劣悪な繁殖場で育ったゴールデン 新しい家族の「太陽」に
2018年7月6日(金) sippo(朝日新聞)
「太陽」のような「春陽」
悪質な繁殖業者のもと、劣悪な環境で次々と子犬を産ませられる犬たち。
そんな繁殖犬だったゴールデン・レトリーバーが救出され、新しい家族に出会った。
やさしい飼い主に見守られ、名前の通り、明るく暮らしている。
繁殖業者とのいたちごっこ
奈良県の山中、人気のない倉庫のようなところが犬の繁殖施設だった。
身動きできないほど狭いクレートの中に犬が2匹入れられ、抜け落ちた毛とほこり、汚物がからみついていた。クレートがゴミで埋もれていて、なかなか見つけられなかった犬もいた。
全部で42匹、なかにはシニア犬もいた。
彼らは一生のほとんどを、産めよ、増やせよと、人間の極めて利己的な目的に使われてきたのである。
この業者は、「もう二度と犬の繁殖をしない」という誓約書にサインし、所有権を放棄した。
だが、誓約書の法的な拘束力は極めて薄いという。
何度も同じことを繰り返す業者もいれば、こうしたレスキューの現場に、まだ使えそうな繁殖犬を求めてやってくる業者ももいるそうだ。
救出するボランティアと、悪質な繁殖業者。
レスキューしても、またどこか劣悪な環境下で繁殖が繰り返される。
いたちごっこだ。
繁殖犬を保護した個人ボランティアは、ブログにこう綴っている。
「(犬たちを)このような状況に置いた張本人を裁くことも、根源を断ち切ることなど到底できず、ブリーダーの後始末に個人ボランティアが利用され、加担したと言われても仕方がないことだとも思います」
ドッグランで遊ぶ
なぜか引きつけられた犬
「春陽(はるひ)は、うちのお日様なんです」
奈良の繁殖施設から救出されたゴールデン・レトリーバーを引き取った高原さんは、そういって微笑む。
春陽ちゃんのくったくのない、天真爛漫な様子からは、繁殖犬として飼われていた過去などみじんも感じさせない。
春陽ちゃんを引き取る前、高原さん夫妻は、愛犬マルチーズのチビタくんを亡くし、オスのゴールデン・レトリーバー「楓太(ふうた)」くんと暮らしていた。
そんな時、保護団体のバザーで、救出された42匹のうち、1匹のゴールデン・レトリーバーに会ったが、特に「この子だ!」とは思えなかったという。
ところが、ある日、パソコンに向かっていると、春陽ちゃんに目がとまり、なぜか「この子が欲しい」と強烈に思ったのだという。
「話がまとまるまで、他の人にもらわれないかと心配で、心配で」。
実際に会ったわけでもないのに、毎日ドキドキしたという。
優しい楓太お兄ちゃん(左)と
先住犬とも意気投合
こうして、春陽ちゃんは、3歳にして新しい生活をつかんだ。
だが、もらわれた当時は毛吹きが悪く、貧相。
出産もしたようで、おっぱいが大きかったという。
歯茎に腫瘍もあったが、そのまま放置されていた。
その春陽ちゃんは、家に来て先住犬の楓太くんと対面すると、すぐにワンコプロレスをしてじゃれ合った。
2匹はすぐに仲良くなった。
「楓太は元々温厚で、どんなワンコとも上手くやっていける子でしたが、他の子とワンプロのようなじゃれ合う遊びができませんでした。ところが、春陽が来たその日から意気投合して、いきなりワンプロを始めたのには驚きました」
しかし、春陽ちゃんは当初、非常に控えめで、遠慮気味だったという。
楓太くんが使ったオシッコシートでは排尿できず、新しいシートを敷くまでオシッコができない。
お母さんにすれば、そんなことが気がかりだった。
今もご飯をガツガツ食べるところは、食べ盛りだった頃に毎日お腹を空かせていたからではないかと思わせるという。
それでも、春陽ちゃんの陽気な雰囲気は、家族を明るく照らす。
みんなで山の上にあるドッグランに出かけたり、時折、旅行に行ったり、幸せな毎日を暮らしている。
楓太くんと春陽ちゃんに加え、その後、高原家にはマルチーズの保護犬「ナツ」ちゃんも加わり、賑やかさが増すばかりだ。
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