「ただの餌やり」地域猫活動に誤解・・・
孤立する会員も 行政支援に期待の声
2018年10月8日(月) 西日本新聞
福岡県内の公園で、一般社団法人「福岡ねこともの会」の腕章を着け地域猫に餌をやる会員=9月18日
野良猫に不妊・去勢手術をし、「地域猫」とみなして地域で適切に管理する活動を、各県が支援する動きが広がっている。
地域猫活動はふん尿被害などの近隣トラブルを減らし、同時に殺処分減少にも有効とされるが、「ただの餌やり」と誤解されるなど理解が広まっていないことが活動のネックになっている。
民間団体からは「行政の支援が地域の理解につながってほしい」と期待の声が上がる。
9月のある平日、午後6時。右腕に黄色の腕章を着けた女性が、福岡県大野城市の公園を訪れた。
女性は一般社団法人「福岡ねこともの会」の会員。
会は10年前に発足し、現在会員は93人。
県内24カ所で172匹の地域猫を管理している。
不妊・去勢手術を受け一代限りの命
足元に体をこすりつけてくる人慣れした猫や、怖がりで茂みから出てこない猫など性格はさまざま。
共通するのは、全ての猫が不妊・去勢手術を受け、一代限りの命であることだ。
屋外で暮らす猫は、交通事故や感染症の感染などで寿命が短く、一般的に飼い猫の3分の1ほど。
この公園で活動を始めた10年前に18匹いた猫は、今では8匹にまで減少した。
会員2人が交代で、毎日朝夕の決まった時間に、1匹分ずつ小分けの皿で餌をやる。
食べ終わるのを待ち、容器はすぐ回収。
公園内を清掃し、ふんは自宅に持ち帰る-。
約1時間かけ、近隣の迷惑にならないよう細心の注意を払うが、それでも同団体の城恭子代表(50)は「地域の理解を得るのは容易でない」と語る。
会員の高齢化、後継ぎ不足も課題
団体には個人で活動している人からの相談もあり、中には「猫好きの勝手な餌のばらまき」と誤解され、近隣住民から孤立するなど深刻なものも多い。
自治会など地域に活動が認められても、会長が代われば白紙に戻るなど安定した活動の難しさを日々感じるという。
運営費は、自作のカレンダーの売り上げや、年会費、寄付など。
規約に基づき会から手術費用の一部補助もあるが、手出しも多い。
ある会員は「餌代や医療費など、月2万~3万円を負担している」。
活動する会員の高齢化も進み、後継ぎ不足も課題という。
活動支援、各地に広がる
こうした活動の支援は一部の市町村にとどまっていたが、2014年度の福岡県を皮切りに、15年度には長崎、大分、宮崎各県が開始。
熊本県は本年度スタートし、佐賀県も本年度中の実施を予定している。
内容は主に、(1)不妊・去勢手術費の補助(2)セミナーやボランティア育成などの啓発活動。
地域猫を管理する「認定地域」に対し、手術費用を全額負担する福岡県では、これまで千匹以上の猫が制度を利用した。
同県は本年度、新たな担い手を育てるため、活動を始めようとする地域に経験者を派遣する制度も始めた。
成城大の打越綾子教授(行政学・地方自治論)は、こうした動きを「動物愛護の実践と近隣トラブルの抑止を目指す折衷策」とみる。
きっかけは13年施行の改正動物愛護管理法。
飼い主の終生飼養が努力義務となり、保健所は安易に引き取らなくなった。
特に猫は繁殖力が強く、野良猫が不妊・去勢手術を受けない限り地域で猫は増え続ける。
打越教授は「殺処分を減らすためにも地域猫活動が注目された」と言う。
近隣トラブルになる例も
多くの自治体は「殺処分ゼロ」を掲げ、引き取り数を減らし、殺処分数も減っている=表参照。
しかし引き取り数が減るということは、野良猫が増える恐れもあるということだ。
不幸な命を減らそうと、個人が何匹も自宅で引き取ったものの管理できる範囲を超えてしまい、近隣トラブルになる例もある。
福岡県は先月、初めて一般向けに地域猫活動を紹介するセミナーを開いた。
講師は9年前から地域猫活動に取り組む東京都練馬区の職員、石森信雄さん。
「地域猫活動の普及に伴い、苦情と殺処分が減った」と紹介した。
石森さんによると、野良猫を巡る問題は、餌をやる人と被害を受けている人が対立し、感情論に陥って深刻化しやすく、全国的には殺人事件にまで発展した例もあるという。
合理的な猫被害対策を進めるには「行政が地域猫活動の公共性を保証することが重要だ」と訴えた。
「福岡ねこともの会」の城さんも、金銭面の支援だけでなく「県が活動の後ろ盾になる」という点に期待する。
「地域猫活動は環境保全の活動だという認識が広まってほしい」と話す。