ベトナムのゾウを守ろう 元教師の日本人女性が奔走
2017年10月28日(土) 朝日新聞
牙を傷つけられたゾウをいたわる新村洋子さん=2016年3月、ベトナム・ヨックドン国立公園、佐々木学撮影
ベトナムで絶滅の危機にさらされているアジアゾウの保護に、元教師の日本人の女性が奔走している。
「ゾウの暮らす森を破壊することは、人間の暮らしも脅かすことになる」。
77歳の女性の訴えに、ゾウと家族のように暮らしてきた地元住民らも触発され、保護活動が進む。女性はこの秋、活動を本にまとめた。
ベトナム中部のダクラク省とダクノン省にまたがる地域には、その大半が国立公園に指定される「ヨックドンの森」が広がっている。
東京都国分寺市の元小学校教諭・新村洋子さん(77)は、この森にすむゾウを守るために2002年からベトナムに通っている。
今年9月、その活動を「どこに行ってしまったの!?アジアのゾウたち」(合同出版)にまとめた。
森には、昔からゾウと家族のように暮らす少数民族がいる。
ゾウは木材を運んだり、農作業を手伝ったり、人間の暮らしを支えてきた。
豊かな森で暮らす野生のゾウもいる。
しかし、1975年のベトナム戦争終結後、経済成長のためにゾウのすむ森林が開拓され、象牙を目的とした密猟も横行した。
ダクラク省には75~80年、野生のゾウが1500~2千頭生息していたとされるが、2004年には76~94頭に激減。
飼育されているゾウも労働が優先で繁殖が進まず、60頭弱とされる。
新村さんがゾウの保護を始めたきっかけは、定年後に趣味で始めた写真撮影のためにベトナムを訪れたときのこと。
森でゾウ使いを背中に乗せて悠々と歩く一頭のゾウに心を奪われた。
ゾウをレンズで追うと同時に、ゾウが減っている実情を知った。
写真絵本を06年に出版。
09年にゾウ保護団体「ヨックドンの森の会」を立ち上げ、絵本をベトナム語にも訳し、現地の子どもたちに1千冊を寄贈した。
【写真】負傷した子ゾウを見舞いに、保護センターを訪れた新村洋子さん=2016年3月、ベトナム中部ダクラク省ブオンドン、佐々木学撮影
【目次】
第1部 アジアゾウとの出会い
第2部 アジアのゾウはいまどこに?
第3部 アジアゾウを保護するために
第4部 日本からのアジアゾウ保護活動
第5部 いま、地球上にいるゾウたちのこと
解説 地球上からゾウを失わないために──楠田哲士(岐阜大学応用生物科学部准教授)
新村洋子(にいむら・ようこ)
ベトナムのアジアゾウ保護 ヨックドンの森の会代表。
写真家/絵本作家。
1940年生まれ。
2009年4月、ベトナムという国やゾウが好きな仲間と一緒に「ベトナムのアジアゾウ保護 ヨックドンの森の会」を設立して、ゾウの保護活動に取り組んでいる。
主な著書:『象と生きる』(ポプラ社、2006年)、ベトナム語版『タイグェンのゾウ』(ハノイ・キムドン社、2013年)。
■研究や自然保護活動の実績
・2006年:写真展「象と生きる」を開催。東京銀座富士フォトサロン、福岡富士フォトサロンなど。『象と生きる』(ポプラ社)刊行
・2007年:写真展開催。浅草松屋デパートギャラリー、伊那市かんてんぱギャラリー、その他、東京都内、伊那市、三郷市、神戸市など。
・2009年:「ベトナムのアジアゾウ保護 ヨックドンの森の会」設立に加わり、ゾウと森の保護活動に携わる。イ・ジュット小学校で子どもたちの感想発表を基にした授業を行う。
■著作、講演、TV出演など
・2004年:NHKラジオ深夜便「ないとエッセイ」でベトナムゾウとの出会いを語る。
・2006年:ポプラ社から『象と生きる』出版。同書が第18回毎日新聞社、全国学校図書館協会共催読書感想画コンクールの高学年の部指定図書となる。
・2008年:伊那市まほらいな市民大学で講演「象と生きる」。以後、都内、伊那市、神戸市の小、中、高校で講演及び公開授業、伊那弥生ヶ丘高校文化祭2年連続で写真展とチャリティーバザー。
・大妻女子大学で講演と講義、2年連続「ベトナムのアジアゾウ保護活動」。
・2013年:国際ソロプチミスト国分寺・同伊那市で卓話とチャリティーバザー。キムドン社からベトナム語版『タイグェンのゾウ』出版。