人の心を癒す「セラピーキャット」が医療・介護の現場で大活躍
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猫を飼っている人にとっては常識かもしれないが、飼い猫が、たまに飼い主を見てゆっくりとまばたきをすることがある。
筆者の自宅で暮らしている猫もよくやる。
これは「親愛の情」を示すシグナルとされる。
そのまばたきに応えて、人間の方も同じように猫を見てゆっくりまばたきをする。
すると、こちらからの愛情も伝えられるそうだ。
そんな非言語のコミュニケーションが人の心を癒してくれる。
ちなみに、猫がゴロゴロと喉を鳴らす音も、人間の癒しになることが科学的に証明されているそうだ。
もともとは母猫が生まれたばかりの子猫に自分の存在を知らせるために鳴らすものだが、その低周波の振動が、人間の副交感神経を高めるのだという。
副交感神経が高まり交感神経よりも優位に立つと、人はリラックスする。
そんな、いろいろな面で人間を癒してくれる猫が、実際に病院や施設などで患者さんの治療や高齢者の介護に役に立っているのをご存知だろうか。
認知症、精神疾患を回復に向かわせる“セラピスト”ヒメ
本書『すべての猫はセラピスト』(講談社)では、ノンフィクション作家である著者が、アニマルセラピー(動物介在療法)の現場で「セラピーキャット」として活躍する一匹の猫を紹介している。
認知症患者や障害児、精神疾患を抱える人たちが、猫の存在によって少しでも回復に向かったり、心を開きかけたりする様子を描写。
さらに、猫の心の中に何があるのかといった哲学的な考察にまで踏み込んでいる。
『すべての猫はセラピスト』-猫はなぜ人を癒やせるのか
著者:眞並 恭介
出版社:講談社
ページ数:192p
価格:1,300円(税別)
その猫の名は「ヒメ」。
2007年生まれの雌猫で、真っ白な毛並みの美猫である。
飼い主はアニマルセラピーの実践家で応用動物行動学者でもある小田切敬子さん。
ヒメは、小田切さんのもとで働いていたセラピードッグのチャッピーと一緒に子猫の頃から介護・治療の現場に同行し、セラピーキャットとして育てられてきた。
動物と触れ合うことで治療やリラックスの効果を引き出すアニマルセラピーでは、犬が使われることがほとんどだ。
あるいは馬を使って乗馬体験などが行われる。
猫による実践例は現状では非常に少なく、キャットセラピー、セラピーキャットという名称もまだ一般的なものではない。
犬とは違い気まぐれで、トレーニングやしつけが簡単ではない猫に、はたして「セラピスト」が務まるのだろうか?
言葉が通じないからこそダイレクトに感情が伝わる
ヒメがセラピーキャットとしてデビューしたのは茨城県龍ケ崎市にある牛尾病院の介護療養病棟。
セラピーの対象は認知症の進んだ高齢者の方々だ。
ヒメは怖がりで、セラピーには不向きとも思われていたが、現場に着くと自ら進んで高齢者の膝の上に乗った。
興味深いことにヒメは、病院の元気なスタッフが寄っていくとおびえるのだそうだ。
小田切さんによると、ヒメには「セラピーを必要としている人」がわかるのだという。
認知症が進行し、ほとんど会話が成立せず、話しかけても反応しなかった人が、ヒメを膝に乗せると穏やかな表情になり、体を撫でながら「ヒメちゃん」「ヒーメ」と呼びかける。
猫は何もしなくても、そこにいるだけでそれだけの効果がある。
猫は人間よりもはるかに聴覚が発達している。
もちろん人の言葉の意味は理解できないが、声の調子や息づかいから喜怒哀楽が読み取れるのではないか、と著者は分析する。
おそらく言葉の意味にとらわれないからこそ、ダイレクトに感情が伝わるということでもあるのだろう。
表情や体を撫でられる触覚からも、人間から猫への愛情が伝わる。
言葉によるコミュニケーション手段を失いかけているセラピーの対象者ならば、そうやって誰かに感情を伝えられるのは嬉しいことであるに違いない。
私たち人間は、意識しないまでも、日々さまざまな常識や約束事にしばられながら生活している。
そうしたものがどうしても気になりすぎて、がんじがらめにしばられるような気持ちに苛まれると、精神を病んでしまう。
そんな人が、アニマルセラピーの対象者になりやすい。
動物たちには、そんな常識や約束事はほとんど存在しない。
きちんとトレーニングを受けた犬には約束事があるかもしれないが、猫はたいてい自由だ。
だからこそ、「がんじがらめ」になったことで病んだ人たちを癒せる。
小田切さんも、「うつ病などの精神疾患の人たちは、何かをしなさいと言われるのが苦痛なので、猫が好きなようにやっているほうがリラックスできる」と指摘している。
猫を自分に投影して「自分もあんなふうに生きたい」と憧れたり、「あんな生き方もあるんだ」と発見したりといったこともあるのだろう。
アニマルセラピーには「逆セラピー」という考え方もある。
セラピーの対象者が、犬や猫の世話をすることが対象者の癒しにもなる、というものだ。
動物から一方的に「癒される」のではなく「癒し、癒される」関係になる。
こうした相互性が、両者の絆をより深め、豊かな感情の交流を生む。
それが心を癒し、回復や治癒につながる。
健常者同士でも、コミュニケーションがうまくいかなかったり、感情的な行き違いからトラブルに発展することは珍しくない。
そんな時には、セラピーキャットと対象者の交流を思い出してみてはどうだろうか。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
アニマルセラピーの効果は?
