【世界から】
豪、ペットショップから子犬たちが消える
2018年5月1日(火) 共同通信
ショッピングセンターの中にあるペットショップ。ビクトリア州では間もなく見られなくなる光景だ(C)Middy Nakajima
コアラやカンガルーをはじめ固有種の動物が多いことで知られるオーストラリアは、実はペット大国でもある。
何しろ、人口よりもペットの数が多く3軒に2軒の家庭がペットとともに暮らしているというのだから。
シドニーに次ぐ第2の都市メルボルンを州都とするビクトリア州では州法改正に伴い、今年7月1日以降はペットショップで犬や猫を販売することが原則として禁止されることになった。
例外は、シェルターなどの動物保護施設から引き取られた生後6カ月以上の保護犬や同8週以上の保護猫だ。
この日を境に、州内のペットショップから月齢の若い子犬の姿が消えるわけだ。
知り合いから譲り受ける場合は別として、生後6カ月未満の子犬が欲しければ、ペットショップではなく動物保護施設を自ら訪れるか、ブリーダーに直接連絡をするかの2択、自分が最初の飼い主になりたければ、ブリーダーから購入するしかなくなる。
▽生体販売を巡る動き
どのような環境で誰によって成育されたか分からない生きた動物をペットショップのショーケースに展示し商品として販売する、いわゆる「生体販売」に対する疑問や反発の声は、年々高まっている。
先進国を中心に、生体販売を条例等で禁止する自治体も少しずつ増えている。
だが、国や州レベルで法規制するというのはまだまだ珍しい。
アメリカではカリフォルニア州が州として初めて犬や猫などの生体販売禁止を法制化。
2019年1月からの施行が決まっている。
オーストラリアでも、州としての法制化はビクトリア州が初めて。
ただし、わたしの住むニューサウスウェールズ州でも、生体販売を行わないペットショップの方がはるかに多く、店頭で子犬や子猫を見かけることはあまりない。
▽法改正が目指すもの
今回の法改正は、14年の州議会選挙で政権を奪還した現アンドリューズ州首相率いる労働党が野党時代に掲げた公約を数年がかりで実現したもの。
ペットショップに対する規制にスポットライトがあたりがちだが、ブリーダーに関しても保有できる母犬の数に上限が設けられるなどといった新たな規制の導入が予定されている。
目的は、劣悪な環境で繁殖を行う「パピーファーム」と呼ばれる利益最優先の悪質な子犬繁殖場の撲滅だ。
動物愛護団体は、今回の州法改正によって創設される新たな登録制度「ペット・エクスチェンジ・レジスター」を高く評価する。
これまでもブリーダー業は所在地の役所に届け出る必要があり、州内に79ある自治体がそれぞれ管理してきた。
今後構築される州全体の包括的なシステムでは、「誰が繁殖し、どこから来たのか」が分かる「ソース番号」を登録者に発行することにより、トレーサビリティー(生産流通履歴)を確保する狙いがある。
新制度の登録対象者には、「バックヤードブリーダー」も含まれる。
これは、自宅の裏庭などで生まれた犬や猫を販売する個人のことだ。
19年7月からは、犬や猫の譲渡広告にはたとえ無料であっても、ソース番号と個体を識別するマイクロチップ番号を明記しなくてはいけなくなる。
▽ペットの入手経路
動物用医薬品の業界団体「Animal Medicines Australia」が実施した16年の調査によると、ペットショップで動物を買う人はもはや少数派だ。
犬の入手経路は、「ブリーダー」がトップで36%(前回調査比6ポイント増)、続いて「友人・隣人」が17%(同3ポイント減)、「シェルター」が16%(同1ポイント増)、「ペットショップ」が14%(同2ポイント減)となっている。猫の入手経路は「シェルター」が最も多い25%(同3ポイント増)で、「ペットショップ」は10%(増減なし)に過ぎない。
ペットショップの中には、法律を先取りする形で動物保護団体と連携しているところもある。
例えば、全国におよそ170店舗を展開する「ペットバーン」は、商業目的で繁殖された犬や猫、ウサギなどの販売を一切行わない代わりに、捨てられたり、迷子になったりして保護された動物の譲渡センターを115店舗に常設。
ペットバーン経由で引き取られた保護動物は、これまでに3万匹を超えるという。
より身近な場所でより多くの人の目に触れることは、新しい飼い主が見つかるチャンスの広がりにつながっている。
▽命を引き受けること
実はわが家にも半年前に生後10週の子犬がやってきた。
やんちゃ盛りでエネルギッシュな愛犬との暮らしは喜びに満ちているが、人間社会のルールを一つ一つ教えながら、健康でハッピーな犬に育てることは、つくづく大変なことだと実感している。
小さな命と向き合う日々には、「かわいい」だけではすまない現実がある。
ペットを飼うことは、その命を丸ごと引き受けることにほかならない。
一般的にブリーダーや動物保護施設から動物を譲り受ける手続きには、時間も手間もかかる。
「ほしい」「はい、どうぞ」とならないのは、自分たちの手を離れていく動物の幸せを、心ある関係者が切に願っているからだ。
種類による特性や個々の気質に加え、性格や健康状態などが、譲渡先の家族構成や住環境、生活スタイルなどに合うかどうか確認し、ライフステージが変わった後も最期まで飼い続ける覚悟が必要なことを未来の飼い主に理解してもらうのは、譲り渡す側の使命。
保護動物の譲渡窓口の役割を担うことになるペットショップも、その大切な任務を真摯(しんし)に務めていきますように・・・。
(シドニー在住ジャーナリスト、南田登喜子=共同通信特約)
ペットバーンの譲渡センター。マイクロチップ装着やワクチン接種、去勢・避妊手術を済ませた子猫たちが新しい飼い主との出会いを待っている(C)Middy Nakajima
ブリーダーには直接出向いて、母犬や子犬を見せてもらうのが鉄則。最大の利点は、生育環境や健康状態を自分の目で確かめられこと=南田登喜子撮影