<尾道駅>駅裏の名物猫死ぬ 愛され20年、全国にファン
2018年11月19日(月) 毎日新聞
広島県尾道市のJR尾道駅北口に居着き、約20年にわたって地域住民や通勤通学客に愛された半野良の三毛猫(雌)が今夏、死んだ。
老衰とみられる。
人なつこい性格で全国にファンがいる、駅裏の人気者だった。
【渕脇直樹】
気持ち良さそうにひなたぼっこする猫。右奥はJR尾道駅=広島県尾道市東御所町で2017年11月19日午後3時36分、渕脇直樹撮影
ミイ、タマ、ブタコ、アイツ・・・。
三毛はさまざまな名前で呼ばれた。
尾道市立土堂小4年の小林しずくさん(10)と大村未来さん(10)は1年のころから「タマちゃん」と呼んで可愛がり、登下校に頭をなでると「ニャー」と応えてくれた。
タマの死を知り2人は、いつもひなたぼっこしていた場所にビー玉を供えた。
三毛は近くの会社員、高橋幸孝さん(54)が2005年ごろから世話を始めた。
道端の彼女に一目ぼれして自宅に連れ帰り、餌をやっては早朝「同伴出勤」する暮らしを始めた。
三毛は冬は学習塾周辺の歩道でひなたぼっこし、夏は線路脇の駐車場で涼んだ。
高橋さんはワクチンを毎年打ち、けがも医者に診せた。
「ミイはみんなの猫」と放し飼いにし、三毛は駅前で夜更かしすることもあった。
駅裏小町として愛されてきた三毛も近年は衰えが目立ち、ピーク時に6キロ近かった体重は16年に3キロ台に。
高橋さんが「夏を越せるだろうか」と心配していた今年6月13日午後5時23分、三毛はひときわ大きな息を吸い、生涯を閉じた。
翌日、居場所だった駐車場に「ミイちゃん タマちゃんは静かに永眠しました」という貼り紙が掲げられた。
近くでマッサージ店を営む緒方智子さん(42)はこの貼り紙を15日に見つけ、人目はばからず泣いた。
三毛のファンで、5年間に撮りためた写真は1000枚以上。
SNSで発信し、県外から愛猫家が会いに来た。
これまで写真展を3回、8月には追悼展を開いた。
「いつも愚痴を聞いてくれたアイツの優しさを、いつか絵本にして伝えたい」。
それが緒方さんの夢だ。
三毛の来歴は不明だが、元は飼い猫だったらしい。
駅近くの主婦、奥田満智子さん(73)は18年前、首輪を着けた姿を覚えている。
以来、飲み水をためたバケツを玄関先に置き、安否を毎日確かめた。
やはり20年近く見守ってきた別の70代の主婦によると、三毛は何者かが車で運び駅前に捨てたという。
主婦は「タマがこんなに長生きできたのも、高橋さんのおかげ」とねぎらった。
三毛の死から5カ月。
おばあさんが道端に餌を置き、勤め帰りの女性が耳かきをし目やにをぬぐう・・・三毛を巡る駅北の見慣れた光景は絶えた。
駅近くの自営業、竹原勝子さん(75)は「ミイほど多くの人に愛された猫はいない」と言い、「ふらりと店に入ってきたミイを、つい探すことがある」と通りに目をやった。
動画 https://www.youtube.com/watch?v=c7NGyRN9SBQ