アニマルセラピーといえば、犬が思いつく人が多くいると思います。
もちろん、犬もアニマルセラピーにとても役に立っていますが、最近では猫による癒し効果も注目されています。
では、猫のアニマルセラピーにはどのような効果があるのでしょうか。
■猫と触れ合うことで血圧が改善する!
アニマルセラピーで猫とのスキンシップをとることで、血圧の改善に役立ちます。
人はストレスを感じ始めると「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。
コルチゾールは、糖質やタンパク質、脂質やカルシウムなどの代謝を助けるホルモンです。
ストレスが長期化するとコルチゾールが過剰に分泌されてしまい、副腎の負荷から高血圧症になりやすくなるといわれています。
副腎は、血圧・血糖・水分・塩分量などの体内環境を常にいい状態を一定に保つためのホルモンを作っていて、ストレスから副腎に負担がかかると体内環境が崩されてしまいます。
猫と触れ合うと、このコルチゾールの量が抑制されて、血圧安定の効果が得られるとされています。
また、高血圧症の予防や改善により、心臓疾患や脳卒中のリスクも軽減されることがわかっています。
■猫のゴロゴロ音の癒し効果がすごい!
猫は「ゴロゴロ」と喉を鳴らすという猫ならではの表現があります。
猫好きな人は、このゴロゴロ音を鳴らしてくれるととても嬉しくなりますよね。
この猫のゴロゴロ音には、自然治癒力の効果があるといわれています。
どれだけ疲れていても猫のゴロゴロ音を聞くだけで元気になれるような気分になりますが、実は猫のゴロゴロ音には、実際にストレスの軽減や不眠、不安感を取り除く癒しの効果があります。
◆そもそも猫のゴロゴロ音って?
猫の「ゴロゴロ」と喉を鳴らす振動音は、音楽のように心地よく、人が抱えているストレスを軽減させてくれるようになっています。
もともと猫の「ゴロゴロ」と喉を鳴らすのは母猫と子猫にみられる行動です。
◆ゴロゴロ音が免疫力をあげる!?
猫が「ゴロゴロ」と喉を鳴らす音は、約20ヘルツ~50ヘルツほどの低周波音があり、人に幸福感をあたえます。
ストレスが軽減され、考え方をポジティブな思考にしたり、幸福感を人の脳に伝えてくれる効果があるといわれています。
また、猫の「ゴロゴロ」という音の振動や低周波で人の免疫力を上げるということも確認されています。
フランスでは、猫のゴロゴロ音に関する本が出版させています。
「アニマルセラピー」ならぬ「ゴロゴロセラピー」といわれていて、ゴロゴロセラピーの自然治癒法を提案している獣医師さんもいます。
癒しの効果だけではなく、人の免疫力を上げるという効果があるようで、副作用のない薬とまでいわれています。
◆猫にとってもゴロゴロ音は癒し
猫はケガをしても他の動物と比べて3倍の速さで回復するといわれています。
その原因には、この「ゴロゴロ」という音による振動に関係があると考えられています。
実際に、フランスの理学療法士がそれを再現して、人のケガに用いているという話もあります。
猫が「ゴロゴロ」と喉を鳴らしている時は、猫も同じように癒されているといわれています。
人と触れ合うことで猫も安心感をもてることができ、猫がリラックス効果を得られると考えられています。
家で猫を飼っている人は、アニマルセラピーで猫と触れ合ってお互いにリラックス効果や癒しを求めあうのもいいでしょう。
■どんな猫がアニマルセラピーに向いている?
