犬の起源
犬は、こうして犬になった
犬(イエイヌ)の起源には2つの説があります。
一つは、大昔に生息していた「トマークタス」というイヌ科動物の祖先から、オオカミやジャッカル、野生犬などに分かれ、独自の進化やオオカミとの交配によって、犬になったという説。
もうひとつは、人がオオカミの子孫を育てて犬をつくったという説です。
イスラエルにある1万2000年前の遺跡から、人と一緒に埋葬された子犬の骨が発見されていますが、人が犬と暮らし始めたのは、今から3万年前の旧石器時代の中央アジアだと言われています。
その頃、人は狩りをして生活していましたが、人が食べ残したものを求めて、犬の祖先が寄ってくるようになりました。
そのうち、犬が吠えて危険を知らせたり、狩猟にも役立つことに気づき、おだやかで人なつこい性格のものを、人が何代にもわたって飼い慣らし、現在の犬(イエイヌ)になったと考えられています。
犬の祖先、オオカミ
古代のエジプト、ヨーロッパで活躍した犬
古代エジプトでは、イヌ科動物は特別な存在で、ジャッカルもしくは犬の頭をもつ「アヌビス」という神が、死者の霊魂を導く案内役として崇められていました。
犬は王侯貴族たちから大切に育てられ、グレーハウンド系統の犬をウサギ狩りの猟犬としたり、マスチフ系統の犬をライオンと闘わせたり、小型犬を貴婦人たちの愛玩犬としていた様子が当時の壁画に残っています。
また、船による交易がさかんだった古代地中海世界から、交易ルートに乗って犬たちがヨーロッパ全域に伝えられました。
古代ローマ初期には、モロシア犬というマスチフ系統の大型の犬が軍用犬として、ローマ軍遠征に同伴。
遠征途中で各地に放置され、地元の犬と交配しながら、その地域独自の犬種が作られていきました。
ほかにも、中央アジアからの民族大移動によって、さまざまな犬が連れて来られました。
王朝時代の東洋では、犬は隣国への貴重な贈り物
ヒマラヤ北部のチベット高原は、チベタン・マスチフをはじめ、古くからいろいろな犬の原産地でした。
古代チベットでは、親交を深めるために、隣国へ貴重な犬を寄贈していました。
その一つがラサ・アプソ。
この犬が中国に渡って地元の犬と交配・改良され、シー・ズーやペキニーズになりました。
日本には、奈良時代、朝鮮の新羅国から中国伝来の小型犬が寄贈され、天皇家や皇族などで大切に飼育されました。
その犬を巧みに交配させ、江戸時代に誕生したのが、日本独自の犬種・狆(ちん)です。
人と犬との深い関わりによって、多様な犬種が誕生
犬種改良は、中世以降のヨーロッパ、とくにイギリスで熱心に行われました。
コリーなどの牧羊犬、ウェルシュ・コーギーなどの牧畜犬、各種テリア、イングリッシュ・ポインターを代表とする鳥猟犬など、イギリス人は犬の特徴・個性を伸ばすことで、特定の犬種を作り出しました。
一方、ドイツ人は万能犬を作ることに熱心でした。
牧羊犬だったジャーマン・シェパードは、後に軍用を目的に、探索、追究、攻撃、運搬、監視などさまざまな性能をもつ万能犬に。
また、鳥猟犬でもポイント・追跡・回収ができるだけでなく、イバラの茂みでもびくともしない頑丈な体と針金のような被毛をもったジャーマン・ワイヤーヘアード・ポインターなども、ドイツ原産です。
このように、犬はつねに人々と行動をともにし、さまざまな役割を与えられる中で、多様な犬種が誕生していったのです。
現在、国際畜犬連盟公認の純血種は約340種と言われています。
取材協力 : 獣医師 富澤 勝 先生