【イマドキの仕事人】
犬猫のリハビリ師、飼い主もリハビリ
2017年9月25日(月) Sponichi Annex
ペットにもリハビリが必要と語る長坂佳世さん
ここ数年、ペットブームが続いている。
いまや3軒に1軒が何らかの動物を飼っているという。
そんな中、犬猫専門の“リハビリ師”が注目を集めている。
ケガや手術の影響で低下した運動機能回復に一役買うだけでなく、意外な効果をもたらす人物でもあった。
動物病院を訪れたのに、診療室感はゼロ。
あるのはランニングマシン、バランスボールといった道具がズラリ・・・どちらかというとスポーツジムといった雰囲気だ。
ランニングマシンで歩行練習をする9歳のミニチュアダックスフント「小麦」の後肢を手で支え、歩行を手伝う犬猫専門リハビリ師・長坂佳世(43)の姿があった。
右、左と確実にゆっくり一歩ずつ前に出すことを繰り返す。
地道な動作だが「後肢の股関節を歩く角度に開かせ、脊髄に歩く状態を覚えさせる。神経機能の改善が目的です」とほほえんだ。
小麦の前には飼い主の川上尚子さんが陣取り、おやつを手に持ち「頑張れ!」「いい子」と声をかける。
小麦は2014年2月に背骨と背骨をつなぐ椎間板が破裂し、手術を受けたが、飛び散った椎間板は脊髄を傷つける重傷で後肢にまひが残った。
翌月には長坂の元へ。
マッサージや運動法などを指導され、少しずつではあるが後肢にも筋肉が付くなど改善の兆しも。
月1回ペースで通院する川上さんは「また歩けるようになるかもしれない。そんな希望を持っています」と力を込めた。
長坂はペットだけを預かり治療することはせず、全てを飼い主と一緒に行う。
家庭でのセルフケアには、飼い主の協力が不可欠の上、何げない会話の中から、普段どんな様子で生活しているのかが分かることも多いからだ。
「リハビリは何よりも毎日の積み重ねが大切。飼い主さんが無理なく続けられるよう、マッサージ法などをアドバイスしています」
マシンから電気バリでの治療に移った小麦は、気持ちよさそうに目を閉じた。
2013年7月に、犬と猫専門のリハビリ病院「D&C フィジカルセラピー」(東京都杉並区)を開業。
リハビリテーション科を併設する動物病院は増えているが、リハビリに特化した病院は日本初だった。
エックス線の撮影や血液検査、予防接種は行わない。
専門とした理由を長坂は「ペットも病院に来ると緊張したり、他の動物がいると気が散ったりする。
リラックスした状態で治療に集中できる環境にしたかった」とメリットを説明した。
犬猫専門をうたっているが、来院するのは犬が98%。
これまでに約200頭を治療した。
多いのは椎間板ヘルニア。
小麦と同様に椎間板破裂で外科手術を受けた後や、高齢になり人間でいう腰痛治療を終えたペットたち。
特に手術直後は安静を強いられるため、動かない→筋肉が弱る→体が固まる→歩けなくなる・・・と負のスパイラルに陥るケースも。
犬種に応じた方法で、落ちた運動機能をいかに回復させるかが「リハビリ師の腕の見せどころ」と笑った。
00年に国家試験合格後、獣医師として複数の動物病院で経験を重ねるうち「手術後や治療が終わったペットへのケアが、不十分なのではないか」との疑問が頭をもたげた。
治療の幅を広げたいとの思いもあり、ペットのリハビリを学ぶため、早速、渡米。
獣医鍼灸(しんきゅう)認定医資格、マッサージ治療認定資格を次々と取得した。
東京都八王子市にある動物病院の院長から「リハビリをやりたいなら来てほしい」とのオファーを受け、08年に“リハビリ師”としての一歩を踏み出した。
独立して開業した医院は、父親が経営していた電気店を改装。
1年目こそ来院数は少なかったが、2年目にテレビで取り上げられたことがきっかけで、全国から問い合わせが急増。
今では、週末は予約で埋まるほどの人気ぶりとなった。
命を扱う繊細な仕事。
とはいえ気を使うのはペットよりもむしろ、飼い主に対してだという。
「心配や困り事を抱えているのは、ペットではなく飼い主さんの方。そんな思いをほぐしていくことも重要なんです」
そういえば小麦の飼い主・川上さんは「病院に来ると“先生、今月の成果見て!”って言いたくなっちゃう」と楽しそうに話してくれた。
ペットには運動系のリハビリ、飼い主には心のリハビリ・・・懐の深さもリハビリ師には必要だということを感じさせた。
=敬称略=
《週4日で完全予約制》「D&C」の診察は木~日曜日の週4日間。
1頭ずつ十分な時間を取るため、完全予約制で診療を行う。診察内容にもよるが、料金は1時間で1万円弱。
長坂によると、現在のところリハビリ専門医院は「D&C」のみで、新潟県に訪問介護を行う“リハビリ師”はいるという。
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犬猫のリハビリ師
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