い綱につながれっぱなしで、身体を横たえることもできない馬たちを見かね、周囲から何度にもわたって抗議の声が上がっていたのだ。
餌や水が与えられていない問題についても多くのボランティアが確認している。
しかし、彼らに聞き取りが行われたわけでもない。
市の担当者としては、虐待を認めれば「動物愛護管理法違反」として警察への通報義務が生じ、さらには沖縄県天然記念物の管理責任を社会的にも問われることになる。
だから「今は綱でつながれていない」という一点をもって「虐待は確認できなかった」としたいのだと思われる。
その説明会の場で、沖縄県の担当者からは「動物愛護管理法第44条」や「産業動物の飼養及び保管に関する基準(平成25年環境省告示第85号)」のコピーが配布された。
宮古馬に限らず、家畜動物に対して給餌や給水をやめたり、健康を損なうほどの拘束をして衰弱させたり、排泄物が堆積した施設などで使用することは「違法行為である」ということが周知されたのだ。
さらに「今のままでは虐待にあたる可能性があるので、ちゃんとやってほしい」という要請も行われた。

◆補助金を打ち切っていた沖縄県の再支給は2020年4月から!?
説明会に参加した飼養者たちからは、特に補助金の不足について県や市に対して厳しい意見が相次いだ。
「人件費が欲しいなんて言わない。せめて馬を生かすために最低限の餌と施設を用意してほしい。台風だってあるのだから……」
「今のままでは、預かる馬を増やせば増やすほど赤字になる。これでは守りたくても守れない」
「天然記念物に決めたのは県なのに、なぜ丸投げにするのか? 県にもっと助けてほしい」
「市は年に何回かは飼養者を回って、様子を見たり意見をちゃんと聞いたりしてほしい」
宮古馬が天然記念物に指定された当初は、沖縄県は補助金を出していた。
しかし、1997年(平成9年)に「再生事業が軌道に乗った」として打ち切っている。
今後については、「補助金は保存計画がないと出せないので、2019年6月をめどに保存計画を提示する。それに基づいて補助金の金額を決めるので、支給は2020年4月からになる」と県は回答した。
これに対して、飼養者から「それまでに絶滅するようなことになったらどうするんだ?」と問われ「その場合は緊急に再生事業として対応する」と答えた。
一方、宮古島市は2019年1月下旬に申請し、3月の議会で承認されれば予算の増額が可能とのこと。
飼養者説明会では、「虐待報道を払拭する取り組みを前向きにしていこう」(教育長)と、今後の方向性が確認された。

 ◆S氏は宮古馬を手放すことに抵抗するが、ようやく解放
飼養者説明会後、6頭が自主返還となったが、うち2頭については飼養者が思い直して飼いつづけることになった。
そして、虐待者として問題になったS氏とN氏が飼っていたあわせて4頭の宮古馬だけが、別の場所に移されることになった。
S氏の1頭は、宮古馬保全にまじめに取り組む飼育者のもとへ。
N氏の3頭はまだ飼養者が確定できないため、市が厩舎を借り受けて、そこをいったん避難所として移されることが決定した。
しかし、馬が移されるまでの経緯はそう簡単ではなかった。
N氏は「明日にでも手放したい」とのことだったが、S氏は「(管理契約更新の)3月31日まで手放さない」と言い始めた。
すでに5頭を死なせているS氏のもとには、10年にわたって一度も馬房から出してもらえない牡馬が1頭暮らしている。
「そこにあと3か月も置いておけば、この馬も死なせてしまうのでは?」と抗議の声があがっていた。
他の飼育者からの説得もあり、面倒になったS氏は「明日にでも連れていけ!」と返還に応じることになった。
12月27日、S氏のもとでただ1頭生き残っていた牡馬のシンゴは、新しい飼い主のもとに手渡された。
狭い馬房に閉じ込められ、外に出たことがなかったシンゴは大興奮。
全身で喜びを表している。

◆ボランティアらの訴えは信じず、S氏の言い分だけは信用する市の担当者
問題なのは、S氏をめぐる市の対応だ。
以前の報道にもあるように、S氏のもとではつながれたままの仔馬が2018年12月11日に骨折して衰弱死したばかり。
ところが飼養者説明会以降、急に「ロープでつないだのはボランティアだ」とS氏は言い始めた。
取材班が現地で確認すると、「仔馬を綱につないだのは間違いなくS氏だ」という複数の証言を得られた。
あまりに短いロープでつないであったため「危険」だと判断したボランティアが、長いロープに取りかえた。
それをS氏は気に入らず、また短いロープに戻したのだという。
市の担当者は、これまで何度虐待を訴えても「事実が確認できない」と、何の対応もしてこなかった。
ところが「ボランティアがロープをつないだ」というS氏の言い分については、市の担当者は事実確認をしないまま、抗議や問い合せをしてきた人々に話していることが判明している。
さらには、取材班が2018年(主に11月~12月)に撮影された写真や動画を多数配信していることも無視して、「『週刊SPA!』の写真は昔の写真。
今はそのような状態ではない」と説明していたのだ。
この担当者は、飼養者説明会でも「メディアの力は大きくて、文字の暴力だ。宮古島に来たこともない、宮古馬を見たこともないような人が、日本全国から言葉の暴力を振るっている」と、被害者のような口ぶりで述べていた。

