ペットと避難 心構え絵本に「生き別れをなくして」
2018年9月1日(土) 毎日新聞
災害発生時に飼い主がペットと避難する「同行避難」。
その啓発に取り組んでいる神奈川県小田原市のNPO法人「防災総合ペット育成協会」の理事長、中川都子さん(44)が絵本をつくった。
愛犬にマイクロチップを装着するなど、飼い主の備えを呼びかける絵本のタイトルは「君とずっと一緒にいたいから」で、防災の日の9月1日付で発行。
西湘地区の公立小学校や幼稚園に配る。
中川さんは「被災動物を出さない第一歩にできれば」と話す。
中川さんは愛犬のラブラドルレトリバーに囲まれ、絵本に秘めた思いを語った=小田原市で、堀和彦撮影
<君と出会った日からぼくたちは毎日いっしょにいたね・・・ご飯のときも、遊ぶときも>
絵本の冒頭、少年と犬の仲むつまじいひとときが、柔らかい色鉛筆のタッチで描かれている。
大震災に襲われた街で、主人公の犬が飼い主の少年を探しさまよう。
だが飼い主を特定するマイクロチップなどを装着していなかったため、再会を果たせず生き別れてしまうストーリーだ。
中川さんは東日本大震災で問題となったペットと飼い主の離別に心を痛め、「子どもたちに伝えなければ」と制作した。
<ぼくはたくさん走って君を探したよ・・・その間も何度も大きく揺れて、怖かったけど、君を探し続けた・・・>
<でもね・・・君はいなかったんだ・・・>
小学生の頃の出来事が、中川さんの活動の原点となった。
転校を重ねる度に陰湿ないじめに苦しんだ。
心臓の病気を患う母に無用な心配を掛けたくない--。
そんな時、雑種の保護犬「タロウ」が、頬をつたう自らの涙をひたすらなめて励ましてくれた。
「ペットも大切な家族で尊い命。責任を持ってもらいたかった」と、NPOを発足させた。
絵画の経験はなかったが、タロウと過ごした往時の記憶を頼りに、色鉛筆を走らせた。
絵本では、鑑札やマイクロチップの装着など「ペット防災」の心構えを説く。
支援の輪はすぐに広がり、制作費をインターネット上で募るクラウドファンディングは目標の60万円に到達。
小田原市教委など、行政の後押しも得た。
初版は1000部で、書店販売分を除く150冊ほどを西湘地域を中心に15自治体の公立小学校や幼稚園に配布する。
ペットとの「同行避難」について世間の理解度はまだ道半ば。
中川さんはペットを高齢者や障害者と同じ「災害弱者」と捉え、行政や自治会へ粘り強く理解を訴え続ける。
中川さんは「災害に遭う前から自助の意識を考えてほしい」と語る。
絵本についての詳細は同協会ホームページ(https://www.bousaipet.org/)。
【堀和彦】