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アニマルホーダーの病理

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異常な数の動物を飼育してしまう“アニマルホーダー”の病理

2018年3月6日(火) NEWSポストセブン

保護された猫は警戒心が強く人に近寄らない

日本は空前の猫ブーム。
ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査(2017年)によると、犬の飼育数は892万匹、猫は952万匹。
調査開始以来、初めて猫が犬を上回った。
猫は散歩が不要で、鳴き声などの騒音の心配もなく、飼育にかかる費用も一般的には犬に比べて安い。
高齢化や核家族化、共働き世帯の増加が進む日本において、この手軽さが人気の理由だ。
しかし、飼育のハードルの低さは1つの“病”も生み出していた。
それが『アニマルホーダー』である。
NPO法人ねこけん代表理事の溝上奈緒子さんが指摘する。
「異常な数の動物を集めて飼育してしまう人のことで、日本語では『過剰多頭飼育者』と訳します。対象は動物全般ですが、圧倒的に猫が多い。彼らは、動物を囲って自分の支配下に置き留めることが、動物のいちばんの幸せと信じ込んでいます。そのため、外で野良猫を見つけるたびに、『かわいそう』と感じて連れ帰る。それを繰り返すうちに家の中でどんどん繁殖し、飼育費がかさんで本人の手に負えなくなる。結果、自分の生活まで崩壊していくのです。アニマルホーダーは、自分が普通ではないことに気づいていません。1匹、1匹と増えていくうちに、命ある動物を飼っているという意識が薄れてしまう。また、アニマルホーダーになる人は、社会から孤立した高齢者に多いといわれています。孤独感から動物への依存を強めていくのだと思います。高齢化が進むにつれて、今後このケースは増えていくと思います」
2016年の国勢調査によると、65才以上の高齢者は3342万人。
うち562万人は単身世帯である。
アニマルホーダーはどこにいても不思議ではない。
多頭飼育に陥る人の中には、貧困者が多く、不妊去勢手術の費用を捻出できないケースも目立つという。
「そこで昨年4月、無料で不妊去勢手術を行うクリニックを設立したのですが、手術の当日になって『面倒だから』とキャンセルする人が非常に多いんです。手術をしないと、猫はすぐに繁殖してしまいます。こうした自分本位で時間や約束にルーズな人間性のかたは、多頭飼育崩壊に陥る傾向が強い気がします」(溝上さん)
周りにいる人が気づくべきだが、特に猫の場合、鳴き声などが近隣に響きにくいため、察知しづらい。
「過去、東京都練馬区の一戸建てで、49匹の猫を保護したことがあります。この時も近隣や親戚だけでなく、隣に住んでいる人でさえ、多頭飼育に全く気づいていませんでした」(溝上さん)
1度アニマルホーダーに陥ると自力での解決は難しく、行政やボランティア団体などの手を借りなければ、完全な克服は難しい。
過去に猫18匹を飼い、生活が立ち行かなくなった都内在住のA子さん(29才)が、自身の経験を振り返る。
「看護師の仕事で不規則な日々を送る中、唯一の癒しがペットの愛猫でした。最初はラグドールを2匹飼っていたのですが、気づいたら交配してしまって・・・。多忙で獣医にも行けず、子供が子供を産み、気づけば部屋中が猫だらけ、という状態でした」
A子さんの暮らす1LDKのマンションは、瞬く間に汚部屋と化し、異臭騒ぎで住人からクレームが殺到。
大家から退去通告を受けた際、「あなた、これ病気よ」と真顔で言われ、われに返ったという。
「アニマルホーダーについて書かれた記事を渡され、読んでみたら私のことだ、と。『猫の飼育をやめないなら行政代執行で退去してもらう』と言われましたが、これまで家賃の滞納はなかったので、温情も示してくれて。動物愛護センターやボランティアなどの猫の受け入れ先や、精神科医を紹介してくれたんです。カウンセリングを受けてみて、改めて猫にひどいことをしていたのだ、と自覚しました。幸いなことに、18匹全ての引き取り手も見つかり、強制退去は免れました。相当なショック療法でしたが、あそこまで話が大きくならなければ、今も生活が崩壊したままだったと思います」
多頭飼い状態にならないためにはどうすればよいのか。
溝上さんは語る。
「まずは、必ず不妊去勢手術を猫に受けさせてほしい。譲渡するボランティア団体も、猫を販売するショップやブリーダーも、あらかじめ手術を行ってから飼い主に渡してほしいと思います。『ねこけん』では、不妊去勢手術をした猫しか譲渡しないようにしています。譲渡の際には、全ての保護猫に必要な医療処置や、飼い主情報等を記録したマイクロチップを埋め込み、その子が天寿を全うするまでフォローします。時間も労力もかかりますが、このような取り組みが多頭飼育崩壊の防止に役立っているのではないかと思います。多頭飼育崩壊でレスキューした猫たちを、崩壊者と会わせるという取り組みもしています。それまで『返してほしい』の一点張りだった崩壊者も、新しい環境でも猫たちが幸せそうにしていることが徐々にわかり、手放すことに納得していくんです」
猫の保護をしている川崎市動物愛護センターの小倉充子所長が語る。
「引き取った猫はワクチンも打つなどし、すっかり健康になります。ただ、やはり人に触れられることに慣れていないため、両手で抱えると不安そうな顔をするんです。警戒心も強く、決して人間に近づこうとしない。かわいそうで見ていられません」
動物愛護法違反は最長でも懲役2年。
罰金で済むケースも多いという。

※女性セブン2018年3月15日号


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