◆宮古馬をめぐる不可解な動き
仔馬が生まれてきた時に出る補助金10万円についても不透明だ。
市の担当者は、この補助金を「S氏に支払う」と決めたという。
救出が間に合わず死んでしまった仔馬カイトの母親は、もともとの飼い主から大事に育てられ、肥えて健康そのものだった。
しかしS氏のもとで十分な餌も与えられず死んだ時には、体重が100㎏を切るほどまでにやせ細っていた。
そしてさらに仔馬までも、生まれて6か月で死んでしまったというのに……。
担当者はその理由を「6か月でも面倒をみたのは、Sさんなので」と説明している。
母親を失った仔馬に、ミルクや餌を与えていたのはボランティアの人たちだ。
それに補助金を渡すべき相手は、妊娠した馬を直前まで大事に育てていた、元の飼い主ではないのだろうか?
さらにS氏は最近、このようなことを言い出しているという情報が入ってきた。
「N氏のもとから救出される3頭の馬は、オーシャンリンクス宮古島リゾート(地元のリゾートホテル)に行くことになっていて、馬の世話は自分がやるということで話がついている」
「オーシャンリンクスとも、すでにそういう約束になっている」
「いずれ宮古馬は天然記念物から外れることになっていて、全頭がオーシャンリンクスに手渡され、自分がその飼育係としての仕事を得る」といったものだ。 

◆「市とS氏との間(で決まっている)話」と、リゾートホテル側は困惑!?
この情報を受け取った「国連生物多様性の10年市民ネットワーク」代表の坂田昌子氏は、オーシャンリンクスに問い合わせた。
「オーシャンリンクスとしては土地を持っているので、『種付けができなくなった高齢の馬の、余生の場所を提供する』といったつもりで考えていたそうです。『観光に利用しようという考えはない』とのこと。
『ただ馬については素人なので、馬だけポンと渡されても困る。引き取るならば経験と知識がある飼養者の確保、飼育施設の準備、獣医との連携が必要』と言っていました。そもそも天然記念物なので、窓口はあくまで教育委員会。S氏個人との間には、そういう約束はないとのことでした」(坂田氏)
坂田氏が驚いたのは、市の対応だったという。
「市が一時的に引き取ったN氏の3頭について、市の担当者からオーシャンリンクスに『何頭なら引き取れるか?』と問い合わせが来たというんです。オーシャンリンクス側としては、そんなことを言われても受け入れる施設も何もまだないので、困るわけです。飼養者説明会で『宮古馬を守っていこう、虐待のイメージを払拭していこう』と言っていたのに、相手側の飼養者としての適性や環境についての検討・配慮もなく、たらい回しのようなことをしようとするとは、あきれるばかりです。S氏を飼育者として雇い入れる件については、オーシャンリンクスとS氏との問題ではなく『市とS氏の間の話』でそうなっているのでは……ということでした。今まさに虐待で問題になっている人物を、飼養者として雇い入れるなんてことが、あっていいはずがありません」(同)
この件については、年末年始休暇のため市の担当者の確認はまだとれていない。
取材班としては、今後もその真相を追及していく予定だ。

◆N氏の馬房から救い出された3頭の行方も楽観視はできない
市の担当者はなぜ、ここまでS氏を優遇するのだろうか?
虐待した当事者の言い分を鵜呑みにし、それどころかさらに補助金まで与えようとしている。
さらには、また馬にかかわる新たな仕事まで与えようというのだろうか……?
糞尿まみれだったN氏の馬房から移された3頭も、一時的に場所を移されたにすぎない。
まだ楽観視はできない状況だ。
また、N氏の厩舎で糞尿まみれのままつながれっ放しになっている、宮古馬以外の牛馬の問題もまだ全く解決していない。
飼養者説明会では、これまで宮古馬の保全に奮闘してきたという人が「馬のおかげで、石ころだらけだった島がこんなに豊かになった」と発言していた。
飼養者からも「馬とずっといっしょに暮らしてきて、馬への想いはある」という声が上がった。
市は、本来であれば人と馬が共生していく方法を模索するべきだろう。
農耕馬としての馬の役割は終わっているが、ホースセラピーや環境教育など、大人しい宮古馬が活躍できる場はたくさんあるはずだ。
<取材・文/『週刊SPA!』宮古馬取材班>
ハーバー・ビジネス・オンライン

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