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多頭飼育崩壊(神奈川)

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「多頭飼育崩壊」相次ぐ 県は悲劇なくせるのか
 不妊去勢手術必要など「知識の欠如」7割 /神奈川

2018年1月19日(金) 毎日新聞地方版


県動物保護センターの検査室は「猫舎」として使われ、保護された猫で満杯に近い状況だ=平塚市の県動物保護センターで

劣悪な環境で大量に増えた犬や猫を飼い主が飼育できなくなる「多頭飼育崩壊」が、県内で次々と表面化している。
県内の保護団体は犬猫の里親探しに奔走するが、運営は限界に近い。
県は対策として昨年末、犬猫を多く所有する飼い主に事前届け出の義務を課す方針を表明。
崩壊の受け皿となる県動物保護センターの建て替え計画も鍵を握る。路頭に迷う犬猫と疲弊する保護団体。果たして、県の一手で悲劇をなくせるか。
【堀和彦】

昨年12月17日、平塚市にある県動物保護センターの会議室に、ケージに入れられた猫が次々と運び込まれた。
鎌倉、大和両市で同月に相次いで発覚した「多頭飼育崩壊」で行き場のなくなった猫42匹の一部だ。
小ぎれいな猫もいれば、奇形や全身ノミだらけの猫も。
この日、開かれたのは、引き取り手を探す「緊急譲渡会」。
訪れた里親希望者は、ケージの中のつぶらな瞳に視線を注いだ。
「この5、6年で一気に増えた。今後も、もっと表面化してくるはず」。
主催した保護団体「たんぽぽの里」(相模原市中央区)の石丸雅代代表(52)は、頻発する「崩壊」に困惑を隠せない。
多頭飼育崩壊は、飼い主が不妊去勢手術を怠るなどして膨れ上がった犬猫おおむね10匹以上を飼育できなくなる状態を指す。
12月の両市のほか、10月にも寒川町で30匹の犬の行き場がなくなった。
飼育できなくなる理由は、飼い主の病気や死亡、逮捕・勾留などさまざま。
劣悪な環境で育てられる例もあり、汚物が積もる部屋で、病気を抱えながら生きる犬猫もいる。
環境省の2016年度の調査では、犬猫2頭以上の飼い主などに対する自治体への苦情は1991件あった。
多頭飼育に至った要因は、不妊去勢手術の必要性などの「知識の欠如」が7割を超えた。
動物愛護法では、周辺環境の悪化や動物虐待の恐れがある場合、行政は飼い主に罰則付きの措置命令などの行政指導ができる。
しかし、立証は難しい上、室内で人知れず飼育されることも多く、把握できないケースも多い。
県では措置命令などの行政指導を行った例がなく、担当者は「社会問題であり、対策を進める必要がある」と不備を認める。

事前届け出義務化へ 自治体が情報共有し連携
これまで「崩壊」に対処してきたのは主にボランティアたちだ。
石丸さんは昨年、8件の「崩壊」現場から猫を救出した。
相模原市内のシェルターで猫を育てるが、重篤なケガや病気の猫も多いため医療費がかさみ、預貯金を切り崩す毎日。
「この問題をボランティアだけが抱えるのは間違い」と、行政の日常的な実態把握と適切な指導を求めている。
こうした声を受け、黒岩祐治知事は昨年12月の定例県議会で、多頭飼育に事前の届け出義務を課す検討を始めたことを明らかにした。
「行政が把握した時点で崩壊状態になっていることもあり、早期に情報を把握することが重要」と述べ、未然防止に全力を挙げる構えだ。
全国8府県が条例に既に盛り込んでおり、先行例を参考に定める。
県内で活動する動物保護団体、アニマルプロテクションの原奈弓さん(47)は事前届け出制に期待を寄せつつ、「飼い主を指導する自治体が情報を共有し、連携する必要がある」と指摘する。
自治体によっては、飼い主の家庭崩壊などにより、福祉部局が動物愛護部局より先に「崩壊」の兆候を把握しているケースもあるという。
環境省は来年度から、情報共有についての自治体向けガイドラインの作成を検討する。
黒岩知事も「条例に盛り込めば済む話ではない。体制的にどうすればいいか検討したい」としている。
県は今後、市町村やボランティア、県獣医師会などと情報共有するための体制整備も検討する。

「生かすための施設」へ 保護センター建て替え
不幸にも「崩壊」が起きた場合の受け皿となるのは県動物保護センターだ。
県は2019年度のオープンを目指し、建て替え計画を進める。
殺処分のための施設から「生かすための施設」への転換を掲げ、新たに焼却炉は作らず、犬猫の生活環境を充実させ、譲渡の機会も増やす。
整備総額約18億円の巨大プロジェクトだが、職員などの体制はまだ決まっていないという。
不妊去勢手術を施す獣医師の数を含め、「ソフト面」の充実が課題となっている。
同センターは犬は4年連続、猫は3年連続で「殺処分ゼロ」を継続するが、県の担当者は「なんとかボランティアの協力でゼロを続けている。いつも綱渡りで厳しい状況」とうち明ける。
昨年度は5件の「崩壊」に対処し、猫の引き取り数は前年度から119匹も増えた。
今年度も一度に20匹が崩壊現場から収容された事例もあった。
ケージ置き場が不足し、世話をする職員も間に合っていない。
寒川町で昨年10月に犬30匹の行き場がなくなった。
本来、犬は保健所を経てセンターに収容されるが、30匹を一度に収容するスペースを確保できなかった。
無理に収容すれば命が危うく、保健所は、原さんのサポートを受け譲渡会を初開催。
多くの犬の命がつながった。
原さんは「職員も少なく、体制構築が急務」と指摘する。
横須賀市を拠点に、犬をセンターから里親につなげる活動を行うNPO「KANAGAWA DOG PROTECTION」の菊池英隆さん(46)は「ハコができるだけでは意味がない」と話し、行き場のない動物を1頭でも減らす施策を求める。
「シェルターがなくなることが目標で、将来は私たちボランティアがいなくなればいい」と願う。


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