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子犬・子猫、流通にひそむ闇

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子犬・子猫、流通にひそむ闇 死亡リストを獣医師が分析

2018年6月26日(火) 太田匡彦 朝日新聞記者


繁殖業者のもとで飼育されているトイプードル(写真と本文とは直接関係ありません)

日本では繁殖から小売りまでの流通過程で毎年約2万5千匹もの犬猫が死んでいる。
なぜこれほどの数の犬猫が死ぬのか。
朝日新聞はある大手ペットショップチェーンが作成した、仕入れた子犬・子猫の死亡リストを入手した。
獣医師らの協力で分析すると、ペット流通にひそむ問題が浮かび上がってきた。

●「D犬リスト」と呼ばれる内部資料
入手したのは、全国で約150店を展開する大手ペット店チェーン(本社は埼玉県内)が作成した、22カ月分(2015年4月~17年1月)の死亡リスト。
同社が仕入れた子犬・子猫のうち死んだものが月ごとに記されており、社内では「D犬リスト」と呼ばれているという。
月によって若干の違いはあるが、死んだ子犬・子猫について、展示販売していた店舗名▽仕入れ日▽仕入れたペットオークション(競り市)▽種別▽性別▽病状や治療経過、などが記入されている。
15年10月以降のリストには仕入れ数に占める死亡数の割合「D犬率」も示されており、割合が最も高かったのは230匹が死んだ16年8月で6・0%。月平均は3・6%だった。
これらのリストを公益財団法人動物臨床医学研究所の獣医師らに分析してもらった。
すると「下痢・嘔吐(おうと)」や「食欲不振」が死につながっていると見られるケースが目立った。
D犬率が最高だった16年8月では66匹が「下痢・嘔吐」、61匹が「食欲不振」の症状を見せていた。
感染症が広まっている状況も見て取れた。
月によって傾向はかわるが、たとえば15年4月は、死んだ子犬84匹のうち42匹が「パルボウイルス感染症」と見られる症状を発症。
また16年8月に死んだ子犬189匹については「ケンネルコフ(伝染性気管気管支炎)」が疑われる症状が17匹で見られた。
猫では「猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)」や「猫伝染性腹膜炎(FIP)」と見られる症例が冬の期間に目立った。

●獣医師「子犬・子猫に大きなストレス」
同研究所理事長で獣医師の山根義久さんは「明らかに感染症にかかっているとわかる症状がこれだけ出ているのには驚いた。繁殖と流通の段階で衛生管理が行き届いていないのではないか」と指摘する。
一方で、同社で子犬・子猫の健康管理に携わっている獣医師はこう証言する。
「必死に治療をしているが、店舗に入ってくる段階で既に状態が悪すぎる子が多いのが現実。私たちとしては、繁殖業者の段階で健康管理を徹底してもらいたいと思っている」
山根さんはさらに、特に暑さや寒さが厳しい時期の輸送や一部のペット店での飼育環境に問題があるのではないかと指摘する。
「下痢や嘔吐、食欲不振が多いのは、それらの要因が子犬・子猫にとって大きなストレスになっているためだと考えられる」
環境省の推計などによると、国内で販売される犬猫の6割は、繁殖業者→競り市→ペット店→消費者という経路で流通している。
またチェーン展開するペット店の場合は、競り市で仕入れた後にいったん流通拠点に子犬・子猫を集約し、その後に各店舗に配送するのが一般的だ。
つまり子犬・子猫は、生後まもない時期に3、4回、車や飛行機による移動を経験する。


ほとんどのペットショップが通常、ペットオークション(競り市)で子犬や子猫を仕入れている

死亡リストとは別に、同社の北海道内の店舗が札幌市に提出した14年度の「犬猫等販売業者定期報告届出書」を入手した。
子犬は7・99%、猫は4・39%もの死亡率だった。
同社の流通拠点である「生体管理センター」は埼玉県内にあり、北海道内にはごく小規模な競り市しか存在しない。
同社に、健康管理の状況について取材を依頼し、5項目の質問を送ったが、同社社長室長からは「ご質問につきまして、当社も創業以来愛護の精神に沿った取扱い、管理等を日々努力しておりますがまだまだ至らぬ事も有ると思います。(中略)詳細についてのコメントは差し控えさせて頂きますので宜しくお願い申し上げます(原文ママ)」と回答があった。

●毎年2万匹以上が流通過程で死亡
朝日新聞は17年11月、「犬猫等販売業者定期報告届出書」を回収している全国99の自治体にその合計数などを尋ね、集計した(回収率100%)。
すると16年度は犬1万8687匹、猫は5556匹の計2万4243匹が、繁殖から小売りまでの流通過程で死んでいた(15年度は計2万4954匹、14年度は計2万3181匹)。
犬では、全国の自治体による殺処分(16年度は1万424匹)を上回る数が流通過程で死んでいることがわかった。


ペットオークション(競り市)で子犬や子猫が入れられた箱

この届出書に記す死亡数には「原則として死産は含まない」(環境省動物愛護管理室)。
また繁殖用の犬猫で繁殖能力が衰えて引退したものは「販売または引き渡した数」に含まれるため、同じく死亡数としてカウントされない。
山根さんは「現行の動物愛護法では、生後49日を過ぎれば子犬・子猫の販売が可能になるが、ちょうど免疫力が低下しているころだ。そのことも死亡数がこれほどの数に上る原因の一つではないだろうか」と指摘している。 

 太田匡彦 朝日新聞記者
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。16年4月、文化くらし報道部に異動し、現在に至る。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日文庫)、共著に『動物のいのちを考える』(朔北社)などがある。


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