「ペットの遺体を生焼けで返す」と恫喝も、ペット葬儀業界の闇
2018年7月2日(月) DIAMOND
料金トラブルや動物病院へのリベート、ひつぎの使い回しなど、ペット葬儀業界には、さまざまな問題が潜んでいる
依然としてペットブームが続いているが、実は日本のペット飼育率は右肩下がりで、この先は寿命を迎えるペットの数が着実に増えていくのだという。
しかし、死んだペットを見送るための「ペット葬儀業界」はトラブル続出のブラックボックス状態。
その問題点は一体どこにあるのか?
大森ペット霊堂の齋藤鷹一氏に話を聞いた。
(清談社 中村未来)
●移動火葬車でのトラブル続出 「払えなければ生焼けで返す」
「ペット飼育率の最盛期は2008年頃、約10年前です。その年を境に、ペット飼育率の数字は年々下がっています。あくまで犬猫の登録数での話なので、登録していない犬猫も多くいますし、小動物や爬虫類も多い。すべてを含めた実際の数は未知数ですが、いずれにせよ、これから寿命を迎えるペットの数が増えるというのは必然でしょう」(齋藤氏)
つまり、今後はペット葬儀業者の需要が今度どんどん増えていくということだ。
しかし齋藤氏は、一部のペット葬儀業者が行うずさんなサービスをなんとかしなければいけないと嘆く。
というのもペット葬儀は、30年以内に始まった比較的新しいビジネスのため、モラルが欠落した業者も少なくないそうで、その中でもトラブルが後を絶たないのが「移動火葬車」を使ったものだという。
「移動火葬車とは、炉を載せた車が、飼い主の家まで来てその場で火葬してくれるというものです。家だけではなく、よく散歩した公園や思い出の地に来てもらうこともでき、かつ安価でお見送りができるため、ニーズが大きいのは確か。もちろんペット霊園でもずさんなところが多くありますが、ペット葬儀トラブルの7割ほどはこの移動式火葬車によるものです」(同)
過去には、数十万円という法外な火葬代を請求し、「支払えなければ生焼けで返す」と脅すようなトラブルも発生。
また、火葬による異臭騒動が発生したという事例もある。
なぜ移動火葬車に悪質な業者が多いのか。
その理由は、新規参入しやすいビジネス形態にある。
「移動火葬車は、簡単に言えばラーメンや石焼き芋の屋台と同じカテゴリです。
ペット霊園と違い、車を手にすれば簡単に開業することができます。
私の知っている方で真面目に移動火葬車を使い、営業している方もいますが、基本的には動物やペットに愛情がなく、完全な営利目的で営業しているところも多いので、こうしたトラブルが起きてしまうのだと思います」(同)
●火葬場でこっそりと遺体を取り出し ひつぎの使い回しをする悪徳業者
もちろん、明らかな犯罪行為に対しては警察も動くが、この種のトラブルでは注意喚起だけで、厳しい取り締まりや規制はまだないというのが現状だ。
では、移動火葬車を避ければ問題は起きないのかと思えば、そう簡単な話ではない。
「業界に身を置く人間として非常に残念ではありますが、炉が敷地に固定されているセレモニーホールのようなところであっても、サービスが不完全なところは山ほどあります。例えば動物用のひつぎを、お客さまの見えないところで炉から取り出し、再利用する施設も多くあります。それに加えてスタッフが、動物に対する知識をほとんど持っていないというケースも多いです」(同)
ビジネスである以上、利益を出さないことには経営は成り立たない。
しかし、社会的な意義よりも、営利を重視するペット葬儀業は想像以上に多い。
某動物病院に所属するA氏が、匿名を条件にペット葬儀の裏側を明かしてくれた。
「人間が死ぬと、病院が葬儀会社をあっせんし、そのまま葬儀を頼むという流れがほとんどだと思いますが、実は動物も同じです。動物病院がペット葬儀業者を紹介するのです。その裏では、自分の葬儀場を紹介してもらうため、ペット葬儀業者が動物病院に寄付という名目で多額のお金を渡していたりします」(A氏)
この習わしは、業界内では周知の事実だという。
「裏で金を積んであっせんされたペット葬儀業者が、すべて悪質だとは言いません。ただ、動物病院に渡す金があるのなら、利用者に対するサービス向上に投資すべきだと思いますけどね」(同)
利用者からしてみれば、動物病院から紹介された業者というだけで信用に値すると思ってしまうが、絶対に安心できる業者とは限らないのだ。
●良い業者を選ぶために 押さえておきたいポイントとは
とはいえ、近年はこうした習慣に異議を唱えるペット葬儀業者も増えたという。
動物病院とペット葬儀業者の癒着について、前出の齋藤氏は言う。
「確かに、癒着は存在します。そして業界にいれば、どこの業者が動物病院にお金を渡しているかは耳に入ってきます。だからこそ、葬儀業者を利用する人には、できるだけ優良な業者を選んでいただきたいと心から思います。葬儀業者のスタッフは、動物愛好家でなければ本来務まらない仕事なんです」
悪質な業者に大切なペットを任せることはできない。
それを見極めるためには、HP上に書かれている理念をしっかり確認することが重要だ。
「なぜペット葬儀会社を営んでいるのか、理念を読めば、その業者の本気度が伝わってきます。また、SNSで、日常的にどのようなことをしているかも確認するといいです。スタッフの人柄は、葬儀の質を大きく左右します」(齋藤氏)
また、電話をしてみたときの反応で、ペットを動物としてみているか、それともモノとして見ているかも判断できる。
「理念のない業者は、ペットをモノとして見ています。そのため、動物の生態についてそこまで関心のないケースが多いです。犬種や名前、年齢を一切聞かずに、全長、体重だけを聞かれるなど、実務的な面ばかりを気にする業者は、私はあまりおすすめしたくありません。飼い主の悲しみに寄り添えるとは思わないからです」(同)
そのほか、保護動物の譲渡会や里親探し、動物への社会貢献活動などを行っているかどうかも見ておきたいポイントだという。
「ペットは法的に見れば、テレビや洗濯機と同様に“モノ”として扱われます。動物愛護法がありますが、私に言わせればあってないようなもの。愛護は人間の解釈でしかありません。しかし、大切な家族に違いありません。業界全体のモラルを上げるのが、私たち当事者の課題でもあります」(同)
愛するペットが生きている間に、死んだ後のことを考えるのはつらいが、人間よりも先にペットの寿命が来てしまうことは避けられないこと。
悔いなくお見送りができるよう、どこのペット葬儀会社を利用するかは、生前に選んでおきたいところだ。
中村未来