猫にもいろいろな性格があります。
アニマルセラピーに向いている猫は甘えん坊の性格の猫が合っているでしょう。
猫の中でも、メス猫よりもオス猫の方が甘えん坊といわれています。
特に去勢手術をしたオス猫は甘えん坊な傾向にあるようです。
また、猫にも個性はありますし、猫が過ごす生活や生まれ育った環境によっても性格決まってきます。
猫の品種によっては、警戒心が少なく、人に懐きやすい甘えん坊の性格でアニマルセラピー向きの猫がいます。
・スコティッシュフォールド
スコットランドで誕生した垂れ耳が特徴の猫です。
性格は穏やかで愛情深いところが特徴です。
人見知りをしない猫でもあり、飼い主さん以外の人にも甘える猫です。
・アメリカンショートヘア
性格は穏やかで、人見知りせずにどんな人にもよく懐きます。
生活環境にすぐに慣れてくれる適応能力に優れています。
飼い主さんの膝の上にのるのが大好きな猫です。
・ラグドール
とても大人しい性格で、猫の品種の中では大型です。
抱っこを嫌わない猫でまるでぬいぐるみのようであることからこの名前がついたほどです。
・ブリティッシュショートヘア
性格はおっとりしていて、神経質なところがなく、人懐っこい甘えん坊です。
新しい環境にもすぐに慣れてくれます。
・メインクーン
性格は温和で優しく、人懐っこいです。
大きな体な猫から「穏やかな巨人」ともいわれています。
・ノルウェージャンフォレットキャット
性格は穏やかで甘えん坊です。
飼い主さんに忠実で犬のような性格の持ち主です。
・ヒマラヤン
ヒマラヤンはペルシャとシャム猫から誕生した猫の品種です。
大人しくて、争いごとが嫌いで平和的な性格です。
猫の品種に限らず、人懐っこい性格の猫は他にもたくさんいます。
アニマルセラピーでいろいろな猫と触れ合うことで、自分に合った猫と出会えることもできるでしょう。
■猫と上手にスキンシップをとる方法!
アニマルセラピーは「猫と触れ合うこと」によって、心身ともに健康になるという治療法です。
アニマルセラピーを経験する前に、猫と上手にスキンシップをとれる方法を知っておきましょう。
◆ポイント①猫が近づいてくるのを待とう
猫の性格がとても人懐っこくても、猫の機嫌が悪い時は強引に抱っこをされると猫が嫌がる場合があります。
猫と触れ合う時は猫の様子を見ながらスキンシップをとりましょう。
猫を触る時は、強制的に触らないようにすること、驚かせないようにすることが大切です。
猫は無理に引き寄せたり、強く触られることを嫌がります。
猫が興味を持っていれば、猫から近づいてきますので、できれば猫から近づいてくるのを待ちましょう。
◆ポイント②猫が喜ぶ場所と嫌がる場所を知ろう
猫には、触られたい部分と触られたくない部分があります。
これは猫によって違ってきます。
〈触られたい部分〉
・のど元
・耳の下
・背中
・お尻
〈触られたくない部分〉
・頭
・お腹
・腰
・尻尾
特に頭と尻尾を触られたくない猫が多いので注意してください。
猫の様子を見ながら、猫がどこを触ると喜ぶかを確かめながら触ってみましょう。
猫が喜ぶ部分を触ると猫はうれしくて「ゴロゴロ」と喉を鳴らしてくれるかもしれません。
◆ポイント③抱っこをする時は体を密着!
猫を抱っこする時は、手を猫の脇にしっかり入れて、人の赤ちゃんを抱っこするように猫のお尻をしっかりと支えてあげることが大事です。
また、猫と体を密着させて猫が安定できる体制をとってあげることも大切です。
立ったままで高い位置での抱っこやお尻をしっかりと支えてあげない抱っこは不安定な状態になり、猫が危険を感じることがあります。
不安定な状態での抱っこはとても嫌がり、危険を感じて飛び降りてしまう猫が多いです。
人の赤ちゃんを抱っこするイメージで猫を抱っこしましょう。
アニマルセラピーが初めての人は猫とスキンシップをとる時に緊張してしまいがちです。
人が緊張をしていると猫にその緊張が伝わることがあり、そうすると猫も気を使ってなかなか心を開いてくれないかもしれません。
アニマルセラピーは、人と猫がお互いにリラックスできる効果があるので、初めてでも緊張せずに自然にまかせましょう。
■最後に・・・
アニマルセラピーは昔からある治療法です。
人と猫が触れ合うことで心身ともに健康になることはとてもいいことです。
人と猫との触れ合いでお互いにリラックス効果が得られることもとても素敵なことです。
人と猫との信頼関係も大切になってきます。
猫と触れ合う時、人は自然に笑顔になります。
疲れている時でも、猫を抱っこすると不思議と笑顔になり猫を愛おしく感じます。
そして、猫ののど元を触り猫が喜びそうなことをします。
猫が喜んでくれると「ゴロゴロ」と喉を鳴らし、その「ゴロゴロ」を聞いて人もうれしくなり、心が落ち着きます。
アニマルセラピーはいいことばかりで、人の心と体を健康にしてくれます。
飼い主さんとペットだけの関係ではなく、お互いにいいパートナーとして心身ともに元気に楽しく過ごせる時間が増えることでしょう。