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熊本地震で学ぶ “ペット同伴避難” の現状と課題

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熊本地震で学ぶ “ペット同伴避難” の現状と課題
 「飼い主の意識改革が必要」

2018年4月21日(土) 週刊女性PRIME


被災後、益城町へペットの治療に赴く徳田竜之介医師

熊本地震後、飼っているペットが死んでしまったという話をあちこちで聞いた。
「地震がよほど怖かったんでしょうね。うちのミニチュアダックスは、揺れるたびに震えて、腰が立たなくなって動けなくなってしまいました。食欲も落ちたので病院に連れて行ったけど、原因がわからない。最後はお腹の血管が詰まり、開腹手術までしたけどダメでした」
市内に住む30代の女性は涙ぐみながらそう語り、肩を落とす。
被災前は元気そのものだっただけに悔しさがこみ上げる。
ここ半年で飼っている2匹の犬が相次いで死んだという話もほかの女性から聞いた。
2年たっても影響は続いている。

「同伴避難」は難しい
「動物はしゃべれないから、そのぶんストレスがたまりやすいんです。今でも小さな音や揺れに反応して、びくびくするペットは多いですよ」
熊本市内の『竜之介動物病院』院長である徳田竜之介さんはそう指摘する。
熊本地震後、車中泊やテント泊が多かったのは、子どもや高齢者がいるという理由もあるが、ペットの存在も見逃せない。
避難所では、同行避難してきてもペットは入れず、避難所脇に作られた小屋にケージのまま置くしかなかった。
中には避難スペースに連れ込む人もいたが、これが大混乱を招いた。
原因のひとつに、環境省が示していたペットの避難に関するガイドラインのあいまいさがある。
「同行避難が基本」としているが、それは避難所まで一緒に行くだけで、一緒に過ごせる「同伴避難」ではないのだ。
そうなると、被災者もぺットもストレスがたまる一方だが、避難所にペットを持ち込まないで、との苦情も多い。
アレルギーがある人にとっては深刻な問題にもなる。
食べ物に毛が入る、鳴き声がうるさいなどトラブルにもなりやすい。
環境省は今年に入り、ガイドラインを改訂。
ペットと人が同室で過ごす「同伴避難」は避難所ごとの判断であり、基本的には難しいことを再定義した。
ペットを飼う人、飼わない人での歩み寄りが難しい問題だ。
そんな中、前出の『竜之介動物病院』では地震直後、いち早く病院を避難所として開放。
1500人の家族とペット1000頭を無料で受け入れ、ペットと一緒に過ごせる同伴避難所としての成功例を作った。
同院は、トリマーや飼育員など動物専門家を育てる『九州動物学院』を併設しているため、教室も開放。
それでも廊下までぎっしり埋まるほどの混雑ぶりだったという。
「ケガをした動物の手当てや、入院中のペットの治療もしなければならない。まさに動物の野戦病院という感じでした。ベッドが間に合わないから、犬や猫はケージに入れたまま点滴をしていました」
噂を聞きつけて、ほかの避難所からもペット連れの家族たちが続々とやってきた。
徳田さんは被災者たちを班分けし、職員をリーダーにつけ、自治的に避難生活を送ってもらうことにした。

被災者しているのになぜか明るい
竜之介病院は、東日本大震災後、耐震構造の建物に建て替え、その際、自家発電装置と36トンの貯水槽を設置していた。
建築業者からは、「熊本は必要ない」と言われたが強行。
その3年後に熊本地震が起きた。
おかげで電気には困らなかったが、36トンの貯水槽は水道管が破裂したために大打撃。
病院裏の小川からポンプで水を汲み上げて人間用のトイレに使った。
また、動物の餌は備蓄や支援物資があって困らなかったが、「公の避難所ではないので、数日間は人の食べ物には困った」という。
それでも、人々は文句を言わなかった。
「犬や猫を飼っている人たちは、この子を守るのは自分だという意識があるから強いんです。助け合いや譲り合いで、揉めごとはいっさいなかったし、みんな被災しているのになぜか明るかった。仲間がいたからでしょう。飼い主の不安や動揺はペットに伝染しますから、ここにいたペットは比較的、ストレスが少なかったと思います」
徳田さんは避難所としての開放は「1か月」と限定した。
それまでに身の振り方を決めてほしい、と計画性を求めたのだ。
1か月後、病院は避難所としての役割を終えたが、当時を一緒に過ごした被災者たちは今もLINEグループを作って仲よくしている。
徳田さんは、行政にも災害時の避難所のありようを検討してほしいと願っている。
「ペットを可愛がっているおじいちゃんやおばあちゃんにとって、その子がいることで生きる気力が湧くんですよ。若い人はそれなりに立ち直れるけど、高齢者は大災害にあったとき、どうしても立ち直りが遅くなる。だからこそ、同伴避難所をぜひ作ってほしいですね」

