老猫を家族で見送った日 青空に浮かんだ水色の光
2018年2月17日(土) sippo(朝日新聞)
老衰のため、だんだんと起き上がるのが難しくなったソマ
転落事故で三本脚になった猫ソマ。
以来、大きな病気もなく、よく食べよく遊び、元気に過ごしてきた。
だが16歳になると、徐々に足腰が弱くなり、横になっている時間が増えた。
「もう先は長くないかも」。
僕たち家族は、少しずつ覚悟を決めていった。
ソマは2016年7月ごろから、トイレの段差が越えられなくなり、段ボールや新聞のあるところでそそうをするようになった。
立つこともままならず、いろいろなところで寝そべるようになった。
かかりつけの獣医師に相談すると、「ソマリの平均寿命は13歳ぐらいだから、老衰でしょう。今は延命治療もできますが、それが良いとは一概に言えません。どうするか、ご家族で考えておいてください」と言われた。
家族4人で話し合った結果、「延命治療は望まず、自然な流れに任せる」という方針に決めた。
それから1か月、これと言って大きな変化はなかった。
しかし8月に入ると少しずつ何かが変わり始めた。
まるで死ぬ準備をしているかのように・・・。
これまではソファーの上に寝ていることが多かったが、食卓の下に寝るようになってきた。
体が冷えないように、食卓の下に段ボールを置いた。
安心できるのか、1日の大半はそこで過ごした。
そして僕たち家族との接触も減ってきた。
ソマの「そっとしておいて」と言う声が聞こえるようだった。
昔から「猫は死に目を見せない」と言われる。
なるべく構わないようにした。
8月もお盆を過ぎると、歩いているといろいろな所にぶつかるようになった。
どうやら視力がかなり衰えてきたようだ。
顔つきもいつもと違う。
よく見ると、昼間の明るい時でも瞳孔が開きっぱなしになり、細く閉じなくなっていた。
「あぁ、もうあまり長くないのかな」。
家族4人は、徐々に覚悟を固めていった。
それでも歩いては転んで、起き上がっては歩き、また転んで、餌を食べに来る。
この食べっぷりを見ると、「もう少し頑張ってくれそう」と希望をもつこともあった。
ただ、食後はさすがに段ボールに戻る気力はなく、餌の皿の横でひっくり返り寝そべっていた。
それから数日後、ソマは全く立てなくなった。
それでも餌を顔に近づけると完食。
そして自分は歩いているつもりなのか、「エア歩行」のように、ずっと寝たまま足を動かしていた。
生きること、死にゆくことを教えてくれた猫
そして8月25日の朝。
この日も、餌を完食した。
少しだけ呼吸が荒いが、まだ数日は頑張ってくれそうに見えた。
妻はその日の夜、大事な用事があり、次女が家にいてくれる、ということで外出した。
出先から頻繁にLINEを入れる。
次女からは「ソマ頑張っているよ」「大丈夫だよ」と返信が来た。
妻が帰ってきた。
すると帰りを待っていたかのように、事態が急に動き始めた。
突然呼吸が荒くなったり、浅くなったり、を繰り返す。
そしてビクビクとけいれんが始まる。
もうダメかもしれない。
「ソマ!、ソマ!」。
妻が抱きしめる。
目は開いてはいるが、もう何かを見ようという感じではない。
僕、長女、次女と、家族ひとりずつソマを抱きしめた。
「ソマ、今までありがとう」「ソマ、大好きだよ」「ソマ、死んじゃいやだー」。
赤茶色の毛をいとおしくなで、頬ずりする。
家族でソマを囲み、その一瞬を大切に過ごした。
30分ぐらいすると、身体が突っ張り始め、尿がツーと漏れた。
いよいよか。
浅い呼吸を数回した後、深いため息の様な呼吸をして、息が止まった。
「今、旅立ったね」。
4人とも、涙を流していた。
8月26日午前零時25分ごろだった。
大切なソマを失うことは、言いようもないほど悲しい。
でも最後に家族全員で見送ることができた。
みな死を穏やかに受け止めることができた。
そしてソマは私たちに、老いることや死にゆく様を学ばせてくれた。
見送った日、青空に瞳のような光
亡くなってから6日間、火葬場が空かず、ソマは自宅でドライアイスに囲まれて過ごした。
8月31日、ようやく「虹の橋」を渡ることができた。
無事に天国に届けてもらえるようにと、黒いネコさんの宅急便の箱に入れた。
「僕たちがそちらに行ったら、これを持って迎えに来てね」と、深紅のバラを両手で持たせて送った。
送り出す際に、ソマのまわりを花で彩ってあげた
この日は快晴。
骨壺に納め火葬場を出ると、あまりにもきれいな空。
ソマが昇っていった記念に、空の写真を撮った。
同行してくれた妹が撮った写真に、不思議なものが映り込んでいた。
拡大してみると太陽を射るように虹色の光が通り、その上にはソマリの特徴である「アーモンド型の瞳」の形をした水色の光が映っている。
「パパ、ママ、心配しないで! 僕は無事に虹の橋を渡ったよ!」。
その光は、ソマからのメッセージだと信じている。
火葬の直後、太陽を射抜いた虹色の光と、アーモンド型の水色の光
【写真特集】いのちについて教えてくれたソマ
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老猫を家族で見送った日 青空に浮かんだ水色の光
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