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はしもとみおさんの動物彫刻個展(名古屋)

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いとおしさ、動物彫刻に はしもとみおさんが名古屋で個展

2017年12月1日(金) 中日新聞


アトリエで作品に囲まれるはしもとみおさん=三重県いなべ市で

くるんと巻いたしっぽにつぶらな瞳の柴犬。
今にも鳴きだしそうなキジ猫。
リアルであたたかみのある動物彫刻の数々は、人気の若手作家・はしもとみおさん(37)の作品だ。
名古屋市東区のヤマザキマザック美術館で始まった個展「木彫りどうぶつ美術館 はしもとみおの世界」を前に、三重県いなべ市の自宅兼アトリエを訪ねた。
個展の開幕まで一カ月を切った10月下旬。
はしもとさんはアトリエで、手のひらサイズの雑種犬の像を彫っていた。
飼い主の依頼で大切なペットの姿を刻む「肖像彫刻」の制作だ。
写真を見つつ、愛用の彫刻刀を迷いのない手つきでザクザクと振るっていく。
「長く考えすぎるとろくなことがない。直感でズバッと入れた彫りが、たいてい正解です」と笑う。
クスノキの塊から一気に形を彫りだす大胆な手法が持ち味だが、できあがった彫像は、ていねいな彩色とあいまって、まるで生きているかのような質感をまとう。
そうしたできばえを裏打ちするのは、対象の動物をしっかり観察するという具象彫刻の基本だ。
「性格や動き方によって、本当に一匹一匹、彫り方が変わるので」と明かす。
自宅は田畑に囲まれた古民家。
「たくさん動物がいるところで仕事がしたい」と移り住んできて今年で4年目に。
室内では、個展の会場へ運び出される動物たちが、まきストーブのぬくもりに包まれていた。
出身は兵庫県尼崎市。
獣医師を夢見る動物好きな少女だったが、中学三年の冬に阪神大震災に遭遇した。
かわいがっていた近所の犬や猫は、一匹残らず姿を消した。
命を落としたのか、無事に逃げたのか分からない。
「もう一度彼らに会いたい」と思った。
「獣医師も、なくなった命は救えない。でも彫刻で形を残せばずっとその子に会えるし、なでてあげられる」
もともと「がり勉タイプで、手先は不器用」だったが、この体験をきっかけに美術の道を志す。
東京造形大と愛知県立芸術大大学院で彫刻を専攻し、大学の在学中に個展を開くなど、早くから注目を集めてきた。
その創作活動を支えてきたのが愛犬「月くん」。
胸に三日月の模様がある黒い柴犬で、学生時代に飼い始めた。
大学への行き帰りをはじめ、美術館や旅行も一緒に出かけ、スケッチや彫刻のモデル役も務めた。
自身のブログでは<私は月のデッサンを、1000枚は描いたでしょうか。大学時代は、月くんとともに、デッサンを鍛え、いつか最高の犬が作れる彫刻家になりたいと、夢を膨らませていました>とつづる。
はしもとさんの創作を象徴する存在でもあったこのかけがえのないパートナーが、今年8月に死んだ。
15年近くもともに生きてきた愛犬への追悼を込めて、今回の個展ではこれまで制作した「月くん」の彫像を初めて一堂に展示することにした。
その初日、記者も会場に向かった。
展示室には、動物彫刻とデッサン約250点が並ぶ。
食卓を囲む犬。
ベッドにねそべる野良猫のボス。
今にも動きだしそうな作品の数々の最後を飾るのは、やはり「月くん」だ。


「月くん」をモデルにした作品の数々=名古屋市東区のヤマザキマザック美術館で

あどけない子犬の頃から落ち着いた老年期までの彫像5点とスケッチ。
うち一つは、大学2年の時に初めて彫った“原点”ともいえる作品だ。
しばらく見つめていた作家は「この時の目線のまま、ずっと彫り続けています。これからも同じ目線で、動物や自然を見ていきたい」と語った。
会場には先月から飼い始めた「二代目月くん」の像もある。
いとおしいものとの別れや出会いを胸に刻みつつ、自身の創作を追い求める表現者。
その作品世界を伝える優れた展覧会だ。
会期は来年2月25日まで。
有料。
月曜と年末年始休館。
問い合わせはヤマザキマザック美術館=電052(937)3737=へ。
(川原田喜子)


写真を見ながら犬の彫刻を仕上げる=いなべ市で


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