今なお一緒に暮らせない人たちも
被災当初から今にいたるまで、ペットと一緒に暮らせていない人たちもいる。
生活再建が遅れ、みなし仮設として賃貸アパートなどに入居している場合、飼えないからだ。
熊本県では地震から約1か月後に『熊本地震ペット救護本部』を設置。ペットの救護や飼い主の支援を行ってきた。
実は2年前、九州動物福祉協会では、ペット用のシェルター施設となる『九州災害時動物救援センター』の開設準備を進めていた。
副センター長の林泰輔さんは言う。
「阪神・淡路大震災や東日本大震災では動物の行き場がなくて、迷子や放棄された犬が多かったんです。そこで、広域のシェルターを作ることになり、昨年春にオープンする予定でした。その1年前に熊本地震が起こってしまった。準備段階ではあるけれど、生活再建ができるまでのお手伝いとして70頭ほどを受け入れました」
このシェルターは大分県にあり、広大な敷地で豊かな自然に恵まれたところ。
預けている人たちは過去4回ほど、バスツアーを組んで飼っている犬に会いに行っている。
「飼い主が来ると犬も喜ぶし、人間のほうも早く生活を再建できるよう頑張らなくてはと思うみたいです」(林さん)
熊本県獣医師会によれば、犬猫一時預かりの数は県内の動物病院だけで、発災した4月は312頭、8月は189頭と、約半年にわたり3桁の数字が続いた。
県内の動物ボランティアも一時預かりに奔走した。
ペット救護本部で電話相談などをしている山本志穂さんは、もともと動物ボランティアや愛護団体で活動していたが、現状を見るに見かねて知り合いの店の裏庭を借り、『阿蘇くまもとシェルター』を立ち上げた。
西原村の山の中腹にある『マロンの樹』という素敵なレストランの敷地内だ。
ここにはドッグランもあり、現在17頭の犬を預かっている。
人件費とプレハブの家賃代だけは飼い主からもらっているが、経営は火の車状態。
それでも「ペットのためにも、預けている飼い主さんのためにも、頑張らなければ」と力がこもる。

飼い主の意識改革を
熊本県庁職員でペット救護本部の責任者のひとり、江川佳理子さんは、震災後、あえて飼い主にもきついことを言い続けているという。
「ペットを飼うときは、災害などの状況も考慮してほしい。飼い主の心構えと準備が大切なんです。熊本に限ったことではないと思いますが、田舎では今でも犬は“番犬”なんです。登録や混合ワクチンなども義務づけてはいるんですが、狂犬病の注射しかしていない人も多い。飼い主の意識をどこまで高めるかもこれからの課題です」
「自分が病気になったけど、犬がいるから入院できない。何とかしてほしい」といった相談もあったが、ペット側に最低限の処置がされていなければ、一時預かりの紹介も難しくなる。
猫についても迷子札とマイクロチップ、避妊去勢しておくよう行政から飼い主へのお願いとして啓蒙しているが、今回の震災でそれが浸透していないことがわかった。
「ボランティアに何とかしてくれと言う人もいますが、混合ワクチンを打ってないからペットホテルにも預けられないし、かかりつけの病院がないから、相談することもできないんです」(前出・山本さん)
熊本県獣医師会の常務理事でもある獣医師・滝川昇さんは、「自分の動物は自分で守るという意識をもっと持ってほしい」と語る。
「どうしたら意識改革ができるのか。課題は山積しています。飼い主には今一度、飼い方を見直してほしい。首輪や迷子札、リードなどはふだんから点検し、ペット用の防災グッズも備えておくことが重要です」
家族同様のペットだからこそ、災害時、一緒に助かるためには何をすべきか、日ごろから考えておくことが必要なのだ。

取材・文/亀山早苗
1960年、東京都生まれ。女の生き方をテーマに幅広くノンフィクションを執筆。熊本県のキャラクター「くまモン」に魅せられ、関連書籍を出版。震災後も20回熊本に通い、取材を続ける。著書に『日本一赤ちゃんが産まれる病院 熊本・わさもん医師の「改革」のヒミツ』


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【激震地・益城町で崩れた家屋を避けながら往診に向かった】


【ベッドは足りなかったが、弱った犬や猫はケージに入れたままですぐに点滴が打たれた】


【診察室の一部も避難スペースに。学生ボランティアも駆け付けた】


【『阿蘇くまもとシェルター』で支援者に爪を切ってもらう犬たち】


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